30 ポスカの思惑。
「お、おい!! 危ないぞ?!」
俺達が目の前に現れた滝の姿に言葉を失っている中、先頭を行くシャナは躊躇なく滝壺へと足を踏み入れた。
だが、声を上げた俺も次の瞬間には自分が発した言葉が無用の心配であったことを悟る。
なぜなら滝壺へと進んだシャナは水の中に沈むことも無く、水面を歩いていたのだ。
「これは一体……」
「ハハハハハッ、すまぬな! この滝は我らの魔法で作り出した幻影。里をそう簡単に見つけられては困るからな!!」
「幻影って……。水飛沫はきちんと冷たいぞ??」
「だからこそここを発見した者は誰もが本当の滝と思い詮索しないのだよ」
幻影ってそんなことまで出来たっけ?? いや、まだ俺が知らない魔法がこの世にはいくつもあるのかもしれないな……。 自惚れは禁物だ。
「では、まずはレディーファーストということでエイラ君とルルミア君! 君達から付いて来てもらえるかな??」
シャナは水面を進みながら俺の言葉に答え終えると振り返り、俺の隣にいるエイラとルルミアへと右手を向けた。
ルルミアはシャナの言葉に一瞬警戒するような表情を浮かべるが、エイラは好奇心には勝てないのか目を輝かせ滝壺へ進んでいく。
これにはルルミアもただただ呆れるしかないのだった。
「ちょっと、エイラさん!! ……全く、少しは疑うってことを学ばないとだめね」
まぁ、エイラさんは妖精族。闇妖精族とはいえ、久しぶりに同族と会ったことで嬉しいのかもしれないわね。
「タイチ様……」
「はぁ……、ほんと、エイラには敵わないな。ルルミア、一緒に付いていてくれるか??」
「分かりました」
ルルミアは俺に困ったように視線を向けるが、ため息交じりに俺がエイラについていくように頼むとどこか嬉しそうにエイラの元へと進んでいった。
恐らく彼女も水面の上を歩く、そんな光景を目の当たりにしたため理性では警戒をしていたが、実のところは滝壺へと向かいたかったのだろう。
ルルミアはエイラの後を追い意を決したように滝壺へと足を踏み入れ、自分が水面の上に立っていることに嬉しさが隠しきれないようだった。
「まったく、あのようにはしゃぐとはルルミアもまだまだ子供ですね」
「ははっ、まぁそう言うなよルナ。ルルミアも年頃の女の子だ、こういう神秘的な物には目がないんだろ」
「ほぉ、そんなものですか」
「ああ、そんなもんだよ」
ルナは俺の方に飛び乗り腕を組むと、ルルミアとエイラを見つめながら呟く。
しばらくして、ルルミアが既にシャナの側まで進んでいたエイラに追いつき滝壺の中央付近で立ち止まる。
するとシャナは俺の側にいた闇妖精族達に目配せをしたかと思うと、彼らは一斉に篭手を頭上に掲げた。
ザァァァァァ!!!
彼らの手は光を放ち始め、それと同時に滝壺の水が膨れ上がり一瞬でエイラ、ルルミア、そしてシャナを飲み込んでいった。
この一連の動きを見ていた俺達はそこでようやく気を取り直し、エイラ達を救おうと滝壺の中へと進もうとするが近くにいた闇妖精族に制止される。
「おい、一体何をしたんだ!? あれじゃエイラとルルミアが……!!」
「お待ちくだされ! お二人に危害は加えません。もうしばらくお待ちを!!」
「おいおいまじか……。旦那、あれを!!」
……なんだ?? ファンネルの顔が赤く染まって……。
シュゥゥゥゥ……。 側まで進んできたファンネルの言葉で再び俺が滝壺へと視線を戻すと、既にエイラ達を包み込んでいた水は元通りの姿へと戻り始めていた。
だがここで俺は何故ファンネルの顔が赤くなっていったのか理解する。
何故なら、水の中から出て来たエイラの服が徐々に溶け始め、裸同然の姿へなりつつあったからだ。
エイラも自分の異変に気が付いたのか、腕で胸などを隠すとその場にしゃがみ込んでしまった。
「きゃぁぁぁ!! なんで服が……」
「だ、大丈夫かエイラ!!」
「タ、タイチ様!? いや、タイチ様はこっち見ないで!!!」
えぇぇぇぇ……。心配しただけなのに……。
もしかしてこの前みたいに俺が創造を解除したと思って……、そ、そうか!!
俺はこちらを涙目で見つめるエイラの視線を受けつつも、エイラに視線を向けないように滝壺の中に進入。シャナへと口を開き尋ねた。
「もしかしてこの水は魔法の効果を解除させるのか??」
「フフフッ、流石はタイチ君だ。その通り、この滝は我らが作り出した魔法 真実の滝(トゥルー・フォール)。この滝の水は中級以下の魔法を全て洗い流すのだ」
「中級魔法以下すべてか……」
「その通り! まぁ、上級魔法を使うような相手には通じないがな。」
なるほどそれでエイラの服が消えてしまったのか……。創造は確か中級魔法だったからな。
「そう言うことは早く言ってください!! タイチ様、早く服を元に戻して~!!!」
「そうですよ!! エイラさんをこんな目に合わすなんて、このエロ親父!!!」
「なっ!! エロ親父とは心外だ……! だがすまぬ、まさか服を魔法で作っているとは思わなかったのだ……。それに本当の事を言っては魔法洗いの対策をされたかもしれぬし……」
ハハハハッ……。シャナの奴、いい気味だな。
まぁ、良い物見せてもらったお礼だ! 俺からはこれ以上は何も言わないでいてやる。
ヴゥゥゥゥン。 俺は心の中ではシャナに親指を立てながらもそれを表情に出すことなく、創造でエイラに再び服を作った。
エイラも自分の体にいつもの服が戻ったことで、ようやく腕を離し立ち上がたったが、その目は軽蔑の視線をシャナに送っている。これは隣のルルミアも同様であった。
「ま、まぁ2人ともそう怒るなって。この人も悪気があったわけじゃないって言ってるんだし・・。それに俺はこういうこともあるから服を買っておけって言わなかったかエイラ??」
「うっ……。はい、言いました……。でもこの服はタイチ様が作ってくれた大事な物なんです! だから……、グスッ」
そ、そんな目をされたら怒れなくなるじゃないか……。
はぁ、俺って何だかんだでエイラに弱いよなぁ。
「わ、分かった、分かったから泣くなって! こ、今度から気を付けような??」
「はい……、グスッ」
エイラは俺に怒られたことと、多くの人に自分の裸を見られたことによる恥ずかしさで涙を浮かべるが俺の言葉を受け涙を拭い小さく笑みを浮かべる。
でも、この水はマズいな……。死者の反逆は上級魔法だから流れることは無いけど俺の服と鎧、あとルナの体は創造で作ったもの。
この仮面の下は目玉むき出しのグロ顔だし、ルナの本当の姿は金ピカ鎧のアンデッド。
魔法を使おうにも今の俺には中級魔法までしか使えないから意味がないし・・・、どうしたもんかな・・。
「ご、誤解も解けたようで良かった。しかしそうなるとお主の服や防具ももしや魔法で作ったものなのか??」
だがここで俺達の会話を聞いていた、未だエイラとルルミアに刺すような視線を向けられいるシャナから助け船とも思える言葉が出てきた。
これはチャンスだ!! 上手くいけばさっきの魔法を受けずに済むかも……。
「そ、そうなんだ!! だからもしさっきの魔法を受ければ俺も裸に……」
「なんと!! それは由々しき事態だな。これ以上娘達に変態呼ばわりされるのは私としても不本意ではない。よし、今回は特別に魔法洗いを通らずに里へ入ることを許可しよう」
「シャナ様!? それでは掟に反することに…………」
「なに、掟など最早意味のないこと。我らは時機にここを離れるのだからな。 それにタイチ君はエイラ君が裸になった時この滝壺へと駆けこもうとした。そんな者が我が里を危険に晒すとは考えにくいからな」
いや、それはただ魔法洗いとやらを知らなかっただけなんだけど……。
それより気になるのが、ここを離れる……? どういうことだ??
「……分かりました」
俺はシャナの言葉に若干の疑問を抱くも、今は正体がバレる最悪の事態を回避できたことに胸を撫で下ろした。
闇妖精族達も族長であるシャナの決定には逆らえない。彼らも続々と滝壺の中へと進んでくるが、その中にはファンネルとポスカの姿もあった。
「それじゃあ、早く行こうぜ! 俺もうクタクタでさ……」
「おっと、言い忘れていたが私が通過を許したのはタイチ君達だけだ。お前達は掟通りここで魔法洗いを受けてもらうぞ! ハハハハハッ!!!」
『はぁ!? なんでだよ……、ッゴボゴボゴボ』
ザァァァァァ!!! シャナの言葉で闇妖精族達が手を上げると同時にファンネルとポスカは文句を言う暇もなく水の中に包み込まれる。
その光景にシャナは大きく笑い声を上げ目の前の滝に右手を向ける。すると滝がゆっくりと左右に分かれ、向こう側に大きな洞窟が現れるのだった。
「では、我らは先に参ろう」
この先が妖精族の隠里……。もしかしたらエイラの故郷に繋がる情報も得ることが出来るかもしれない。
俺はシャナの後に続き、洞窟の中へと進んでいくのだった。
「はぁ、はぁ……。ひどい目に遭ったぜ!」
「まぁそう言うなポスカ。お前はいつも文句ばっかりだな」
くっ、ファンネルの野郎。いつもリーダー面しやがって……。でも今に見てろ、俺は時機に大物になるぜ。
魔法洗いの儀式を終えたファンネルとポスカは、闇妖精族に続き俺達が既に通っていった洞窟の中を進んでいた。
洞窟内は魔法なのか歩くと地面が光り、松明も必要なく進むことが出来る。
ポスカはファンネルの言葉に切れかかるも何とか堪えると、彼の後方に周り闇妖精族達も自分を見ていないことを確認したのち懐から一枚の紙を取り出した。
あの顔、始めて見た時からどこかで見たと思っていたんだ。
でも髪の色も長さも異なっていたから分からなかったが、まさか魔法洗いのお陰でその正体に気づかされるなんてな。
髪は切ったようだが、あの金髪。彼女に違いない!!
「……へへへ! 俺にもつきが回ってきたぜ。これで大金持ちの仲間入りだ」
「なんだポスカ、何か言ったか??」
「いや、何でもない。さぁ、先を急ごう」
「あ、ああ……」
ファンネルの言葉にポスカは何事もないように答えた。
しかし長年の付き合いからかファンネルはポスカの様子の異変に気が付くも、何を考えているのかまでは分からなかったためそれ以上は何も言うことが出来なかった。
くくく、待ってろよお嬢ちゃん……。
グシャッ……。ファンネルが自分に疑いの目を持っているとは知る由もないポスカは、再びファンネルが前方に視線を戻したことで隠していた紙を再度見つめる。
そこには、あのエイラの後姿と横顔が描かれた手配書が握られているのだった。
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