26 バジリスク???
少しタイトルを変更しました!
次の日。
俺達はルルムの森へと足を踏み入れていた。
その上森では馬車は使えないため、俺達は徒歩で道無き道を進み続けている。
ルルムの森。
ギュースト市から東に40kmの地点にある巨大な森林地帯であり、未だ人の手があまり入っていない未開の地でもある。
ただ、それは人間が立ち入らないのではなく、そこに住まうモンスターの強さから人が立ち入ることが難しいといった方がいい。
バジリスク、牛頭人、小鬼……。他にも多くのモンスターや魔族が生息しており、さらには太古の遺跡まであると言われ、冒険者でも白級のような駆け出しでは生きて帰ることが出来ないと言われる死の森でもある。
「ふぅ……。少し暑くなってきましたね。タイチ様、水を飲まれますか??」
先頭を歩く俺の元へルルミアが額の汗を拭いながら話しかけて来た。
俺はアンデッドのため飲み食いをしなくても死ぬことは無いが飲み食いを出来ない訳ではない。ただ、死者の反逆を使用している場合はその限りではなく喉も乾けば腹も空く。
魔法を解除すればこのような生理現象もないのだがここでは他の冒険者に出会う可能性もあるため、夜のように暗闇ですぐには正体がバレないような状況でなければ魔法は解除しないことにしている。
懸賞金をかけられている身である今では、これまで以上に気を付けなければならないからだ。
「ありがとうルルミア」
ゴクッ。俺がルルミアが差し出した水袋を受け取ると、ルルミアは嬉しそうに笑みを浮かべた。
はぁ、どうやらいつも通りのルルミアに戻ったみたいだな。
朝起きた時は、散々だったからなぁ……。ルルミアは昨夜の恥ずかしさから一向に俺の方を見てくれなければ話もしてくれないし、エイラには俺が夜の内に何かしたのではと疑われるし、ルナには白い目で見られるし……。
まぁ、ルルミアが説明してくれて何とか俺の無実は証明されたんだけど、何か未だに後ろからは視線を感じる……。
ジィィ……。俺がゆっくりと振り返ると、後ろのエイラはこちらをジッと見つめていた。
ただ何を言う訳でもなく、ジッと見つめているのである。
その視線に俺は背中に汗が噴き出すのを感じ、すぐに前方へと視線を戻した。
あれ?? エイラの奴何だか怒ってるみたいなんですけど……。
俺の疑い晴れたはずだよね?? なら何であんな目で睨んでくるんだ??
「はぁ……。先が思いやられる……」
「タイチ様ー!!」
俺がエイラが何故自分を睨んでいるのか、その理由も分からないまま森の中をさらに進んでいると前方からルナがこちらへと戻ってきた。
ルナは、偵察のため先行し森の中を探っていたのである。
「ご苦労だなルナ。それでバジリスクはいたか??」
「なんのこれしき、まだまだいけますよ!! っと、そんなことはどうでもいいですよね。 タイチ様、バジリスクはこの先におりました」
ついに現れたか……。
「ただ、奴が住処としている場所が少し厄介と申しますか……」
ルナは報告をするが、そこまで話すと苦笑いを浮かべ首をひねった。
「厄介?? それは一体どういった場所なんだ??」
「はい。もうすぐ見えて参りますので、タイチ様ご自身の目で見てもらえると……」
なんだ、随分勿体ぶるな。そうか、さては本当はそうでもないんだろ?? 大げさな奴め。
俺はルナの報告を受け、さらに歩みを進る。
すると徐々に前方が開けて始め行く手を遮る木々もその数を減らしていき、しばらくすると目の前には開けた空間が広がるのだった。
その上、そこには俺が予想だにしていなかったものも姿を現した。
「これはすごいな……」
「ええ、本当ですね……」
俺の隣で前方を見つめるルルミアも言葉を失う。
それもそのはず、そこには植物に侵されながらも悠然と存在する石造りの建造物が延々と広がっていたのだ。
しばらくして追いついたエイラも、その景色に同じく言葉が出てこないようだった。
「……まるでタイチ様がいたミストール遺跡みたい」
「……そう言われれば似てるな」
確かにエイラの言う通り、どことなくミストール遺跡に似ている気がする……。
思えば俺は300年あの遺跡にいたのに、あれがどういうものでいつ作られたものなのかまるで知らない。
もしかしたらこの遺跡と何か関係があるのかも……。
「タイチ様! あれを!!」
ズゥゥゥン!! 俺が目の前に広がる遺跡群を見つめ、ミストール遺跡の事を思い浮かべていると、エイラが突然前方を指差し声を上げたのと同時に、遺跡の一つが勢いよく崩れた。
するとその中から2人の男性、そしてその背後に無数の緑色の生物が群れをなし2人の後を追いかけている。
追われている2人は、身に着けている防具から冒険者らしいことが見て取れた。
「あれは冒険者だ! ……見殺しにも出来ないな。皆、行くぞ!!」
『はい!!!』
その言葉で俺が先陣切って冒険者達の元へ飛び出すと、その後に続きエイラ、ルルミア、ルナが同時に遺跡に向かって動き出すのだった。
「はぁ、はぁ……!! クソッ!! 一体何匹いやがるんだ!!」
「うるせぇ!! 口を動かす前に手を動かせ!! 火弾!!」
「キィィィィ!!」
ボシュッ!! 冒険者の内、マントに身を包み長髪で身の丈ほどの杖を持つ1人が足を止め杖の先端を迫る群れに向けるとそこから火弾を発射。
火弾は群れに着弾し爆発を引き起こすが、倒した以上の生物がさらに巨大な群れを作り迫り続けてくるのだった。
「……無理だぁ!!」
「てめぇも全然使えないじゃないか!! こうなったら全部俺が切り刻んでやる!!」
「おい、やめとけ! そんなことしても命の無駄だぞ!!」
ジャキッ!! だがその言葉も無視し、もう1人の赤髪、そして所々破損した防具を身に着けている冒険者は背中にある大剣を抜き迫りくる群れにその剣を構える。
だが剣を持つその手からは震えが止まることは無かった。
クソ、クソ……。簡単な依頼だったはずなのに……!!
何でこんな奴らに出くわしてしまたんだ!!
「うわぁぁぁぁ!!!」
「中級魔法 竜の息吹」
サァァァ……。だが群れが冒険者の元へ到達するまさにその瞬間、冒険者は自身の隣を暖かい空気が通過したのを感じた。
すると目の前のモンスター達は突如猛烈な炎に包み込まれ、声を発する暇もなく一瞬で塵と消えていった。
「な、な、何が起きたんだ……」
「おい、まだいるぞ!!」
「キィィィィ!!!」
ブシュッ!!! 炎が燃え盛る中、その隙間を縫ってかろうじて生き残っていたモンスターはなおも冒険者達の元へと殺到する。
だがそれもルルミアが目にも止まらない速さで切り裂いていったため、すぐに辺りは静けさを取り戻していったのだった。
「エイラさん! そっちに一匹行ったわよ!!」
「は、はい!! 初級魔法 太陽の矢(サンシャイン・アロー)!」
ルルミアの背後にいたエイラは自分の元へ方向転換し迫ってくるモンスターに左腕を向ける。
その左手の中には呪文と共に光の弓と矢が発生し、そこから放たれた矢は見事モンスターに命中。一瞬でモンスターは炎に包まれき消えていった。
「流石はエイラさん! お見事だわ!!」
「えへへへ、ありがとうございますルルミアさん!!」
「やれやれ……。私の出番が全くなかった……」
「これで全部倒したな。3人とも怪我はないか??」
エイラとルルミアの元に、ルナ、そして敵を焼き尽くした俺が集まってくる。
しかし突然現れた俺達に、冒険者2人はただただ呆然と塵になっていくモンスターを見つめていた。
「あ、あんた達、一体何者なんだ……? それにあれだけの大群を一撃で消し去るなんて……」
「そ、その通りだな。……いや、ちょっと待て! あの男の仮面、もしかしてあんた最近話題になっている仮面の男だろ??」
「仮面の男ッ?? あの鉄級冒険者に最短期間で昇級したって噂の奴か??」
「ああ、間違いねぇ! あの右目を覆う仮面に、エルフと獣人の娘。そして猫!! 一度冒険者組合で見かけたことがある!!!」
「おい! 私だけ猫って言うなぁ!!!」
杖の冒険者の言葉にルナは地面の何度も踏みつけ怒りをあらわにする。
おいおい、怒ってるところ悪いがお前はどこからどう見ても猫そのものだろうが。
はぁ……。俺は地面の上で地団駄を踏むのをやめないルナを放っておいて後ろで尻もちをついている2人の冒険者の元まで進むと、空間魔法の中から回復薬を取り出し2人へと投げ渡した。
「あんた達のいう仮面の男が俺かは分からないけど、それを飲めばその傷はすぐに治るだろう」
「これは……、回復薬?! ありがたい、もうポーチの中にも残ってなかったんだ!!」
ヴゥゥゥゥン。2人は回復薬の入っている瓶のふたを急いで開け、回復薬を一気に飲み干した。
すると2人の体は光に包まれ、体にあった無数の傷は煙を上げながら全て消えていく。
2人は効果の高い俺の回復薬に驚きを隠せないようだが、傷が治ったのを確認した俺は2人の前に膝を下ろし何があったか尋ね始めた。
「さて、傷も治ったみたいだし今度はこっちが質問するぞ? あんた達は何者だ? それにさっきのモンスターは一体……??」
「あ、ああ、紹介がまだだったな。俺は赤級冒険者のファンネル・アフア、こっちは仲間のポスカ・ハットだ。 今回は命を助けていただき助かった! この恩は必ず返させてもらう!!」
バッ!! 大剣を背中に収めたファンネルと巨大な杖を持つポスカは同時に俺に頭を下げた。
「いや、別に礼なんか必要ない。それよりも……」
「ああ、そうだったな! あのモンスターの事だろう??」
俺がその言葉に頷くと、ファンネルは隣のポスカに視線を移す。
ポスカもその意味が分かったのか俺に先ほどのモンスターの詳細を話し始めた。
「あれはバジリスクだ」
「バジリスク?! でもバジリスクって体長はもっと大きいはずじゃ……」
「その通りだ。あれはバジリスク、その子供と言ったところか。バジリスクは数年に一度数百個という卵を産む。生まれたばかりのバジリスクの体長は人間の腕ほどだがそれでも群れで襲われれば牛頭人でも食われることがあると聞く……」
な、なるほど……。確かにそう言われればあのモンスターはデカいトカゲみたいな形だった。
あれ、でもちょっと待てよ……? そもそもルナの話だとここにバジリスクがいたんだよな? つまり子供がいるってことは……。
「俺達はこの遺跡にいるスライムの捕獲の依頼を受けていたんだが……」
俺の心配を知る由もないファンネルは、ポーチの中から一体のスライムを俺に手渡してきた。
初めて見るスライムは、想像通り半透明、さらにブヨブヨと形を変え揺らぎながらこちらを見つめている。
う、うわぁ……。すごいこっち見てるよ……。
それにちょっと触っただけで凄い動くんですけど! 気持ち悪い!!
「こ、これがスライムなのか……」
「ハハハハッ、さては旦那、スライムが苦手だな?? でもスライムは結構便利なんだぜ? 捕獲した奴の命令には忠実だし、何より思考を読んで思い通りの形に変化する。見てな??」
ファンネルは笑みを浮かべ腰のポーチから別のスライムを取り出し、それを掌に乗せた。
するとスライムは光を放ち一瞬で美しい剣へ姿を変えたのだった。
「……すごいな!」
「へへへっ、そうだろ? でも結局はスライムだ。こうすると……」
ファンネルが少しだけスライムが変化した剣に触れると、剣はすぐに形を崩しフニャフニャの剣になってしまった。
どうやら強度までは再現できないようである。
へぇ……。これは結構便利かもしれないな!
硬さは真似できないまでも、いくらでも使いようがある。
「面白いだろ?? 旦那には借りがあるからな、そのスライムは旦那にやるよ。いいだろ、ポスカ??」
「ああ、異論はない」
「決まりだ! 旦那、俺が言うのも変だけどそいつを可愛がってくれよ?」
アハハハハッ!! ポスカはファンネルの言葉に目を瞑り無表情で答えた。
だがその時、背後の遺跡から地響きが起こるとその衝撃で俺達のいる場所も大きな地揺れに襲われる。
しばらくしてその揺れは収まったが、すぐにルナが顔色を変え俺の元へと駆け寄ってくるのだった。
「タイチ様、来ました!! バジリスクです!!!」
「クソッ! やっぱりこの近くにいたのか……!!」
ズゥゥゥゥン……。 俺の予想通りバジリスクは俺達のすぐ側におり、その足音は徐々に近づいてくる。
その上、足音はどこか俺達に対し怒りを抱いているようであった……。
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