24 監視者という存在!
そこは光に支配される世界。
その我々が暮らす世界とは一線を画す光の世界に、石の様な、しかし石ではない物で作られた7つの巨大な椅子が円形に並べられている。
これはこの世界に暮らす者達のためにあるものだが、今まで彼らが全員揃うことはまずなかった。
しかしこの日、この椅子が使われる時がついに来たのである。
【彼ら】、と言ってもいいのか定かではない存在。性別もあるのか分からない。
その上集まったそれらは光が人型になったような姿をしており、顔もない。
しかし、7つの席には確かにその【光の者達】は腰かけているのだった。
「僕たちが全員集まるなんて、珍しいこともあるものだね。」
「まぁ、主の命令だよ? 集まらない訳にはいかないじゃないか」
7つの席の内、一番巨大な椅子に腰かける光の者が言葉を発した。
その言葉に同意するように、2番目に大きな椅子に座る光の者が答える。
椅子の上部には、何か模様が描かれている。これはこの世界の言葉で、1~7という意味を持つ。
つまり一番巨大な1の椅子から時計回りに2~7の椅子が並んでいるということ訳だ。
光の者達は、初めて全員が揃ったことに笑い声を上げどこか楽しんでいるようにも見えるが、4番目の椅子に座る光の者の言葉でようやく本題に入り始めた。
「無駄話はそこまでにしよう。僕達は暇じゃない。さっさと話しを始めようじゃないか」
「うるさいぞ4の席。それは1の席である僕の言うことだ。ふぅ……。まぁそれじゃあ始めようか。確かに主のお叱りを受けるのは嫌だからね」
1の席の光の者の言葉に、他の光の者も同意の言葉を口にした。
光の者の役目は、世界の監視。そして秩序が乱れた場合にそれを正すことを命じられている。
今日彼らが集まったのは、まさにそのことについてである。
「それで、主が言うには世界に乱れが生じ始めてるんだって?? でもそれはもう500年?くらい前に解決したんじゃなかったけ??」
「そうだよー? 僕らの裏切者、前の7の席の奴が主の決めた掟を破って下の世界に降りちゃったからね。まぁ、あの時は別の世界から連れてきた転生者の何人かが7の席を滅びしてくれたから、もう問題なはずだけどね!」
3の席の事言葉に、5の席の光の者が頭を左右に振りながら楽しそうに答えた。
そしてこの話題になると、必然的に光の者達の視線は今の7の席に座っている光の者へと注がれる。
彼は500年前の事件の後、主と呼ばれる存在によって新たに作られた光の者だった。
「今回も7の席が世界に混乱を引き起こしてるんじゃないの?? 確か、君は勝手に異世界から人間を転生させてたはずだよね??」
「それは僕も知ってるよ!! 確か間違ってアンデッドにしちゃったんでしょ??」
「本当に?? それは可哀そうなことをしたね!!」
あはははははっ!!! 6の席が隣の7の席の光の者が転生させた人間をアンデッドにしたと言ったことで、他の光の者達は大きく笑い声を上げた。
しかし、7の席はそのような事は全く意に介さないように、ただ淡々と答え始める。
「確かに僕は転生者を手違いでアンデッドにしてしまった。そのことについては僕の落ち度だけど、転生させたことについて責められるのは筋違いじゃないかい? 勇者と呼ばれる者の多くは君達が勝手に転生させた者達だろ??」
うっ……。7の席の言葉に他の光の者達は言葉に詰まる。
それは7の席が言ったことが事実であり、それも遊び半分で行った転生であったためである。
これはれっきとした掟破りなのだが、これまでは全員が見てみぬフリをしてきたため主からの咎めを受けることもなかった。
そのため、7の席も自身の不手際もあったため今はこのことを追求するつもりはない。
だが、1の席はこのことが面白くないのか自分が掴んでいる情報で7の席に詰め寄った。
「むう……。まぁそのことは今回は別にいいことにしよう。ただ、君がその転生者と言葉を交わしたって報せもあるよ? これはどう説明するのかな??」
その言葉で、7の席に押されていた他の光の者達はまるで水を得た魚のように次々と話始める。
「なんだって?? それは世界への介入になるんじゃないかい??」
「その通りだよ!! 僕達はあくまで監視者。直接手を下すことは絶対にダメだ!!」
「そうそう! 僕達に出来るのは加護を与えるか、もしくは転生者という自身の代わりとなる者を送り込むことくらい……。君の行っているのは主の掟に背く行為だ!!」
ワァッ、ワァッ……。 光の者達はさらに7の席の責任を問う言葉を発していくが、7の席はそんな彼らを遮るように大きな声で話始めた。
「そんなことは無い! 僕は彼にこちらの事は何も言ってないし、彼も僕の監視者という役目の事は知らない。それでも僕が掟破りをしたというのなら主からどんな罰も受けるよ?」
「あはははは、それはいい心がけだね。では主には僕からこのことを話しておくよ。せいぜい残りの時間を楽しんでおくことだよ。それじゃあ少し長くなってしまったけど、今日はこの辺りでお開きにしようか」
『りょうかーい!!』
くっ……。やっぱりこの人達は腐っている。
主が私だけに柊俺を転生させるように命じたのはこういうことなんだね。
7の席は、1の席を始めとする他の光の者達の言葉に憤りを隠すのに必死だった。
ただ、1の席の言葉で2~6の席までが同時にその場から姿を消し、辺りには誰一人としていなくなる。
それでも7の席はしばらく椅子に腰かけたままその場を離れなかった。
けど今回の事ではっきりしたね……。
主の言った通り今世界で起こっている混乱に彼らの誰かが関与している可能性は高い。
彼らの腐りっぷりは目に余るものがある……。
「……フフフッ、柊太一くん。君にはこれからも世界のために動いてもらわないとね。そのために君をこの世界に転生させたのだから」
シュッ……。 7の席はそう言い残すと、他の光の者達同様にその場から姿を消していくのだった。
ギュースト市 冒険者組合。
ディートゲイルの提案を受けてから早1ヶ月。俺達は冒険者として動きながらもディートゲイルからもたらされる情報、そして各地で掴んだ情報からエイラの故郷を探していたが、全くそのことに関する情報を得られなかった。
「はぁ、また空振りだったな。」
「まぁ、こんなものですよ! また次の情報に期待しましょう!!」
バタンッ……。冒険者組合内の酒場にある机に倒れ込む俺に、ルルミアが慰めるように声をかける。
この1ヶ月で、俺は白級冒険者から三級上がり中級冒険者と呼ばれる鉄級冒険者に昇級した。
冒険者には最上級の漆黒級から白金級、金級、銀級、銅級、鉄級、赤級、青級、そして白級という階級が存在し、各階級によって依頼の難易度も違ってくる。
まぁ、銀級以上の上級冒険者はその数が少なく、ギュースト市の様な辺境地では俺の鉄級でも羨望の眼差しを向けられる。
ただ俺が冒険者になったのはあくまでエイラの故郷を見つけるためであって、人食鬼を倒すためじゃないんだけどなぁ……。
「あ、いたいた! タイチ様!! 遅くなってすみません!!」
「いや、別に大丈夫だけど……、エイラそんなに食べるのか??」
「はい!! なんてったって今日は私が初めて1人で依頼を完了できた日ですもん! 見てください! これで階級も青級に上がりました!!」
しばらくすると、机の上に倒れ込む俺の元にエイラとルナがお皿いっぱいの料理をいくつも抱え戻ってきた。
エイラはどうやら冒険者、いや自分の成果で報酬を貰えることが本当に嬉しいらしい。
今回の火鳥の卵の採取の成功によって得た報酬で注文した料理と、青級冒険者の証である首にかけたプレートを自慢げに俺に見せるのだった。
「それは良かったな。これで俺達は全員青級以上になったって訳だ」
「そうですね! 私はもすぐ赤級冒険者になれそうです!!」
俺の言葉にルルミアが嬉しそうに答える。
ただエイラは自分だけ昇級が遅れている現状に不満げな表情を浮かべた。
2人とも、この1ヶ月でそれなりにレベルも上がってきている。
このままいけば2人が俺と同じ鉄級の冒険者になるのも遠くないだろう。
俺は頬を膨らませながらも料理を口に運ぶエイラに視線を移し笑みを浮かべた。
エイラは自分が手配されていると知ったあの日に、長かった髪を肩辺りまでバッサリと切っている。
それに魔法で特徴的な美しい金髪の髪を薄いピンクに染めている。
これで今までは全くエイラだとバレることは無かったが、今後はどうなるか分からない。
警戒は引き続きしていかないとな……。
「ところでタイチ様! 今日はどちらに参られるんですか??」
「ん? あ、ああそうだな、今日はこの依頼を受けてみようと思うんだけど、どうだ??」
俺は食事を一瞬で平らげたルナの不意の一言で慌ててエイラから視線を外すと、体を起こし懐から一枚の依頼書を取り出した。
そこにはモンスターの絵と共にこう文字が書かれている。
(バジリスクの討伐 報酬銀貨100枚)
「ほう、バジリスクですか! ですがバジリスクはエイラやルルミアにはまだ危険が大きいのでは??」
ルナの言葉に俺は小さく頷いた後答える。
「確かに危険はある。ただこの目的地が重要なんだ。見てみろ」
「……これは」
「気づいたか? バジリスクの現れた場所はムルルの森だ。依頼となれば国のどこでも入れるし、ここはディートゲイルが知らされた妖精族の隠里のある森、もしかしたらエイラの故郷に関する情報が入るかもしれないだろ?」
「確かに! 流石はタイチ様です!!」
ガタンッ! ルナが俺に声を上げた瞬間、話を聞いていたエイラが食事をかき込み勢いよく立ち上がった。
その身体は今にもその場から駆けだしそうなほど小刻みに動いている。
そして口の中の物を飲み込むと、エイラは俺へと口を開くのだった。
「それなら早く行きましょう!! さぁタイチ様!!」
「フフフフッ、エイラさんったらとても嬉しそう」
「ハハハ、ああ、分かったよエイラ。 それじゃあ、今回の依頼はこれで決まりだな!」
ルルミアはエイラの姿に口に手を当て笑みを浮かべ、俺もその姿に笑わずにいられない。
こうして俺達は、ギュースト市の東40kmの地点にあるルムムの森へと向かうことになった。
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