20 目覚めの朝!
蒼龍の団との戦いが起きた2日後、王国王都内の某所。
そこは薄暗い石造りの小さな部屋であり、またかろうじて一つだけある窓は布で覆われ光は差し込まない。
中央に置かれた机の上に置かれている蝋燭の光だけが唯一の光源のその部屋には、マントのフードで顔を隠した2人の人物が会談を行っている。
「それで? 蒼龍の団は壊滅したのか??」
「はい、そのようでございます我が主。ギュースト市を預かるディートゲイル・バーナーからの報告を受け私の手の者を差し向けた所、事実でございました」
ドンッ!!! 2人の内、背後に3人の護衛を付けている人物が目の前で膝を付き報告を行う人物の言葉に憤りを隠せないのか、机の上に激しく拳を打ち付けた。
ディートゲイルめ……! 余計なことをしてくれた……。
蒼龍の団は私の重要な駒の一つだというのに……!!
「お気を沈めくだされ我が主。確かにあの盗賊共を失うことはあなた様の計画に少々の変更を生じましたが、それは大きなものではござらん。ですから今まで通り計画の続行は可能であります……」
「……そうだな。いや、すまなかった。私としたことがつい取り乱してしまった」
「……いえいえ」
フフフフッ……。2人は小さく笑みをこぼすと、再び会談を続けていく。
「それで、ラティウスはどうなった? ディートゲイルの手から逃すことは可能であるか??」
「そのことなのですが、一つ申し上げた気ことが……」
パンッ!! 膝を付いていた人物は立ち上り、一度大きく手を鳴らす。
すると、奥の扉が開きそこから体を縄で縛られたラティウスが引きずられ入ってきた。
だがラティウスの目には以前の様な生気はなく、主と呼ばれる人物の前に引きずり出されても何かつぶやき続けているだけであった。
「やはりもうこちらに取り戻していたか。しかしこれがあのラティウスか……? クククッ、まさかこのように無様な姿になり果てるとは……」
「フフフッ、確かに。この者はどうやら精神にかなりの負荷がかかったため、このように精神が崩壊してしまったと思われます」
「ほう……。こいつは腐っても王国内では上位の戦闘力を持っている。そのラティウスが精神を病むほどとは……、何か魔法でも使用されたか??」
主と呼ばれる人物の言葉に、目の前の人物は首を左右に振り答える。
「いえ、調べましたところ魔法が使用された形跡はございませんでした。どうやら、精神が正常を保てないほどの“何か”を目の当たりにしたのではないかと……。これをご覧くだされ」
主と呼ばれる人物は差し出された一枚の紙を受けとり、目を通す。
それは魔念写と呼ばれる写真のように鮮明な画像を映し出す魔法で描いたある者が映し出されていた。
これは……。布のようなもので全身が覆われているがあの目に口、なるほどアンデッドか……。
人間でないとすればラティウスが敵わないというのも理解は出来るが……。
いや、あのアンデッドの頭上にある球体。そうかこのアンデッドは種族スキルが使用できるのか……。
「クククッ、なるほどな。 ところでこの魔念写はラティウスの記憶を読み取ったものだな?? それならば他にも何かあるのではないか??」
「流石は我が主。その通りでございます。ですがラティウスの精神は崩壊しているせいか記憶が殆ど読み取れませんでした。これが唯一読み取れたもう一枚の魔念写でございます」
そう言うと目の前の人物はも一枚の魔念写を主と呼ばれる人物に手渡した。
そこには金髪のエルフ、エイラの姿が映っている。
主と呼ばれる人物はエイラの姿を見た瞬間、マントから見える口元に今までにない満面の笑みを浮かべ歓喜の声を上げるのだった。
「素晴らしい!! この少女こそ私が探していた者に違いない!! これだけでラティウスを失ったことを引いてもおつりがくるくらいだ!!」
「やはりそうでございましたか。そう仰ると思いこの魔念写を持ってきて正解でございました」
「よくやった!! お前には後で何か褒美を与えるとしようか」
「ありがたき幸せ! 少女は恐らくですがそのアンデッドと行動を共にしているものと思われます。あれだけ目立つ存在です。遅かれ早かれ所在は掴めるでしょう」
「フフフフッ、それは楽しみな事だ」
「では私はすぐにでもアンデッド及び少女の捜索に当たりたいと思います。手段は何を使っても……?」
「……うむ」
ニヤッ……。主と呼ばれる人物の言葉に、もう一人の人物は小さく笑みを浮かべるとラティウスを連れすぐさまその部屋を後にしていった。
その後、護衛の者達と部屋に残された主と呼ばれる人物は笑いを堪えきれずついに大きな声で笑いだした。
ハハハハハッ!! まさかこのように素晴らしい報告を聞くことのなるとは!!
あの少女さえ捕まえることが出来れば、この王国、いやこの大陸全てが私の物に……。
「……フフフッ、アハハハハハハ!!」
その異様な笑い声はしばらくその部屋に響き渡り続けていった。
うっ、眩しいな……。
俺は窓を覆うカーテンの隙間から差し込む光で目を覚ました。
ここはどこだ?? この感触から恐らくベッドの上ではあるだろうが……。
確かエイラを助けに蒼龍の団の拠点になっている洞窟へ向かって、無事助け出したところでディートゲイルが現れたことは覚えている。
ただその辺りから記憶が曖昧だ……。それにこの体になってから眠ったことなんて殆ど無かった。
一体何が起きたんだ……?
……ん?? 何だこれ??
「う、ん……」
むにゅっ……。 だが俺が体を起こそうとベッドに手を付いた瞬間、その手のひらに何とも柔らかい感触が広がった。
さらにその感触を確かめるように何度も指を動かしていると聞き覚えのある声がかすかに聞こえ始める。
「……あっ、やめて、下さい。タイチ様……。 もう、やっと目覚めたのにこんなことを、して……」
この声は……、まさか……。
それにこの感触は、まさか!!!
「ご、ごめんルルミア!! 悪気があったわけじゃ……!!」
部屋の暗に目が慣れたことで手を置いているのがルルミアの胸の上ということに気が付いた俺はとっさにその手を離しベッドの反対側へと手を付いた。
しかしそこにもルルミアとは違う新たな感触が出現する。
「……ん、何?? えっ、タイチ様、お気が付きに……、 きゃぁぁ! どこ触ってるんですか!!」
「えっ、何でエイラもここに……、ぐはっ!!!」
ドゴンッ!! 目を覚ましたエイラは、俺の手が自分の胸に置かれていることに気が付いた瞬間、その手を払いのけ強烈な一発を俺に左頬に放った。
その衝撃で俺はベッドから転げ落ち、そのやり取りをどこからか見ていたルナが窓を覆うカーテンを一気に開けたことで、部屋の中には光が差し込んだ。
「全く……、エイラ!! タイチ様はお前の命の恩人であろう! 胸の一つや二つくらい揉ませてやればいいものを……」
「それとこれとは話が別です!! こういうことはきちんと、け、結婚をしてから……」
「タイチ様? 私の胸でよければいつでも揉んでくださっても構いませんよ?? 何なら直にお触りになりますか??」
「ちょっ……、何言ってるんですかルルミアさん!! あぁー、服を脱がない!!!」
ルルミアは体を起こすとベッドの下から自分達を見上げている俺に笑みを浮かべ来ている服を肩、そして胸元へと下ろし始める。
その姿にエイラは顔を赤らめながらも必死に服を脱ぐのを阻止しようとルルミアへと飛びかるのだった。
全く、朝から良い物を見させてもらっ……、いやそうじゃなくて!!
俺はどうやってここまで戻ってきたんだ?? 全く記憶がないぞ!!
「……2人ともいい加減にしろ! ふぅ、それよりもエイラを助けた後何が起きたんだ?? 全く記憶がないんだが……」
「えっ?? タイチ様、まさか記憶が……?」
俺の言葉でこちらを見つめ動きを止めたエイラ達は、俺が頷いたことで記憶がないことを理解すると、俺の身に何が起きたのかを離し始めるのだった。
「……という訳です」
「なるほど……」
俺はエイラからの説明を受けた後、しばらく考え込んだ。
つまりエイラを救出し、洞窟を何とか抜け出したはいいがギュースト市に帰る途中で俺の意識が突然途切れ、しかも5日も眠り続けていたということか……。
だからエイラもルルミアも看病に疲れて一緒に寝ていたのか。
こうなったのも恐らくあの力の反動の為だろうが、そう言えばあれは一体何だったんだ??
あの姿に代わる前、頭の中に何か声が聞こえた気がする。 確か……。
(アンデッドスキル 捕食が発動しました。)
そうだ!! アンデッドスキルとかいうやつだ!!
でもそんなものは俺が習得者で手に入れた魔法書のどこにも載っていなかった。普通のスキルとはまた違うものなのか??
てかこういう時こそあの変な声の出番だろ!! おい、変な声! 聞こえてるんだろ?!
(…………)
「はぁ……、だんまりかよ」
「何か仰いましたか??」
おっと、つい心の声が漏れてしまった。
「いや、なんでもない」
俺は心配そうにこちらを密前るエイラに答えると、窓の近くに立つルナへと視線を移した。
ルナは中央宿までエイラと俺を連れ戻ってはきたが、未だ守護者の姿のため不可視を常に使用していたためかどこか消耗しているように見て取れる。
「ルナ、今回は本当に世話になったな。ありがとう」
「何を仰いますか! 私はタイチ様に作り出されたのです。主を助けることなど当たり前の事。ただ、一つだけ言いたいことがあるとすれば猫の姿に戻していただきたい。流石に疲れましたので……」
「ハハハハッ、そうだな。分かった。創造」
ヴゥゥゥゥン……。 俺はルナの言葉に笑いながら答えると左手を向け創造を発動。
ルナの体は光に包まれ徐々に小さくなっていき、しばらくして光が消えるころにはいつもの様な猫の姿へと戻っていた。
そのことにルナも安堵したのか、力なくベッドの上に倒れ込みルルミアの膝の上へと移動していった。
「ふぅ……。ようやく不可視を使用しなくてもよくなりましたぁ~」
「フフフッ、ルナ様、お疲れ様です。先ほどの姿も良かったですが、やはりそのお姿の方がルナ様らしいですよ」
「そうか?? まぁもう何でもいいや……」
ルナはルルミアの膝の上に上ると、よほど疲れていたのか体を丸め眠りにつく。
アンデッドであるルナは眠らなくても死にはしないが、魔力の消耗が激しい時はこうして回復のため眠る必要がある。
コンコンッ……。しばらくすると部屋の扉がノックされたかと思うと、一人の男性が扉を開き部屋の中に進み頭を下げた。
その男性の顔に俺は見覚えがあったため、誰の遣いかはすぐに察しがついた。
「あんたは確かディートゲイルの……。 何の用だ??」
「お目覚めになられましたか。あなたは丸5日眠り続けておりましたのでこうしてディートゲイル様の遣いで魔力回復薬などを差し入れに来たのですが、そのご様子だともう心配はないようですな。」
……あっ、しまった!! 死者の反逆を使っていない!!
しかもマスクもないじゃないか!!
バッ!! 俺は急ぎむき出しになっている右目を手で覆ったが、フレーゲルは笑みを浮かべながら顔の前で手を左右に振った。
「あなた様の事は既にディートゲイル様より聞いております。もちろん他言もしておりませんのでご心配なく」
「そ、そうか。それならいいんだが……」
「はい。所でタイチ様。お気が付きになられたばかりで申し訳ないのですが、館の方へお越し願いますか?? ディートゲイル様がすぐにタイチ様とお話ししたいことがあるということでして……」
ディートゲイルの急用?? 一体なんだ???
俺はしばらく考えたあと、口を開いた。
「分かった。すぐに準備をする。みんなも準備をしてくれ」
『はい!!!』
こうして俺達は、ディートゲイルの待つ領主館へと急ぎ向かうことになった。
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