19 蒼龍の団を殲滅しよう! 後
ザッ……。 蒼龍の団の生き残りは自分達へと進んでくる俺、ルナの姿に恐怖のあまり体を震わせている。
それは団長であるラティウスも同じであり、彼は初めて自分がどう足掻こうと到底敵わない存在に対し戦意を喪失し始めていた。
これが本当の化け物……! いくら強くなろうと人間には越えられない存在ということか……!
「……さて、そろそろ終わりに致しましょう。ルナ! そちらに逃げる奴らは頼みましたよ??」
「……承知いたしております」
ジャキッ……。 ルナは俺のいつもと違う口調に戸惑うことも無く腰の剣を抜き、その切っ先を蒼龍の団へと向ける。
その動きにラティウスは慌てて武器を地面に捨て俺へと口を開いた。
「お、お待ちください! あなたはこの娘を返して欲しいのでしょう?? そ、それならすぐにお返しいたしますよ!!」
「へぇ……、それはいい心がけですね」
「そうでしょう?? で、ですからここはその代わりに我々、いや私だけでも見逃していただきたい! 後ろの部下たちは焼こうが煮ようが好きにしてもらって構いません!!」
「か、頭?!」
ラティウスは鎖を引くと、その先に繋がれているエイラの体を自分の腕の中に抱き俺に交換条件を持ち掛ける。
その言葉にはそれまでラティウスを慕い付いて来ていた団員達も、彼に対して不満を言わずにはいられなかった。
「待ってください頭!! それはいくら何でもあんまりだ。俺達はあんたを信じてここまで付いて来ていたのに……!!」
「黙りなさい!! 私があなた達のようなゴミの事を気にかけていると本当に思っていたのですか?? 私は王国に、いやあいつに復讐するまでは死ぬわけにはいかない……。あのお方のためにもね。お前達はそのための道具だ! 囮だ! 駒なんだ!! いいから早く私が逃げるだけの時間を稼いで来い!!」
ドンッ!! ラティウスは一番近くにいた団員の肩を掴むと、その団員を俺の足元へと投げ入れる。
その姿に、俺はさらに体の奥底から燃えるような怒りに身体を支配されそうになり、またその目は今まで以上に赤く輝きを放ち始めた。
あの男……! エイラだけでなく自分の仲間まで自らが生き残るために盾にするのか……!!
ぐっ……、体が熱い……! くそ、怒りで意識が遠のいていく……。
「あ、あぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
「……タイチ様?!」
ドォォォォン!! 突如苦しみだした俺の姿にエイラが口を開いた瞬間、俺の頭上に黒い球体が出現。
しばらくして静まったかと思うと、俺は不気味な笑みを浮かべながら蒼龍の団の元へと進み始めるのだった。
あの球体は……。まずい、このままだと蒼龍の団だけじゃない、エイラにも危害が!!
「タイチ様!! その技はいけません!!! ……クソッ、こちらの声が聞こえていないのか?! 一体どうなっているんだ!!!」
……身体強化!!
シュッ!! 俺の姿を見つめていたルナは、俺が発動させた黒い球体の正体に気が付きその発動をやめるように声を上げるが既に意識を失いかけている俺にその声が届くはずもない。
ルナは俺を説得するのを諦めると身体強化の魔法を発動。俺の姿に動くことが出来ない蒼龍の団の団員たちの間を一気に駆け抜けラティウスが驚きのあまり腕から落としたエイラの救出にすると、すぐさま後方の岩壁にある窪みにエイラを退避させた。
「あ、あれ?? もしかしてルナ様?? それよりも、俺様のあのお姿は一体……」
「……あれはアンデッドだけが使える上位上級魔法 魂を喰らう者(ソウル・バイタ―)。あの魔法の効果範囲にいる生者、つまり生きている者は全て黒い球体に魂を吸われる……。ほら、あのタイチ様の足元に投げられた男の顔を見てみるんだ」
エイラは元の守護者の姿に戻っているルナに一瞬戸惑いを覚えたが、すぐにその言葉で俺の足元にいる団員へと視線を移した。
するとその視線の先にはまるで人形のように洞窟の天井を見つめ続ける団員の姿があり、エイラは始め死んでいるのかとも考えたが、よく見ると呼吸はしているのか胸は一定の間隔で上下している。
「……あの人は、生きて、いるんですよね??」
「生きてはいる。ただ奴はもう意思を持たない抜け殻、人形と変わらない。魂を抜かれた者は一生あのまま、ただ生きているだけになってしまうんだ」
そ、そんな……! いくら敵とはいえ、人間相手にそんな事をするなんて……。
タイチ様は一体どうなって……。
「……エイラ、伏せろ!! 大渦が来るぞ!! ……防御魔法!!」
「きゃあぁぁ!!」
ドォォン!!! ルナの言葉と共に、ラティウス達の目の前まで進んできた俺が右手を上に上げると、黒い球体は円盤状に姿を変え、円盤を中心に突風が吹き荒れその場にいた全員を風が包み込み始める。
するとその風を受けた団員達の体から次々と何かが抜き去られていき、それが円盤の中に吸い込まれる頃にはラティウス以外のすべての団員は地面に倒れていたのだった。
な、なんて力だ……! 少しでも気を抜けば一気に持っていかれる!!
そうなれば生者であるエイラの魂が……。
ルナはエイラと共に洞窟の窪みに入ると前方に防御魔法を発動。
懸命に俺が発動した魂を喰らう者(ソウル・バイター)が起こした突風からエイラの身を守っていた。
しばらくしてルナの魔力があと少しで切れそうになったころ、ようやく風が収まったためルナは防御魔法を解除。疲労のあまりその場に勢いよく膝を付くのだった。
はぁ、はぁ……。な、何が起きたんだ?? さっきの体の中から何かを引きはがされそうになる感覚は一体……。
風が収まっても、俺の前で膝を折っているラティウスは自分達に何が起きたのか全く掴めていなかった。
しかし辺りを見回すと、自分以外の団員が全て目を開けたまま人形のようになっているのを目の当たりにしたことで、これが俺が発動した魔法の効果であることだけは理解できたのだった。
だがそれも束の間、ラティウスが視線を俺へと戻した瞬間、目の前には小さな口がある俺の掌が迫っていた。
まさか、こんなところで死ぬことになるなんて……。これが人知の及ばない相手……。
ハハハ、ハハハハハッ!!!!
ブシュッ!!!!
俺の掌の口が噛みつき、辺りには血が飛び散った。
だがその血はラティウスのものではなく、いつの間にか俺の元まで駆け寄ってきていたエイラのものであった。
「ぐっ……」
「エ、エイラ!!! 何をしているんだ!!」
「わ、私は大丈夫ですルナ様!! ……だってこれ位、今タイチ様が感じているものと比べればかすり傷ですから!!」
……いや、その出血量はただでは済まない!!
すぐに止血して回復魔法を使わないと……。
ブシュッ……。 しかしエイラは自分の首元に噛みついている俺の手を離すことなく笑みを浮かべ俺の体にそっと抱きよった。
すると不思議なことに、それまで不気味な光を放っていた俺の右目が徐々に輝きを失っていく。
「タイチ様、もう大丈夫です。私はあなたに助けて頂きましたから……。もうこれ以上誰も殺さなくていいんですよ……。大丈夫です。怒りを鎮めてください。私はここにいますから」
……なんだ、エイラの声??
それに、体の燃えるような熱さが無くなっていくような……。
「……これは一体どういうことだ?」
ルナはエイラが抱きよったことで2人の体が光に包まれ、さらに俺の体を覆っていた布が空中に四散し元の姿に戻っていく俺に言葉を失う。
しばらくして2人を包む光が消えると、俺はエイラが初めてあった頃と同じ白い布に身体を包んでいた姿へと戻っていたのだった。
「……うっ! 一体何が起きたんだ?」
「よかった……、いつもタイチ様に、戻ったみたい、で……」
「エイラ?!?!」
ドサッ。エイラは俺が元の姿に戻ったのを確認すると、笑みを浮かべるがその場に倒れ込む。
その額には大量の汗が吹き出し、何より肩の傷からは出血が続いていた。
「エイラ、おいエイラ!! くそっ、しっかりしろ!!!」
ヴゥゥゥゥン……。俺はすぐに回復の魔法を使いエイラの傷を治していく。
するとしばらくしてエイラは俺の腕の中で力なく再び目を開いた。
「……タイチ様」
よ、よかった……。ただあれだけの血を流したんだ。
すぐに街に戻ってきちんと医者に見せた方がいいかもしれない……。
「ごめんエイラ。助けに来たのに逆に俺が助けられてしまった……」
「フフフッ、良いんですよ。いつもタイチ様には助けられっぱなしですから、たまには私が助けないと不公平ですもの。 ……ってあれ、タイチ様!?」
「ありがとう、エイラ……」
「はい……」
エイラは突然自分を抱きしめた俺に声が裏返るが、すぐに顔を真っ赤にさせながらその身体を抱き返した。
その光景をニヤつきながらルナが見つめていると、洞窟の入り口から物音がしたため、3人はその方向へと一斉に視線を戻した。
「やれやれ……、少々間が悪かったかな??」
「ディートゲイルか……」
ハハハハハッ……。 ディートゲイルは笑いながら俺達の前に姿を現すと、その後ろに倒れている蒼龍の団の団員たちの姿に手に持っていた剣を収めた。
まさか本当にタイチ殿達だけで蒼龍の団を壊滅してしまうとは……。
だがタイチ殿のあの姿、なるほどな……。
「タイチ殿。お主、人間ではなくアンデッドだったのだな」
はっ、しまった!! そう言えばさっきの変な魔法のせいで死者の反逆が解除されてアンデッドの姿なんだった!!
俺は慌てて右目を手で覆ったが、ディートゲイルそんな俺の姿に笑い声を上げると右手を小さく左右に振るのだった。
「ガハハハハッ、そう慌てずともよい。お主の正体が分かったことで何故それほどの力を持っているのか理解できた。確かにアンデッドは討伐の対象になっているが、エイラ殿やルルミア殿がおる。美女の悲しむようなことはせんよ!」
「……ありがたいが、それは領主としてはどうなんだ?」
「……確かに!! なんてな」
ハハハハハハッ!!! ディートゲイルの言葉でその場にいた全員が笑い声を上げると、洞窟の入り口から大勢の人間がこちらへ進んでくる音が聞こえた。
「バーナー卿!! どこですか!?」
「まずい、部下たちがもう追いついてきたか。タイチ殿、他の者にお主達の姿が見られては面倒だ。ここは私に任せてすぐにこの場を離れよ」
確かに人間はアンデッドに対してはいい感情は持っていないだろうな……。
それはこの世界に来てから遺跡で嫌と言うほど味わった。ディートゲイルのような奴は稀な存在だろう。
「……わかった、それじゃあここは頼む」
「うむ! また落ち着き次第屋敷に呼ぶことにするので、勝手に街を離れるなよ??」
「……ハハハッ、分かったよ。ルナ、行くぞ!!」
「は、はい!!」
ヴゥゥゥゥン。 俺はエイラを抱きかかえルナが側来たのを確認すると不可視を発動。
ディートゲイルは消えていく中手を振るエイラに手を振り返し、3人が完全に姿を消した瞬間兵士達がディートゲイルの元に到着した。
「バーナー卿、ここでしたか……、こ、これは一体……」
「詮索はあとだ。今は息のある者を全て捕え街まで運べ!」
「りょ、了解いたしました!! おい、行くぞ!!」
兵士の中でも隊長格の者が部下に命じ倒れている蒼龍の団の団員達に縄をかけ運び始める。
ただ唯一意識がある者、ラティウスの元にはディートゲイルが近づいていった。
こいつはまさかラティウス・ヘルベルグか?! 生きていたとは……。
ただこの姿は……。
「ヒヒヒヒッ、ヒヒッ……」
「はぁ、全く……。タイチ殿はどんな魔法を使ったのだ? あのラティウスが正気を保てない程とは……」
ディートゲイルは目の前で笑い続けるラティウスの姿に、俺の力の強大さを改めて認識すると共に、そのあまりの力に呆れ、大きくため息を付くと部下たちの元へと戻っていくのだった。
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