18 蒼龍の団を殲滅しよう! 中
ギュースト市から南西20km、蒼龍の団拠点 大洞窟前。
盗賊団はエイラの誘拐に成功したことに浮かれており、なおかつ未だ自分たちの拠点が発見されていないことから見張りとして周囲を警戒しているのは3人の男だけであり、その3人も洞窟前の岩に腰かけながら酒をあおっていた。
その様子を既に大洞窟の近くまで到着していた俺は、森の闇に身を隠しながら見つめている。
奴ら完全に油断しきっているな。ただ魔力反応から洞窟の中には数十人の盗賊がいるみたいだ……。
キィィィン……。俺が魔力探知を使用し洞窟内の盗賊団の数を確認しているため、俺の左目は赤く光りを放つ。
しばらくして、辺りの偵察を行っていたルナが俺の背後に現れた。
「タイチ様。偵察が終わりました」
「そうか……。それでどうだった??」
「はい、見張りの男を1人尋問したところ、タイチ様の予測通りあの大洞窟にはもう一つ抜け穴があるそうです。その位置はあの入り口の反対側で、魔法で上手く消されておりました。」
やっぱりな……。ディートゲイルが正確な位置を掴めなかった程の奴らだ、逃げ道を確保していないわけないとは思っていた。
俺はその報告にゆっくりと振り返ると、こちらを見つめるルナへと答える。
「分かった。ならお前はその隠し通路から中へと入ってくれ。それと、その尋問した男は……」
「フフフッ、ご心配なく! 既にこの世にはおりませんので我らの存在が知られることはありません!!」
ルナは俺の言葉に親指を立てながら笑顔で答えた。
うっ!! 笑顔が眩しい……。
でも人1人殺したと聞いてもさほど心が痛まない。俺もやっぱりアンデッドってことなのかな……。
所詮人間はアンデッドの食料に過ぎない、か。
「……それじゃあ、そろそろ中へと入るとするか。その前に、お前の姿を何とかしないとな」
ブゥゥゥン……。 俺はルナへと右手を向けると創造を解除。
ルナの体は赤黒い光に包まれると、猫の姿だった時の皮膚を破るようにその内部から肉がただれ、一部の骨はむき出し、だが光輝く美しい鎧に身を包んだ元の守護者の姿へと戻っていくのだった。
「これは……」
「盗賊団の中には俺達の姿を知らない奴もいる。それに万が一今の姿で盗賊団を襲撃しているのを誰かに見られでもしたら今後の旅にも支障が出る。アンデッドは人間に受け入れられることは無い存在だからな。それなら元の姿に戻った方が俺達だとバレることはない」
「なるほど、その通りですね。しかしこの体は懐かしい! これで私も存分に力を発揮できます!! ……では私はこれにて!」
ハハハッ!! ルナは久しぶりの元の姿がよほど嬉しいのか、何度も屈伸をし体の動きを確認した後、俺に頭を下げ不可視を使用しその場から姿を消していくのだった。
……さて、それじゃあ俺も行くとするか。
それにしても蒼龍の団……、俺の仲間に、エイラに手を出すとは……。
ブァァァァッ!!! ルナがその場を後にしていくのを確認し、1人になった俺は洞窟の入り口へと視線を戻し、辺りは不気味な静けさが包み込んでいく。
今まではルナやルルミア、ディートゲイルなど第三者がいたことで無意識に抑え込まれていたエイラを連れ去られたことに対する負の感情、怒りが爆発。
すると次の瞬間、今まで着ていた衣服が飛び散り、俺の体を地面から発生した無数の布のようなものが巻き付くと頭髪、口、右目以外の殆どの部分がそれに覆われた。
その姿になった俺はこれまで感じたことがないほどの魔力の高ぶりを感じつつ、その高揚感に全身が支配されたことで笑みを浮かべながら洞窟前を見張る男達の元へと進み始めるのだった。
だが、俺が自身の頭の中に響き渡った言葉を認識することはもう少し後の事である。
(アンデッドスキル 捕食が発動しました。)
大洞窟内。
ラティウスを先頭に、蒼龍の団の面々は目の前に現れた俺、そしてその手に掴まれている2つの遺体から目が離せない。
それは先ほど自分達の足元に転がってきた遺体と同じように水分をなくしており、それが自分たちの仲間だった者と理解すると、ますます恐怖で体を動かすことが出来ないのだった。
ただ先頭で俺と対峙するラティウスだけは小さく息を吐いた後、いつものように笑みを浮かべ口を開く。
「ふぅ……、どうやら私が待っていた者とは違うようでした。見た所あなたはアンデッドのようですが、ここは穏便に済ませませんか?? その手に持っている我々の仲間の事は何も言いません。ですからあなたもここから立ち去って頂きたい。我々は今忙しいのでね……」
クククッ……。ラティウスは口に手を当て小さく笑みを浮かべる。
その姿に徐々に落ち着くを取り戻した他の団員も笑い声を上げていくが、しばらくして俺から投げられたものが地面に転がる音で、再び全員が瞬時に口を閉ざすのだった。
「いや、間違っていませんよ? あなた方が待っているのは私で間違いありません。それが証拠の品です」
……これはまさか!!
ラティウスはその言葉と共に俺が投げたものに視線を移す。
そこには団員に記憶の中で見た俺の右目を覆っていたマスクが転がっており、そこでようやく目の前にいるアンデッドが俺だと気づいた。
「あ、あなたが仮面の男……。まさかアンデッドだったとは……」
「アンデッドだって?!」
「言葉を話すアンデッド……、まさか特殊アンデッドか?!」
ザワザワッ……!! ラティウスの言葉に、後ろに並ぶ団員達が騒ぎ始める。
その更に後ろで、地面に倒れ鎖に繋がれるエイラは人混みの隙間から何とか俺の姿を見ることが出来た。
あれがタイチ様?! いつもと雰囲気が違う……。
それにあの口調、やっぱり何かおかしい!!
「タ、タイチ様! 私は無事で……」
「おい、黙ってろ!! 殺されたいのか?!」
「ぐっ!!」
エイラは自分の無事を知らせようと口を開くが、自分を奴隷にしていたあの男に口を塞がれる。
そのためエイラの声は俺には届かない。
タイチ様……! 助けて!!!
「……フフフッ、しかし特殊アンデッドをこの目で見ることが出来るとはね。これは運が良かったかもしれませんねぇ……、あなたを捕えればあのお方は益々お喜びになられることでしょう!!」
ジャキッ。 いまだ騒ぐ団員達を横目に、ラティウスは右手で剣を頭の上に、左手で短刀を体の前に構える。
その姿を見た団員達も先ほどとは打って変わり歓喜の声を上げ始めた。
「おぉー! 頭が本気になったぞ!!」
「そうだ、頭はLv.88の正真正銘の怪物。アンデッド如きに負けるはずがないんだ!!」
「やっちまえ頭!!」
私に勝てるのは伝説の五賢者か、数名の上級冒険者に王国軍の幹部、それとあのお方くらいだ。
このアンデッドがいかに強いと言ってもこれまで一度もその存在を聞いたことがない。
つまりはその程度の存在ということ!!
「……では、参ります!!」
シュッ!! しばらくして団員達の声が静まったその瞬間、ラティウスは一瞬で俺の後ろまで移動。右手に構えた剣を一気に振り下ろした。
その攻撃力は凄まじく、俺の体を上下に真っ二つに両断したに留まらず洞窟の地面も両断し、洞窟全体を震わせる。
しかしラティウスが両断した俺へと視線を戻すと、その身体はまるで水に溶ける紙のように消え去るや否や、俺は何事もなかったようにラティウスのさらに後ろに姿を現した。
「なっ……!! まさか幻!?」
「ハハハハッ、よくお分かりで。いや、自信たっぷりだったのでどれほどの腕かと思えばこの程度ですか??」
あり得ない!! 私が幻に引っかかるなど……!!
いや、それよりもこいつの動きが全く見えなかった!! 一体どうなっているんだ??
「くっ! フ、フフフッ、何を言う!! まだまだこれからですよ!!! 剣技 十字光斬!」
シュッ!!! 俺からすぐに離れたラティウスは両手に持つ剣と短刀を体の前で十字に振りぬく。
するとそこから放たれた光る斬撃は俺に襲い掛かるが、俺は左手を前に出し容易にその斬撃を受け止めるのだった。
これにはラティウスはもちろん、戦いを眺めていた団員達も言葉が出てこない。
そんな蒼龍の団とは反対に、俺は体の奥から湧き出る感情を抑え入れ無くなる。
く、食いたい……!! この場にいる全ての奴らを喰らいたい!!
「……うあぁぁぁぁ!! くたばれこの化け物!!!」
攻撃を容易に受け止めた俺だったが強まる衝動を何とか抑えようと膝を付くと、その隙を付き一人の団員が剣を抜き俺へと襲い掛かった。
その瞬間、俺の中で生まれた衝動は一気に弾け、その団員の首を掴むとその手のひらに小さな口が現れ団員の首に噛みつく。
すると団員は徐々に体の血を吸われていき、ついにはミイラの様な姿になり地面に倒れ込んだ。
「……うわぁぁぁぁぁ!!!」
「こんな化け物に勝てるわけねぇ!!!」
「俺はまだ死にたくねぇ! もう盗賊なんてやめてやる!!」
「待ちなさいあなた達!! 逃げずに戦え!!!」
目の前でおきた出来事でパニックに陥った団員達はラティウスの制止も聞かず武器を捨てると一斉に隠し通路のある方向へと走り出す。
「はぁ、はぁ……、ぐはっ!!!」
「な、なんだ?!」
ブシュゥゥゥッ!!! しかし先頭の団員が体から血を噴き出し動きを止めたので後に続いていた者達も何とか足を止める。
しばらくすると、先頭の団員の胴体を突き刺す剣の姿が現れその後不可視を解除したルナも姿を現した。
「こ、ここにもアンデッドが……!! まずい、すぐに頭の元に戻るんだ!!!!」
「……昼間の恨み、ここで晴らさせてもらう!!」
「た、助け……、ぐあっ!!!」
「待ってくれ……、ぎゃぁぁぁ!!」
シュッ! 団員達の前に現れたルナは、昼の鬱憤を晴らすかのように炎を纏わせた拳で次々と団員達の体を貫いていく。
しかし何とかその地獄から逃げ出せた団員達はラティウスの元まで逃げてくるが、その前には不気味な光を放つ左目を持つ俺がおり、再び後ろに下がろうとするがそこには他の団員達を倒したルナが拳に炎を纏わせ立っていたのだった。
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