17 蒼龍の団を殲滅しよう! 前
「………………」
ルルミアが何が起きたのかその詳細を話終えても、しばらくの間その場にいた者は誰も口を開かなかった。
しかし全員がエイラを攫っていった敵の正体について確証に近いものを心の中に抱いていた。
恐らくエイラを連れ去ったのは蒼龍の団に違いない。
そしてその長髪の男というのは、宿の親父が言っていた親玉ってところか……。
ルナをここまで打ちのめすほどの相手。レベルは100を超えているかもしれないな。
「……ゴホッ!! うっ、ここは……?」
「ルナ! 気が付いたか?!」
俺が敵の想像以上の力にその存在について考え込んでいると、回復魔法によって傷が癒えたルナがゆっくりと目を開いていく。
そのことに気が付いた俺は安堵の表情を浮かべ、抱えていた腕の中からルナを床へと下ろしていった。
「あれ? タイチ様?? ……そ、そうだ! 私は突然背後から無数の斬撃を受けて……」
「記憶はハッキリしているみたいだな。それならもう問題はないだろ」
「……タ、タイチ様! エイラは? エイラはどこにいるのですか??」
ルナは俺の言葉に一瞬表情を緩ませるが、すぐに辺りを見渡しエイラの姿がないことに気が付き珍しく声を荒げ取り乱す。
だが俺もルルミアもその言葉にすぐには答えることが出来なかったため、エイラの身に何か起こっていることに気づき俺に深く頭を下げるのだった。
「タイチ様! 申し訳ありません!! 私が不甲斐ないばかりにエイラの身に……」
「ル、ルナ様……。 タイチ様、ルナ様を責めるならまず私を責めてください! 私はすぐ側にいながらもエイラさんをみすみす奴らに……」
ルルミアは膝を付き頭を下げるルナに続き、自身も腰の剣を床に置き同じように頭を下げる。
「いや、頭を上げてくれ。今回の事は全て俺のせいだ。2人を責めるつもりはないよ」
まさか敵の親玉がこんな街中まで来るとは思ってもいなかった……。
完全に敵を甘く見ていた。これだけの盗賊団が相手だったんだ、一緒にいるべきだった……。
ギリッ……。 俺は頭を下げる2人には小さく笑みを浮かべながら答えるも、自分の考えの甘さからエイラを危険な目にあわせてしまったことに、自らの不甲斐なさを思い拳に力が入る。
そんな3人の姿を見つめていたディートゲイルは、ゆっくりと俺の元まで近づき口を開いた。
「タイチ殿、少し落ち着くのだ。幸い蒼龍の団の拠点となっている場所は絞り込めている。今からすぐに一つ一つ潰していけば時期にエイラ殿も見つかるだろう」
「……いや、まだ日は明るい。これだと動いても俺達を見つけてくれと言っているようなものだ。それに、こちらの動きに気づいた奴らが姿を消してしまうかもしれない……。討伐隊に加わりたいと言ったが大勢では動けない。ここは俺達だけで行く」
元々俺の正体がバレることがないようにディートゲイルの力を借りるつもりだった。
でも今はそうも言ってられない……。相手は元々エイラを物みたいに扱っていた奴の仲間だ、誰かに正体がバレてでも力を解放し、すぐに助け出さないと……!
「いや、しかしだなタイチ殿……」
「ルナ! もう動けるか?? すぐにでもエイラを助けに行く!」
「も、もちろんです! 今度は油断しません!!」
俺はディートゲイルの言葉を遮るように目の前のルナに声をかける。
その言葉にルナも真剣な表情で答えると、俺はルナの隣にいるルルミアに視線を移した。
「ルルミア、お前はここに残ってくれ」
「なっ、私も共に参ります! どうか連れて行ってください!!」
「だめだ!!」
ビクッ!! 思わず口から出てしまった俺の大きな言葉に、ルルミアは驚いたように口を閉ざした。
俺はそんなルルミアの肩に手を置くと、今度は出来るだけ優しく話しかけていく。
「ごめんルルミア。でも今回の相手はお前の手に負える相手じゃない。ルナでさえ簡単に倒すほどの相手だ。お前はこの街で俺がエイラを連れ帰ってくるのを待っていてくれ……。頼む」
「…………」
ルルミアはい俺の言葉を聞きしばらく考えた後、小さく息を吐き笑みを浮かべた。
「……ふぅ、分かりました。確かに今の私では足手まといになりそうですね……。でもこれだけは約束してください! 絶対にエイラさんを連れて帰ってくると……」
「……当たり前だろ。俺に任せとけ!」
俺はルルミアにそう答えると、ゆっくりと立ち上がりルナと共に扉のある方向へと進み始める。
しかしその俺の肩をディートゲイルすかさず掴み、出ていこうとする俺を制止するのだった。
「待つのだ、タイチ殿!! お主達だけで行かせられるはずがないであろう!! ここは私、いや我々に任せるのだ。それに行くといっても奴らの居場所は完全には絞り込めていない……」
チリッ……。 その瞬間、ディートゲイルは俺から発せられる威圧感に咄嗟に肩を掴む手を外した。
な、なんだ今のは……! これほどの威圧感を受けたのは生まれて初めてだ。
このタイチという男、もしかすると想像以上の力をもっているのでは……?
「……その言葉だけもらっておくよ」
バタンッ!! 俺は言葉を失うディートゲイルに軽く振り返り笑みを浮かべると、ルナと共に部屋を後にしていく。
そして、俺達が出ていき扉が閉まる音で気を取り直したディートゲイルはすぐに部屋にある窓の側まで駆け寄ると、その窓を開き目の前に広がる街へと視線を向ける。
するとそこには、領主館から出て来た俺が建物の屋根を飛び移りながらとてつもない速さで南西の方角へと消えていく姿があった。
まるで進む方角に迷いがない。
……ハハハッ、そうか! タイチ殿は既に敵の拠点を知っていたのだな。
あの方角にあるのは……、確か大洞窟!
「……フレーゲル!」
「はっ! 何でございましょう??」
「直ちに軍に出発の準備をさせよ! 我々もタイチ殿の後を追うぞ!! やはりあの者達だけに任せるわけにはいかないからな……」
「……承知いたしました、直ちに」
フレーゲルは胸に手を当て頭を下げると、ディートゲイルの言葉を伝えるため急ぎ部屋を後にしていった。
部屋に残される形となったルルミアは、まだ窓から外を眺めているディートゲイルの側まで進むと、同じように俺が消えていった方角に視線を向ける。
タイチ様、ルナ様、エイラさん……。どうかご無事で……!
ギュゥ……。 ルルミアはそう心に思い浮かべると、胸の前で両手を握り、3人の無事を祈るように目を瞑り願うのだった。
俺達が出発した数時間後。
日は既に殆ど沈み、ギュースト市を始め辺りの森の中に闇の世界が広がりつつあった。
それは蒼龍の団が拠点としている大洞窟周辺も同じであり、盗賊達は松明に火をつけ、焚火によって暖を取り始めていた。
そんな盗賊達がひしめく洞窟の一番奥、ラティウスのいる場所に鎖で繋がれたエイラの姿があった。
「それにしても頭! 今日のあの猫、捕まえて見世物にでもしたらかなりの金になったのでは??」
「確かにな! あの獣人の娘も中々の上物だったな。あーぁ、やっぱり一緒に連れてくればよかったぜ!!」
ハハハハッ!! ラティウスの周りにいる盗賊達は大きく笑い声を上げながら酒を飲んでいく。
ひと際豪華な敷物の上に座るラティウスもそんな盗賊達の姿に笑みを浮かべグラスに入っている酒を口に運んだ。
「あそこで獣人も連れ去っては例の仮面の男に我々の存在が気づかれないでしょう?? 私達は盗賊団、舐められたままにしておくのは癪ですからねぇ……」
「ガハハハハッ、違いねぇ!! 流石は頭、抜け目がないですな!!」
「恐らく仮面の男はディートゲイルに助けを求めるか、冒険者を雇い何とかしてこの場所に辿り着くでしょうね。そうなれば袋の鼠。一瞬で私の刀であの世に送って差し上げましょう。」
キンッ……! ラティウスは側に置いてあった刀を抜くと、その刀身に舌を這わすような仕草を見せつける。
「おぉ……、何だかその仮面の男の同情したくなっちまったぜ。」
「馬鹿野郎! 奴は俺達の仲間をコケにしたんだ、死んで当然じゃねぇか! なぁ、お前もそう思うだろ??」
ガシャンッ!! その言葉で巨大なグラスに入った酒を一気に飲み干した、エイラを奴隷としていた男がそのグラスを地面に勢いよく置いた。
「当たり前だ!! あの野郎、絶対に許さねぇ……。今度会ったら頭の皮を剥いで、目玉をくり抜いてやるぜ!!」
「フフフフッ、それは頼もしいですねぇ……。ではその仮面の男がここに来たら、彼に最後の止めを刺すお仕事をあなたに譲って差し上げましょう」
「それは本当ですか?? あ、ありがとうございます頭!!」
男はラティウスの側まで近寄り頭を下げると、ラティウスの後ろで鎖に繋がれ怯えた目で自分を見つめるエイラへと視線を移すと、不気味な笑みを浮かべエイラへと近づいていく。
「頭……、こいつがあの方への贈り物なのは分かりましたが、その前に俺に味見をさせてくれませんか?? こいつを買った時から思っていいたんですよ……」
「ふむ……。まぁ、あのお方はそういうことには寛大なお方です。余興としては面白いかもしれませんね。まだ幼いですが、これほどの上玉はそうはお目にかかれませんからね……。殺さない程度に皆さんで楽しんでくださって構いませんよ」
おぉぉぉぉぉぉ!!!!
ラティウスの言葉に久しく女性を抱いていない盗賊達は歓喜の声を上げ、酒や食事も放り出しエイラの元へと殺到した。
そしてあっという間に服をはぎ取られ殆ど裸に近い姿にされたエイラへと盗賊達の手が次々と伸びていった。
「いやっ、やめて!! タイチ様!!」
「タイチ様だぁ? それがあの男の名前なのか??」
ハハハハハッ!! エイラは何とか抵抗するも自分の倍近い体の男に敵うはずもなく、かろうじて残っていた肌着も切り裂かれそうになる。
しかしその時、洞窟の入り口を見張っていたであろう者の叫び声と共に、ミイラのように体中の水分を失っている死体が男達の足元へと転がってくるのだった。
「こ、これは……」
あまりに突然の出来事に、盗賊達はエイラを襲う手を止め足音と共にこちらに近づいてくる何者かに警戒を強めていく。
その中でもラティウスは、その強大な魔力量を感じ取り、ゆっくりと立ちあがると剣を構え盗賊達の前へと進んでいった。
この魔力量……。フフフッ、もしかすると私はとんでもない虎の尾を踏んでしまったのかもしれませんね……。
面白い……!!
「お待ちしておりましたよ」
「……お前が蒼龍の団の頭だな?」
ジャリッ……。 その言葉と共にしばらくして松明と焚火の光に照らされ現れたのは、ラティウスが想像していた俺の姿ではなく、黒いマントに身を包み、顔、体の殆どを包帯の様な布で覆われながらもむき出しの右目の眼球から赤い光を放っている異様な存在の俺であった。
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