15 エイラの行方・・
翌朝。
未だ街の中を行きかう人は殆どおらず、空も明けきっていない時間に俺達が泊まる部屋の外からルナがテレパシーを送り俺を呼び出す。
眠る必要がない俺は部屋にある椅子に腰かけながらスキル 習得者で出現させた魔法書を読んでいたが、ルナからのテレパシーを受け取ると、自身の隣に置かれている机の上の蝋燭の火を消し、まだベッドで眠るエイラとルルミアを起こさないようゆっくりと部屋を後にしていった。
「……それで、あいつの後を上手く尾行できたか??」
「はい、もちろんでございます」
俺は部屋を出た先にある廊下で待っていたルナの報告を聞くため、壁に背を預けルナへと視線を向ける。
念のため奴の後をルナに追わせていたが、まさか奴が盗賊団の仲間だとは思わなかったからな……。
テレパシーでエイラ達には悟られないようルナには詳細を知らせてはいるが……。
「あの男はこのギュースト市から南西に20kmの地点にある洞窟の中へと消えていきました。洞窟の入り口には警戒魔法が施されていたため中へは潜入できませんでしたが、魔力の反応から中に数十人はいたと思います。恐らくタイチ様に知らされた盗賊団で間違いないかと……」
となれば、そこが盗賊団 蒼龍の団の拠点って訳か。
俺はその言葉に腕を組み少し考えた後、ルナへ答えていく。
「なるほど……。よくやってくれたルナ。あとはあいつらをどうするかだな……」
「タイチ様の命とあればこのような事いつでもお申し付けください。ただ一つ気になるのは、洞窟内の魔力反応の中にかなり高レベルと思われる反応があったことです。自分で言うのも悔しいですが、あれは私では到底敵わないと思われます」
俺はルナのその言葉に少なからず驚いた。
ルナ……、いや上位アンデッドである守護者はLv.40近いアンデッドだ。
以前のエイラの話からこの世界の人間の殆どはLv.20前後と推測できる。
その中では俺はもちろん、ルナでさえ強者と言っていいい存在だろう……。
だがそのルナが自分では到底かなわない存在と言うほどの相手……。恐らくレベルは70~80、いや下手をすれば100を超えるかもしれない。
そうなると死者の反逆を使用し力が制限されている今の俺では負けることも……。
だが人目のある場所では死者の反逆を解除することも出来ない。
アンデッドが街に現れたらそれこそパニックの元だからな。
「……分かった。それだけの相手なら、俺も少し対策を考えてみるよ。お前は今日一日エイラとルルミアの警護についてくれるか? 本当は武器や防具、それと服などの生活用品を買いに行く予定なんだが、少し行きたいところが出来た」
「……了解致しました。」
俺が少し考えた後に口を開くと、ルナは真剣な表情を浮かべ頭を下げる。
しかし、しばらくしてルナの視線が俺の後ろへと向けられ、そのことに気が付いた俺が振り返るとそこには心配そうにこちらを見つめているルルミアの姿があった。
「タイチ様……、あの……」
「……ルルミアか。俺達の話を聞いていたのか??」
コクッ……。 ルルミアはその言葉に何も言わずただ無言で小さく頷いたあと、小さな声で話始めた。
「盗み聞きするつもりはなかったのですが、タイチ様が部屋を出たのに気が付いて、心配になり後をつけて来たのですが……。もしかして昨日のあの男、この辺りを荒らしているあの盗賊団の仲間だったのですが??」
すぐにその答えに辿り着けるということは、やっぱりルルミアは頭がいい。
これは下手にはぐらかすよりも正直に話した方がよさそうだな。
「……そうだ。だからまたあいつが仲間を連れて戻ってくることも考えられる。そうなればエイラに危険が及ぶかもしれない……。ルルミア、お前にもな……」
「そんなことになっているなんて……。タイチ様! 私にも出来ることはありませんか?? タイチ様には村を、仲間達を助けて頂いた恩があります! 私に出来ることは何でも仰ってください!!」
ルルミアは俺の手を自身の胸に当て、さらに俺へと詰め寄ってくる。
おぉ……。そんなに近づいたら無防備な寝巻の隙間からその豊満な胸が……。
い、いや、こんな時に何を考えているんだ俺は!!
俺はルルミアから少しばかり離れると小さく咳ばらいをしながら高揚した気持ちを落ち着かせ、再び口を開く。
「わ、分かった。ならルナと一緒にエアラの事を守ってくれ。普通の盗賊相手ならルルミアも負けないだろ??」
「も、もちろんです! 私はフーゼル村一の剣技の使い手! 盗賊団如きには負けません!!」
「あ、ああ。それじゃあよろしく頼むよ……」
「タイチ様もルルミアとエイラには敵いませんね……」
ハハハッ……。俺が再び距離を詰めて来たルルミアの言葉にたじろんでいると、その光景を見ていたルナが小さく笑みを浮かべながら首を左右に振る。
その姿を見た俺とルルミアもしばらくお互いの顔を見つめた後、笑みを浮かべ小さく笑い合うのだった。
─ギュースト市中央 領主館 ディートゲイルの執務室─
日も昇り、街がいつものように賑わいを見せている頃、ディートゲイルは自分がいない数日の間に溜まりに溜まった書類に目を通していた。
その書類の束は、正午を過ぎても机の上に半分以上残っており、流石のディートゲイルもやや疲れた表情を浮かべ小さく息を吐きながら座っている椅子の背もたれに体重をかけるのだった。
そんな中、フレーゲルが扉を開き中へと進みディートゲイルの耳元まで移動すると、執務室内にいる数人の兵士に聞こえぬよう口を開いた。
「……ディートゲイル様、例のタイチと申す者がお目通りを願っております。何やら重要な話があるとのことですが、いかが致しましょう?」
「……タイチ殿が??」
一体何用なのだろうか?? これから蒼龍の団討伐の作戦会議が入っているが……。
フム……。 ディートゲイルはしばらく考えた後、隣にでこちらを見つめるフレーゲルに答えていく。
「分かった、会おう。タイチ殿は私の命の恩人、無下にはできない。会議の方は少し先に延ばしてもいいだろう。奴らは逃げはしないだろうからな……」
「承知いたしました。では早速そのように計らいます」
フレーゲルはそう答えると、執務室に集まっていた兵士達、彼らはディートゲイル配下の部隊の隊長達をしばらくの間隣の部屋で待機するように指示し部屋から出ていかせると、自身もディートゲイルに頭を下げ執務室を後にした。
その後しばらくしてフレーゲルが再び執務室へ戻ってくると、その後ろから俺が続き執務室へと入ってきた。
「これはタイチ殿! まさかそちらから来てくれるとは思っていなかったぞ!! それで、今日はどのようなご用件ですかな??」
まったく、相変わらずでかい声だな……。
俺は椅子に腰かけているディートゲイルの前まで進み、その隣にいるフレーゲルに視線を移しながら答えた。
「その前に他の人がいたんじゃ話しにくい。2人にしてくれるか?? あんたを信用していない訳ではないが、俺達に監視を付けているくらいだ。そちらも完璧には俺を信用していないんだろ??」
ほう……、あの監視に気が付くのか……。
一応配下の中でも一番隠密に長ける、しかも不可視を使用できる者を選んだつもりだったのだが……。
「……いや、あれはタイチ殿たちの安全を考えての事だ。だが、その事に不満があるのならすぐにでも監視の者には監視を止めるよう命を出そう。それとここにおるフレーゲルは私が一番信頼する者。人払いには及ばないと思うが……」
ディートゲイルは目の前の机に両肘を付き顔の前で手を組むと、フレーゲルに視線を向け笑みを浮かべながら答えた。
どこまで本当なんだか……。だが、ここはこいつの協力を得る必要があるからな。
この事は別に今はどうでもいい……。
「……分かった。なら今後は気を付けてくれたらそれでいい。それで今日来た理由なんだが、確かあんたは盗賊団を追っているんだったよな?」
「いかにも。奴らの行為は既に見過ごせるものではない。すぐにでも我らが得た情報から推測した拠点へと攻撃を開始する予定だが、それがいかがした??」
「それはもしかして蒼龍の団という奴らか??」
ほう、タイチ殿も何か知っている様子だな……。
これはタイチ殿をこちらに引き入れるチャンスかもしれない。
「その通りだ。まさかタイチ殿がそこまで知っているとは少し驚いたぞ!」
ハハハハッ! ディートゲイルは大きく笑い声を上げながら答える。
そんなディートゲイルにも顔色を変えず、タイチは更に話を進めていった。
「……奴らの拠点の目星はついているんだよな??」
「もちろんだ。フレーゲル、地図を」
「かしこまりました」
フレーゲルは答えると、懐から折りたたまれた紙を取り出し机の上に広げていく。
全てを広げ終えるとそこにはギュースト市とその周辺の地形が描かれており、その中に3ヶ所だけ印がつけられている場所があった。
「この3ヶ所が怪しいと我らは思っている。だがこれ以上は絞り切れなくてな……。そのためこれらを順に潰していこうと思っているのだ」
ディートゲイルは椅子から立ち上がり、地図につけられている印を順に指差し俺に答えていった。
北西の廃村、東の砦跡、それに南西の森か……。
確かルナの報告ではこの南西の森にある洞窟が奴らの拠点だったはず。
なるほど、ディートゲイルも有能であることは間違いないみたいだな……。
俺がしばらく口に手を当て考えていると、そんな俺を不思議に思ったのかディートゲイルが再び口を開いた。
「して、タイチ殿。これがいかが致した?」
「いや、少し俺達もこの蒼龍の団と厄介なことになったみたいなんだ」
「なんと!! それは誠か?!」
「あ、ああ。内容は詳しくは言えないがエイラの身が危ないかもしれない……。そこであんたの力が借りたいんだ。……頼む、俺もその討伐作戦に参加させてくれないか??」
俺の意外な言葉にディートゲイルは言葉を失う。
しかし初めから俺の力を味方に引き入れることを目的にしていたため、ディートゲイルは気を取り直すと願ってもないその申し出を快諾しようとした。
まさか私が言う前にタイチ殿から協力を申し出てくれるとはな……。
「それはありがたい! ぜひタイチ殿のお力を……」
バタンッ! しかしその瞬間部屋の扉が勢いよく開いた。
その音で俺を始めディートゲイルとフレーゲルも扉へと視線を移すと、そこには警備の兵に制止されながらも息を切らしこちらに向かってくるルルミアの姿があった。
そして、ルルミアが俺の目の前まで進んでくると、その腕の中に抱かれているものを見た俺は言葉を失う。
「なっ……! ルナ?! 何でこんな姿に!!」
「も、申し訳ありませんタイチ様……」
「……エイラ、おい、エイラはどこだ!!」
一体何があったんだ……! しかもよく見たらルルミアの体も傷だらけじゃないか!!
俺はすぐにルナの体を抱くと、急ぎ回復の魔法をルナ、そして目の前のルルミアに施してい始める。
ルルミアは初めは気が動転していたのか何も話さなかったが、回復の効果で徐々に落ち着きを取り戻し、俺に何が起きたのかを話し始めた。
「申し訳ありませんタイチ様……。エイラさんは……、奴らに連れ去られてしまいました!」
……クソッ! 想像はしていたがやっぱりそうか!!
そして言葉を失う俺に、ルルミアは溢れる涙を拭いながらさらに事の詳細を話していくのであった。
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