11 初めての街!
「それにしても、あんたがこのギュースト市の領主様だったとは……」
俺はギュースト市内に通っている石で舗装された中央の道を、ディートゲイルと数人の兵士に続き進んでいる。
ギュースト市はこの辺りで一番栄えている街と言うだけあって、レンガで作られた家屋に多くの商店。それに人間だけでなく獣人などの亜人も多く街の中を行きかっていた。
だが、こいつが領主だとは……。
世の中何が起きるか分からないもんだな。
「ハハハハハッ! いや、すまなかったな! 騙しているつもりはなかったのだ。それでどうだ、ギュースト市は??」
「とても素晴らしいところです!! 私こんなに沢山の店がある場所は初めてです!!」
エイラはギュースト市に入ってからというもの、辺りの風景に目を輝かせていた。
その興奮は、その言葉でディートゲイルにも伝わったのか、ディートゲイルはエイラの答えに更に大きく笑い声を上げる。
「そうかそうか! 喜んでもらえたのであれば私も嬉しい。それでタイチ殿。これからお主はどうするのだ??」
そうだな……。まずは身分証を登録するのが先だな。
その後にこれからの旅に必要なものを買うことにするか……。
「俺達はこれから身分局に行こうと思う。身分証を持っていないんじゃまたさっきみたいなことが起こるとも限らないからな。」
俺の言葉にディートゲイルは後ろの兵士に何かを伝えると、その兵士はどこかへ走り出し、しばらくすると大きな印と数枚の紙を持って戻ってきた。
「バーナー卿! 持ってまいりました!!」
「うむ、ご苦労である」
な、なんだ? あれは確かルルミアの身分証にも描かれていた紋章だけど……。
俺はディートゲイルが受け取った紙と印に描かれている紋章に見覚えがあったが、そのことを尋ねる前にディートゲイルはその紙を俺に手渡した。
「ではこれに手を置き名を名乗ってくれるか?」
「これを持ってか? わ、分かった。……タイチ。」
ヴゥゥゥゥン……。 俺が手渡された紙を両手で持ち名前を口にすると、空欄であった場所に炎と共に名前が浮かび上がった。
しばらくして炎が消え名前が完全に刻印されたのを確認したディートゲイルは、印を名前の上に押しつける。すると印と名前が青く光を放ち始めた。
「よし。これで完了だ。後はここにタイチ殿の血を付ければいい。これを使ってくれ」
ディートゲイルは短剣を取り出し俺に手渡す。
……これが一番の問題だな。俺は元々アンデッド、普通は血なんて出ない。
死者の反逆が人間と同じ姿に変化させるといっても、どこまで同じなのか正確には分かっていないからな……。
ゴクリッ……。俺は短剣を恐る恐る受け取ると、ゆっくりと左手の人差し指にその刃先を当てる。
すると、少しの痛みと同時にそこからは赤い血が流れ落ちるのだった。
よ、よ、よかったーー!!!
てか、この身体だと痛みも感じるのか……。これは気を付けないといけないな。
シュッ。 俺は死者の反逆の思いがけない欠点を心に刻むと、目の前の紙の上に自分の血を数滴垂らした。
「これで完了だ。さぁタイチ殿、お主の身分証を受けとりたまえ。おっと、通常であれば登録料として銀貨2枚を貰う所だがタイチ殿には一飯の恩がある、特別にタダでよいぞ!!」
……一飯って。あんたの場合何飯分食ったと思ってるんだよ。
はぁ……。俺が小さくため息を付きながら丸められ筒の中に入れられた身分証を受け取ると、ディートゲイルは後ろにいたエイラにも同様の筒を手渡した。
「エイラ殿、これはお主の身分証だ。部下に身分局へ行かせるついでに再発行するように頼んでおいた。確かお主も身分証をなくしていたのだろう??」
「今朝話したことを覚えていてくれたんですね! ありがとうございますディートゲイル様!!」
「ハハハハハッ! なぁに美しい者の事は全て覚えているのだよ!! どうだ、惚れ直したのであれば今からでも私の嫁に……」
「それは結構です!! 私にはタイチ様がいますから!!」
ギュゥ……。 エイラは膝を付き手を差し伸べるディートゲイルの申し出を丁重に断ると、俺のマントを掴み笑みを浮かべるのだった。
「ハハハハハッ! これはまた振られてしまったわ! タイチ殿には敵わんな!!」
敵わないも何も、俺とエイラの間には何もないんだが……。
うっ……! 何か後ろから視線が……。
俺が視線のする後方へとゆっくりと振り向き視線を向けた先には、ルルミアが頬を膨らませこちらを見つめて、いや、睨みつけていた。
そのことに気づいた俺は、その視線を慌ててディートゲイルに戻していった。
「そ、そう言えばもう1つ聞きたいんだが、この辺りでどこか宿はないか?? エイラ達もいるからな、多少高くても出来れば個室だとありがたいんだが……」
「ふむ、そう言うことなら私の屋敷に……、は、嫌のようだな」
当たり前だ。これ以上あんたみたいなうるさい奴と一緒にいたら耳がおかしくなる!
「ではこの先にある中央宿がいいだろう。他と比べれば少し値は張るが、周りには警備の者もおるし料理も美味いぞ! お前、タイチ殿たちを中央宿へ案内してくれるか??」
「了解いたしました!!」
ディートゲイルの供をしている兵士の中で最も若い兵士は、その命を受け敬礼を行うと俺の元に進んでいく。
「ではタイチ殿! 私は屋敷に戻りやらねばならぬことがある故、このあたりで。今回の恩は機会を見て必ずお返しする!」
「そうか。でも、もうあんなところで遭遇するのはごめんだからな?」
ハハハハハッ! ディートゲイルは笑みを浮かべながら答えた俺の冗談に、大きく笑い声を上げながら街の中央に見える大きな建物へ向かい、その場を後にしていった。
「……では、我々も参りましょう」
「はーい。 ほら、ルルミアさんも行きましょう!!」
「あっ、待って……。私はタイチ様と……」
エイラはルルミアの手を掴むと、先を進む兵士の後に続き走り出した。
ただ、ルルミアは俺に何か言いたげな様子だが……。
「しかし、本当にこの世界は異世界なんだな……」
人間の姿は元の世界とあまり変わらない。ただ、こうして獣人達が行きかっていたり、中世のような風景を見ると俺がいた世界とは違うということが実感される……。
まぁ、これまでもフーゼル村や遺跡のアンデッドで嫌と言うほど感じてはいたんだけどな。
「ほら、タイチ様!! 早く来ないと先に宿に入っちゃいますよ?!」
しばらく俺が街の風景を眺めながら街の中を進むと、前方に見える建物の入り口からこちらに手を振るエイラの姿が目に入った。
兵士は既に案内を終え、ディートゲイルの元に戻ったようだ。
「……ここが中央宿か」
「そうだぜ。 兄ちゃん達はこの宿に泊まるのかい?」
俺がエイラ達の元に到着し、入り口上に掲げられている文字に目を向けていると、入り口のすぐ横に置かれていた椅子の上に腰かけている男が声をかけてきた。
……あっ、さっき言ってた宿の警備の人か!
俺は男が身に着けている鎧や武器を見て、先ほどディートゲイルが言っていたことを思い出すと、その男の質問に答えていった。
「ああ、そのつもりだ。俺達は3人なんだが、まだ部屋はあるかな?」
「それなら大丈夫だぜ! 今日は客が少ないからな、いつもよりも安く泊まれるだろうさ! その入り口から入りな!!」
「そうか、それならよかった。教えてくれてありがとうな!」
「……おっと、へへ! ありがとうよ兄ちゃん!」
俺は入り口へ進むと、マントの下から銅貨を2枚取り出し、その男へと投げ渡した。
男はその銅貨を空中で掴むと笑みを浮かべ、自分の懐にしまっていく。
この世界でもチップはあるみたいだな。
大学の時に海外旅行に行ってて良かった~……。
ギィィィィ……。俺は金を快く受け取った男に安堵の表情を浮かべると、目の前の木製の扉を押し、建物の中へと進んでいく。
男の言っていた通り、中にいるのは店の人間と思われる2人の店員だけであり、その中の机を拭いていた女性がこちらに気づき近づいて来た。
「ようこそ中央宿へ!! ……ちょっとお父さん! お客さんだよ!!」
「……あっ? おっと、これは失礼! ようこそ中央宿へ!!」
ガタンッ! 女性は俺に気づいた後、カウンターの奥で腕を組み眠っていた男性の体を揺さぶり声をかけながら急いで起こし、その男性も俺達に気づくとすぐに満面の笑みでこちらに近づいて来た。
女性の話から、恐らく親子なんだろうな。
「えっと、3名と……、猫が1匹だな!」
「あ、ああ。」
「それなら1泊銅貨5枚ってところだ!」
銅貨5枚か。確か銅貨10枚で銀貨1枚だったな……。
フーゼル村での報酬もあるし、これから大蜥蜴の鱗も売ればもう少し足しにはなるだろう。
しばらくの間は大丈夫だな。
「分かった、それでいい。ならとりあえず6日分頼めるか??」
「ああ、大丈夫だぞ! それなら銀貨3枚だな!!」
チャリンッ……。俺が銀貨の入った袋の中から銀貨3枚を取り出し手渡すと、男性は笑顔で受け取り女性に声をかける。
「それじゃあミミ、この兄ちゃん達を部屋に案内してやってくれ」
「分かりましたー! こっちです!!」
「エイラ、ルルミア、ルナ。お前達は先に部屋に向かっててくれ」
「あれ? タイチ様は行かれないんですか?」
ルルミアは俺の言葉で立ち止まると、心配そうにこちらを見つめる。
「ああ、少しここで休んでから行くことにするよ。ルルミア、エイラ達のことを頼めるかい?」
「も、もちろんです! 任せてください!! さぁ、エイラさん! ルナ様! 早く参りますよ!!」
ルルミアは、頼られたことがよほど嬉しかったのかすぐに表情が明るくなると、荷物を背負いミミに続いて2階にある部屋へと進んでいく。
エイラとルナは、好奇心には勝てないのか、俺が言う前に既に2階へと上がってしまっていたが……。
「それにしても兄ちゃん、えらいベッピンな子を連れてるんだな。 全く、羨ましいぜ!」
ルルミア達が部屋に向かい、俺がカウンターにある椅子に腰かけると、男性はその頭と同じくらい光る歯を見せ笑みを浮かべた。
「……そうか? それなら親父の娘さんの方が綺麗じゃないか??」
「おっ、兄ちゃんお目が高いな!! あいつは俺に似ずに器量良しに育ってくれたからな。親としては変な虫が付かないか心配なんだよ。……もし兄ちゃんが手を出したら、その時は分かってるな?」
おぉ……。何その腕、俺の3倍くらいあるじゃないですか……。
これは、ミミさんと結婚する人は大変だな……。
ははははっ……。 俺は笑みを浮かべながらも、目が笑っていない宿屋の親父に苦笑いを浮かべその話を受け流すことしかできないのであった。
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