第2話 ソーセージ丼
どうぞお好きなものをご注文ください。ただし、本当にお好きなものを。もし違うものを注文した場合、この異世界から永遠に帰れません。そういうルールです。
◇◇◇
「は? また?」
デジャヴなのか。夢なのかわからない。確かわたし、金曜日の夜に残業し、深夜に自宅についた。そこまでは覚えている。疲労困憊すぎてベッドにダイブした後の記憶はなく、気づいたら森の中にいた。ここは異世界?
足元にある紫色のキノコ、どう考えても元いた世界にはないもの。毒キノコだろうか。
先週も同じだった。なぜか変な料理店に辿り着き、ルール通りに従ったら、元の世界に帰れたのだ。
ぴちぴちと小鳥の声が響く。あさひが眩しい。おそらく時系列は土曜日の朝だ。そこは異世界でも変わりないらしいが、とにかくあの料理店を探さないと。
仕事が山積みだった。健康食品の会社で営業職をしている私。今度社長の知り合いがやっている自給自足コミュニティにもプレゼンする予定もあったし、山村に出張予定もある。帰らないと。
急ながら森を歩き続けた。正直、右も左もわからない。人影もないが、先週の記憶を頼りに歩くしかない。
「うーん。お腹減ったな」
昨日はプレゼン資料も作っていたので、お昼ご飯を食べる暇もなかった。夕食も酷いものだった。
そう。社長が作った自家製のソーセージだった。スピ系や自然派にかぶれている社長、市販のソーセージは添加物が大量に入っている悪魔の食品だと脅し、さらにお手製のソーセージを一緒に食べようと誘ってきた。
会議室で他の社員数名と食べたが、社長お手製のソーセージ、べちゃべちゃと柔らかく、ローズマリーの匂いも効きすぎていた。不味かった。そう、とっても不味かったが、顔にも声にも出せるはずがない。
社長はワンマンだし、家族経営の会社の二代目でもある。相当甘やかされて育ったらしく、正直、先代の社長のおかげでなんとか保っているような会社でもあった。
「う……」
社長のお手製ソーセージの味を思い出すだけで、胃のあたりがキリキリしてきたが、わたしだって社会人。ベテランの社会人だ。そんな不味いとか、自然派にかぶれすぎとか本音など言えるわけもない。
そんなことを思い出しながら歩いていると、ようやくあも料理店が見つかった。
先週と同じだ。宮沢賢治の世界にありそうな料理店。玄関には動物のオブジェが並び、庭の花も派手だ。目がチカチカしてきそうだったが、早く帰らないと。
早歩きで料理店に入った。先週と同じだったら、例のメニューブックが置いてあるはずだ。
その予想は当たった。店の一台しかないテーブルの上のは、先週と同じようにメニューブックがおいてある。
慌てて椅子に座り、メニューブックを開く。汗でおでこや手のひらもじっとりしていた。正直、今は水が一杯欲しいと思った時。
「は?」
まるで魔法のようにコップの水が出現。誰かわたしの思考を読んでる?
あたりを見るが誰もいない。背中がぞくっとし、本当に帰れるか分からない。この水も毒入りだったりして。誰かにとって食われても不思議ではない。
とはいえ、喉の渇きには負けた。水を飲む。ほっとした。毒入りではなさそうだ。
ホッとしたついでにメニューブックも開く。
どうぞお好きなものをご注文ください。ただし、本当にお好きなものを。もし違うものを注文した場合、この異世界から永遠に帰れません。そういうルールです。
余計にホッとした。先週と全く同じだ。ここでルール通りに従えば帰れるはず。気が抜けた。肩の力も抜けた。
それにあんまり帰りたくないのも事実。仕事は山積みだったが、社長のお手製ソーセージを思い出すとうっと胃酸が出そうで。
「社長のソーセージ、すっごい不味かった!」
本音がポロリ。大人ぶって社会人らしくいた。建前で塗り固め、ヘラヘラ笑っていたが、本当はあんなもん食べたくないし、カリカリに焼き目がついたフツーのソーセージが食べたい!
その時、目の前にソーセージ丼が出現した。まさに理想的なこげめのソーセージが四本。半熟の目玉焼きもトッピングされ、目にも鮮やか。その上、この香ばしいにおい、耐えられない。
「いただきます」
割り箸を折り、無茶で食べ始めた。そう、このジャンキーな味!
わたしが今、一番好きな味だ。玉子の黄身を箸でとかし、ソーセージに絡めて齧り付く。そうそう、このカリカリ食感を求めていた。
「お、おいしい……」
そう呟いた瞬間。自宅に帰ってきた。まだソーセージ丼はぜんぶ食べていないのに。
「中途半端!」
これはもう自分で作るしかない。着替えて近所のコンビニでソーセージと玉子を買ってこよう。建前も大人も社会人も全部お休みしよう。




