カティア
辺境街へ戻った頃には、既に深夜になっていた。
だが。
ギルドの中は、異様な熱気に包まれている。
「うおおおっ!!」
「生き残ったぞぉ!!」
酒。
肉。
笑い声。
怒鳴り声。
完全に宴会だった。
スタンピードを防ぎ切ったのだ。
しかも報酬は破格。
緊急大規模討伐依頼。
危険手当。
素材買い取り。
冒険者達の懐は、一気に温まっていた。
「飲め飲め!!」
「今日は寝るまで騒ぐぞ!!」
「お前さっき死にかけてただろ!」
「だから飲むんだよ!!」
滅茶苦茶だった。
リザリアも当然混ざっている。
「肉追加ァ!!」
巨大な串肉を抱えて笑っていた。
完全に楽しそうである。
その一方。
ザインは、ギルドの端の席へ静かに座っていた。
騒ぎから少し離れた位置。
仮面。
フード。
そして左腕は包帯で吊られている。
手元には、大きな木製カップ。
中身はミルクだった。
「……」
周囲は酒だらけだ。
だが、ザインは普通にミルクを飲んでいる。
そこへ。
「……隣、いいかしら」
女性の声。
ザインが顔を上げる。
そこに立っていたのは、弓使いだった。
茶髪。
人間の女性。
細身。
落ち着いた雰囲気。
スタンピードの時、狼型魔獣に襲われていた人物だ。
ザインは小さく頷く。
「どうぞ」
女性は静かに座った。
そして。
少しだけ、ザインを見る。
仮面。
包帯。
その奥。
何か考えるような視線だった。
やがて。
小さく口を開く。
「カティアよ」
灰青色の瞳が、静かにザインを見る。
「……先程は助かったわ」
落ち着いた声だった。
カティアは、静かにザインを見ていた。
周囲では宴会が続いている。
笑い声。
酒瓶の音。
リザリアの「肉追加ァ!!」という声まで聞こえる。
だが。
この席だけ、妙に静かだった。
カティアの灰青色の瞳が、ザインの仮面をじっと見つめる。
そして。
ぽつりと呟いた。
「……仮面」
ザインが少し視線を向ける。
「直したのね」
その言葉に。
ザインの肩が、ほんの僅かに揺れた。
スタンピードの最中。
仮面が割れた瞬間を、彼女は見ている。
カティアは続けた。
「どうして、そんなに顔を隠してるの?」
静かな声。
責めるようではない。
だが。
何かを探るような視線だった。
ザインは少し黙る。
ミルクの入ったカップを見る。
カティアは更に続けた。
「あなた、歳はいくつなの?」
「……」
「戦い方、慣れ過ぎてる」
「でも、顔はまだ子供だった」
暖炉の無いギルドなのに。
ザインは妙に熱を感じていた。
質問が、鋭い。
観察眼が高いのだろう。
流石、弓使いだ。
ザインは少し困ったように視線を逸らした。
「……質問多いですね」
「気になるもの」
カティアは即答した。
その声音は穏やかだった。
ザインは言葉に詰まる。
年齢。
顔。
仮面。
過去。
どこまで話すべきか分からない。
カティアは、そんなザインをじっと見ていた。
まるで、“何か”を見抜こうとしているみたいに。
「……もっとよく」
カティアが、静かにザインを見る。
灰青色の瞳。
観察するような視線。
「顔、見せてくれない?」
そのまま。
カティアはザインの右手を掴んだ。
逃がさない、とでも言うように。
ザインの肩が、僅かに強張る。
距離が近い。
宴会の喧騒の中なのに、この席だけ妙に静かだった。
カティアはじっとザインを見る。
「あなた」
「本当に何者なの?」
静かな声だった。
ザインは言葉に詰まる。
仮面の奥で、黒い瞳が揺れる。
その時だった。
「ザインさーん」
間延びした声。
二人の間へ、ぬっと受付嬢が割り込んできた。
狸系獣人の受付嬢。
両手には木製トレー。
その上には、大きなミルクと焼きたてのクッキーが乗っていた。
「追加のミルク持ってきましたよー」
そして。
カティアを見る。
少し困ったように笑った。
「カティアさ〜ん」
「お酒の勢いも良いんですけど、程々にしてくださいね?」
完全に“酔って絡んでる”扱いだった。
カティアが少し眉を顰める。
「別に酔ってないわよ」
「はいはい」
受付嬢は慣れてる感じで返す。
そのまま、ザインの前へミルクとクッキーを置いた。
「今日は頑張りましたからね」
「サービスです」
にこっと笑う。
ザインは少し目を瞬かせた。
「……ありがとうございます」
その横で。
カティアはまだ少し不満そうにザインを見ていた。
だが。
さっきみたいな鋭い空気は、少し薄れていた。




