野盗
リザリアと組み始めて、一ヶ月後。
ザインとリザリアは、正式に銅級へ昇級した。
青銅より更に上。
もう“見習い上がり”ではない。
辺境でも、一人前として扱われる冒険者ランクだった。
ギルド内でも二人はかなり知られるようになっていた。
「またあいつら討伐成功かよ……」
「リザリアだけじゃなく、後衛の仮面もヤバいんだよな」
「連携がおかしい」
そんな声も増えていく。
実際。
二人は強かった。
リザリアが前線を粉砕し。
ザインが冷静に援護する。
役割分担が綺麗に噛み合っていた。
その結果。
討伐依頼だけでなく、商隊護衛の依頼も来るようになっていた。
そして。
ある日の事。
ザインとリザリアは、辺境街から隣町――温泉街へ向かう商隊護衛を請け負っていた。
馬車が連なる山道。
荷台には薬草や鉱石、保存食。
商人達が忙しそうに動いている。
「温泉街かー!」
リザリアは機嫌が良かった。
「終わったら温泉入ろうぜ!」
「……仕事中ですよ」
「硬ぇなぁお前!」
そんな会話をしながら、二人は街道脇の森を警戒していた。
その時。
ガサァッ!!
森から魔獣が飛び出す。
牙狼。
三体。
「来たぞ!!」
リザリアが笑う。
巨大曲刀を抜き放ち、そのまま突撃。
「オラァッ!!」
ズバァンッ!!
一撃で一体を両断。
更に尾で二体目を吹き飛ばす。
ザインも後方から風刃を放つ。
「――風刃」
空気が裂ける。
飛び掛かった牙狼の首が飛んだ。
あっという間だった。
商人達が「すげぇ……」と呆然とする。
だが。
その瞬間。
ザインの黒い瞳が、ぴくりと揺れた。
「――っ」
風。
殺気。
次の瞬間。
ヒュンッ!!
遠くから矢が飛来した。
一直線。
商隊の商人目掛けて。
「伏せて!!」
ザインが叫ぶ。
同時に杖を振る。
ガギィン!!
風圧で矢道を逸らす。
矢が馬車へ突き刺さった。
その直後。
森の奥から怒号が響く。
「やれぇぇぇッ!!」
複数の影。
剣。
弓。
粗末な鎧。
野盗だった。
リザリアの瞳が、一瞬で獰猛に細まる。
「……へぇ」
巨大曲刀を構える。
尾が低く揺れた。
「魔獣の次は人間かよ」
「ギャハハッ!!」
野盗達が森から飛び出す。
数は十を超えていた。
粗末な装備。
だが、辺境慣れした動きだった。
弓兵が後方。
前衛が商隊へ突っ込んでくる。
「商人守れ!!」
ザインが叫ぶ。
「おう!!」
リザリアは笑った。
そのまま地面を砕く勢いで突撃する。
巨大な二刀曲刀が唸る。
「オラァァッ!!」
ズバァンッ!!
野盗がまとめて吹き飛ぶ。
血飛沫。
骨が砕ける音。
更に尾が横薙ぎに振るわれ、別の野盗達を叩き潰した。
強い。
圧倒的だった。
前衛としては、まさしく怪物。
野盗達も完全に怯み始めていた。
だが。
リザリアは前へ出過ぎていた。
「逃がすかぁ!!」
森の奥へ逃げた野盗を追って、更に踏み込む。
その瞬間。
ザインの黒い瞳が揺れた。
「リザリア、前に――」
言い切る前に。
別方向から野盗が飛び出す。
商隊狙い。
「うおっ!?」
商人達が悲鳴を上げる。
ザインは即座に前へ出た。
「――風刃」
薄緑色の刃が飛ぶ。
ズバッ!!
野盗の肩を裂く。
更に。
「風圧!!」
衝撃波で飛来する矢を逸らす。
ヒュンッ!!
矢が馬車へ突き刺さる。
だが。
数が多い。
後方支援だけでは捌き切れない。
その時。
一人の野盗が、ザインへ肉薄した。
「死ねぇッ!!」
剣が振り下ろされる。
近い。
避け切れない。
ザインは反射的に左腕を構えた。
黒い魔力義手。
咄嗟に魔力を流し込む。
いつものように。
風刃を放とうとする。
だが――
「――っ?」
違和感。
次の瞬間。
左腕から放たれたのは。
いつもの薄緑色ではなかった。
薄紫色。
禍々しい光。
空気が、びりりと震える。
「――な」
ザイン自身が、一瞬固まる。
そして。
放たれる。
ズバァァァッ――!!
薄紫色の刃が、野盗を飲み込んだ。
威力が違う。
野盗の身体が、鎧ごと真っ二つになる。
止まらない。
後方の木々までまとめて斬り裂き、森を一直線に薙ぎ払った。
静寂。
商人達が凍り付く。
野盗達も、動きを止める。
そして。
ザイン自身が、一番驚いていた。
「……え」
左腕。
薄紫色の魔力残滓が、まだ揺らめいている。
いつもの風魔術ではない。
もっと重い。
もっと禍々しい何か。
それを見た瞬間。
遠くで戦っていたリザリアが、振り返った。
薄紫色の斬撃。
それはあまりにも異様だった。
森を裂き。
木々を薙ぎ払い。
野盗を鎧ごと真っ二つにした。
そして。
次の瞬間には――
「ひっ……」
野盗達の顔色が変わる。
完全に恐慌だった。
「ば、化け物……!!」
「逃げろ!!」
「やってられるか!!」
統率は、一瞬で崩壊した。
まるで鼠の群れみたいに、野盗達は森へ散っていく。
誰ももう戦おうとしない。
静寂。
風が吹く。
商隊の人間達は、呆然としていた。
やがて。
商人の一人が、震える声で言う。
「……た、助かった……」
それを皮切りに、次々と感謝の声が上がる。
「ありがとうございます……!」
「銅級でこんな強いなんて……!」
「命拾いした……!」
リザリアは巨大曲刀を肩へ担ぎながら、大きく笑った。
「ははっ!!」
「楽勝だったな!!」
そのままザインへ近付き、ばんっと肩を叩く。
「お前の魔術、流石に強ぇなぁ!」
尾がぶんぶん揺れている。
「初めて見たぞ、あんなの!」
完全に楽観的だった。
深く考えていない。
“強かった!”
くらいの感覚だ。
だが。
ザインは、笑えなかった。
一人。
静かに左腕を見ている。
黒い魔力義手。
その表面へ、まだ薄紫色の残滓が微かに揺らめいていた。
いつもの風刃ではない。
威力も。
感触も。
何かが違った。
ザインの黒い瞳が、小さく揺れる。
――あれは何だ。
心臓が、妙にざわついていた。




