リザリアとの仕事
それから。
ザインは、リザリアと共に依頼を受けるようになっていった。
最初は周囲の冒険者達も驚いていた。
「あのリザリアと組める奴いたのか……」
「仮面の坊主、意外と図太いな」
「いや、あいつも大概強ぇぞ」
そんな噂が、ギルド内を飛び交っていた。
だが。
実際に依頼へ出ると、その相性は妙に良かった。
リザリアは前へ出る。
一直線。
暴風みたいに敵陣へ突っ込み、巨大な曲刀を振り回す。
通常の冒険者なら両手で一本扱うような重量武器。
それを片手一本ずつ。
獣じみた膂力で振り回す。
「オラァッ!!」
ズドンッ!!
魔獣が吹き飛ぶ。
骨が砕ける音。
血飛沫。
更に尾による薙ぎ払い。
接近した魔獣を、そのまま叩き潰す。
完全に前衛特化。
しかも本人が楽しそうだった。
「ははっ!!」
「やっぱ魔獣退治はこうじゃねぇとな!!」
リザリアは討伐依頼を好んだ。
採集より。
護衛より。
戦う仕事。
だから自然と、依頼内容も魔獣討伐へ偏っていく。
そして。
ザインは、その後ろへ立つ。
「――風刃」
鋭い風の刃が森を裂く。
リザリアへ飛び掛かった魔獣の首が飛ぶ。
更に。
「右です」
「おう!」
ザインの声に反応し、リザリアが振り向きざま曲刀を叩き込む。
連携。
それは意外なほど自然だった。
ザインは冷静に戦況を見る。
リザリアは直感で敵を潰す。
真逆のタイプ。
だが。
だからこそ噛み合っていた。
いつしか。
ギルドでは二人の姿が普通になっていく。
白髪の仮面魔術師。
暴れ蜥蜴の前衛。
青銅級にしては危険過ぎるコンビだと、少しずつ噂され始めていた。
それから。
ザインとリザリアは、ギルドで片っ端から討伐依頼をこなしていった。
森へ入り。
魔獣を狩り。
素材を回収し。
また次の依頼へ向かう。
そんな毎日だった。
「次どこ行く!?」
「西の森に牙狼の群れです」
「よし行くぞ!!」
リザリアは常に元気だった。
とにかく前へ出る。
敵を見ると笑う。
強敵を見るともっと笑う。
最初の頃は、ザインも少し押され気味だった。
だが。
そんな日々を繰り返す内に、少しずつ変わっていく。
「左から来ます」
「おう!」
「尾の後ろ、もう一体」
「見えてる!!」
二人の連携は、どんどん洗練されていった。
リザリアが敵陣をぶち抜く。
ザインが後方から風刃で援護する。
時には。
ザイン自身も前へ出た。
木杖。
短刀。
最小限の動き。
戦場仕込みの動きに、リザリアは楽しそうに笑う。
「お前、やっぱ戦えるじゃねぇか!」
「少しだけです」
「少しじゃねぇよ!!」
森へ響く笑い声。
そんな日々の中で。
ザインは、少しずつ変わっていった。
ギルドへ来たばかりの頃は、いつも静かだった。
必要最低限しか話さない。
笑わない。
周囲と距離を取る。
まるで、常に何かへ警戒しているみたいだった。
だが。
リザリアと仕事をする内に。
少しずつ。
本当に少しずつだが。
表情が柔らかくなっていった。
仮面越しでも分かるくらいに。
声色が穏やかになり。
冗談へ返事をするようになり。
時折、小さく笑うようにもなった。
「おっ」
ある日、リザリアが目を丸くする。
「今笑っただろ!」
「……気のせいです」
「絶対笑った!!」
尾がぶんぶん揺れる。
ザインは少し困ったように顔を逸らす。
だが。
以前みたいな張り詰めた空気は、もうかなり薄れていた。
辺境街で。
冒険者として。
誰かと並んで依頼をこなす。
ある日の帰り道だった。
討伐依頼を終え。
夕暮れの森を、ザインとリザリアは並んで歩いている。
今日は大型の牙猪討伐だった。
リザリアが前線を押し潰し。
ザインが後方から援護した。
もう随分慣れた流れだった。
「いやぁ、今日の猪デカかったな!!」
リザリアは楽しそうに笑う。
肩には、巨大な曲刀。
尾が機嫌良さそうに揺れている。
ザインはその横を歩きながら、ふと前から気になっていた事を口にした。
「……そういえば」
「ん?」
「リザリア、一人でも充分強いじゃないですか」
リザリアがきょとんとする。
ザインは続けた。
「なのに、どうして最初にあんな試験みたいな事をしたんです?」
「あの時、“一撃防げたらパーティに入れる”って」
「別に、一人でも困ってなかったでしょう」
秋風が吹く。
リザリアは少し黙った。
さっきまで笑っていた顔から、少しだけ表情が消える。
夕焼けの中。
金色の瞳が、静かに揺れた。
「……まぁ」
ぽつりと呟く。
「俺様、強いからな」
いつもの軽口。
だが。
続く声は、少しだけ静かだった。
「でも」
リザリアは前を向いたまま言う。
「俺の強さじゃ、まだ後ろを完璧に守れない」
ザインが少し目を向ける。
リザリアは尾をゆっくり揺らしながら続けた。
「前に組んだ奴、結構怪我したんだよ」
「俺様、前出るタイプだろ?」
「気付いたら横とか後ろ抜かれてる時がある」
少しだけ、自嘲気味に笑う。
「だから、“最低限自分で生き残れる奴”を探してた」
「怪我……してほしくなかったんだ」
その言葉に。
ザインは少し黙る。
リザリアは戦闘狂みたいに見える。
実際、戦うのは好きなのだろう。
だが。
それだけじゃない。
彼女なりに、“仲間を守りたい”と思っていたのだ。
リザリアは頭を掻く。
「だから、お前見た時思ったんだよ」
「こいつ、多分ちゃんと自分で戦えるなって」
「実際めちゃくちゃ戦えたし」
「まぁ予想以上だったけどな!!」
最後だけまた明るく笑う。
尾がぶんっと揺れる。
ザインは少しだけ目を伏せる。
それから。
小さく笑った。
「……そういうところ、結構優しいですよね」
「はぁ!?」
リザリアが素っ頓狂な声を上げた。
「違ぇよ!!」
「俺様は強ぇ仲間が欲しかっただけだ!!」
耳まで少し赤くなっている。
ザインは、その反応を見てまた少し笑った。
そんな日常が。
少しずつ、ザインの中の“戦場”を遠ざけ始めていた。




