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欠けた少年の帰る場所  作者: 羽衣月
冒険者
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初仕事

その後。


ザインは、グリムヴァルドと共に簡単な依頼を受けるようになった。


最初の依頼は、薬草採取だった。


辺境街近郊の森で採れる、一般治療用薬草の収集。


危険度も低い。


新人向けの依頼だ。


だが。


ザインにとっては、ほとんど日課みたいなものだった。


「……こっちにもあります」


森の中。


ザインはしゃがみ込み、雪解け後の地面から薬草を摘み取る。


手際が異様に良い。


葉の状態。


根。


色。


毒草との判別。


迷いが無い。


グリムヴァルドは後ろでそれを見ながら、少しだけ鼻を鳴らした。


「もうその辺の薬師より慣れてるな」


「毎日やってましたから」


ザインは淡々と答える。


収納魔術で薬草をしまう。


その動作も、もう自然だった。


結局。


依頼は半日もしない内に終わった。


普通なら数日掛かる量を、二人はあっさり集めてしまったのだ。


ギルドへ戻ると。


受付嬢のたぬき獣人が、回収袋を見て目を丸くする。


「はやっ!?」


「え、もう終わったんですか!?」


グリムヴァルドは気怠そうに頷く。


「森の薬草程度、慣れたものだ」


受付嬢は慌てて査定を始める。


その横で。


ザインは静かにギルドの中を見ていた。


冒険者達の笑い声。


依頼帰りの喧騒。


酒場の匂い。


戦場とは違う。


けれど。


“生きている人間達の場所”という空気が、そこにはあった。


ザインは無意識に、胸元の紅いプレートへ触れる。


辺境街冒険者ギルド。


ザイン・グリムヴァルド。


その名前で、初めて受けた依頼。


その事実が。


少しだけ不思議だった。


帰り道。


辺境街の喧騒は、もう背後へ遠ざかっていた。


石畳から土道へ変わり。


やがて森の匂いが濃くなる。


秋の風が木々を揺らしていた。


ザインは肩へ薬草袋を担ぎながら歩いている。


仮面。


白髪。


紅いギルドプレート。


まだ少しだけ、それが自分の物ではない感覚があった。


隣では、グリムヴァルドが気怠そうに杖を突いて歩いている。


しばらく無言だった。


だが。


不意に、グリムヴァルドが口を開く。


「今のお主なら、あっという間に昇級するであろうな」


ザインが少し目を向ける。


グリムヴァルドは前を見たまま続けた。


「薬草知識」


「魔術」


「森での生存能力」


「加えて戦闘経験まである」


「辺境の冒険者としては十分過ぎる」


淡々とした評価だった。


だが。


かなり高く見ているのは分かる。


ザインは少しだけ困ったように目を伏せた。


「……そんなつもりは無いんですけどね」


「大抵の奴はそう言う」


グリムヴァルドは鼻を鳴らす。


それから。


ふと、ザインを見る。


「どうだ?」


静かな声。


「この仕事は」


森を風が抜ける。


ザインは少しだけ考える。


冒険者。


依頼。


ギルド。


知らない人間達。


戦場とは違う空気。


誰も、自分へ命令しない。


誰も、“兵器”として見ない。


ただ。


依頼を受けて。


働いて。


金を貰う。


それだけ。


ザインはしばらく黙り。


それから、小さく口を開いた。


「……不思議です」


「不思議?」


「はい」


ザインは紅いプレートへ触れる。


「戦う為じゃなくて」


「生きる為に働いてる感じがして」


その言葉に。


グリムヴァルドは少しだけ目を細めた。


そして。


珍しく、ほんの少しだけ柔らかく笑う。


「そうか」


それだけだった。


だが。


その声は、少しだけ優しかった。


森へ入る道。


落ち葉を踏む音が、静かに響く。


ザインは紅いプレートを指先で軽く弄びながら歩いていた。


まだ慣れない。


“冒険者”という立場も。


“ザイン・グリムヴァルド”という名前も。


だが。


不思議と嫌ではなかった。


その時。


隣を歩くグリムヴァルドが、ふと口を開く。


「あと、お主」


「はい?」


「なるべく丸一日の仕事は避けろ」


ザインが少し首を傾げる。


グリムヴァルドは前を見たまま続けた。


「魔力が尽きれば、その腕は消える」


静かな声だった。


ザインは無意識に、左側へ視線を落とす。


黒い長手袋の下。


常時展開されている魔力義手。


グリムヴァルドから教わった南方魔術。


失った左腕を、魔力で無理矢理“形”として維持している。


今ではかなり自然に扱える。


だが。


所詮は魔術だ。


常に魔力消費が発生している。


睡眠不足。


長時間戦闘。


魔力消耗。


そういった状態が続けば、維持は崩れる。


ザインは小さく頷いた。


「……分かってます」


グリムヴァルドは鼻を鳴らす。


「分かっておる奴ほど無茶をする」


「特にお主みたいなのはな」


ザインは少し黙る。


グリムヴァルドは続けた。


「その腕は便利だ」


「だが、“本物の腕”ではない」


「魔力が切れれば消える」


「つまり、お主の限界が来た時、一番最初に壊れる」


秋風が吹き抜ける。


ザインは静かに左手を握る。


黒い魔力の指先が、小さく揺らいだ。


グリムヴァルドはそんなザインを横目で見ながら言った。


「生き延びろ」


「無理をして死ぬな」


「お主、そういう無茶をしそうな顔をしておる」


ザインは少しだけ目を伏せる。


それから、小さく答えた。


「……努力します」


グリムヴァルドは「努力で済ませるな」と呆れたように鼻を鳴らした。

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