表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
欠けた少年の帰る場所  作者: 羽衣月
聖騎士団
62/197

無慈悲な命令

― 聖王国・王城 ―


王城の夜は静かだった。


高い窓の外では、北方の雪が降り続いている。


重厚な執務室。


暖炉の火だけが、薄暗い室内を照らしていた。


机の上には、大量の戦況報告書。


補給記録。


北方戦線の損耗一覧。


その中心で。


聖王国女王アストレア・グランデールは、静かに書類へ目を通していた。


白銀の長髪。


蒼い瞳。


感情の薄い横顔。


まるで氷みたいな女だった。


その時。


執務室の扉が開く。


黒衣の側近が、静かに膝をついた。


「報告します」


女王は顔を上げない。


「言え」


淡々とした声。


側近が一瞬だけ間を置く。


そして。


「追跡に向かった暗部三名」


「……全滅しました」


暖炉の火が、小さく揺れた。


静寂。


側近の額には、薄く汗が浮いている。


だが。


女王は驚かなかった。


ただ静かに、書類から目を離す。


「……そうか」


蒼い瞳が細められる。


「片腕とはいえ」


「暗部如きでは敵わないか」


その声音には、怒りも悲しみも無い。


ただ、事実確認みたいな冷たさだけがあった。


側近が小さく息を呑む。


「想定以上に戦闘能力が高い模様です」


「近接戦闘技術は依然健在」


「更に――」


側近の声が僅かに詰まる。


「対象は、暗部隊員二名の喉部を噛み千切っています」


暖炉が爆ぜる。


パチッ――


小さな火花。


だが。


女王の表情は変わらなかった。


むしろ。


ほんの僅か。


興味を持ったみたいに目を細める。


「……生存本能が強く出始めたか」


静かな呟き。


「やはり適応率が高い」


側近の背筋へ寒気が走る。


この女は。


逃亡した少年を心配していない。


暗部の死も気にしていない。


ただ。


“観察”している。


まるで実験記録を見るみたいに。


女王はゆっくり立ち上がる。


窓の外。


白い雪景色を見つめた。


「聖騎士団を総動員しろ」


静かな声。


だが絶対命令。


側近が顔を上げる。


「……総動員、ですか」


「逃がすな」


女王は淡々と続ける。


「北方全域を封鎖」


「山岳路、旧補給路、雪原地帯、全てだ」


「必ず連れ戻せ」


その声に感情は無い。


あるのは、執着だけだった。


「対象は重要資産だ」


「欠損しても構わん」


「だが死なせるな」


暖炉の火が、女王の蒼い瞳へ揺れて映る。


その姿はまるで。


少年一人を追うというより。


“失われた実験体”を回収しようとしているみたいだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ