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欠けた少年の帰る場所  作者: 羽衣月
冒険者
139/197

誰もが…

深夜。


医務室から泣き声は消えていた。


残ったのは静かな沈黙だけだった。


老医務官はジンの亡骸へ白い布を掛ける。


その手付きは丁寧だった。


長年多くの死を見てきた者の手だった。


そして静かに振り返る。


「しばらくはここで預かろう」


穏やかな声だった。


「この子を外へ出すには夜も遅い」


「私が見ておく」


誰も反対しなかった。


出来なかった。


フィリスは小さく頭を下げる。


アリアも。


ミーナも。


言葉が出ない。


老医務官は再びジンを見る。


白い髪。


安らかな顔。


まるで眠っているようだった。


だからこそ余計に現実感が無かった。


医務室の扉が閉まる。


その音だけが妙に大きく聞こえた。


まるで。


本当に最後の別れのように。


――――――


その後。


フィリス。


アリア。


ミーナ。


三人はギルド宿舎へ案内されていた。


誰も喋らない。


足音だけが廊下へ響く。


フィリスは俯いている。


眼鏡の奥の瞳は赤い。


何度も涙を流した。


それでも足りない。


もっと出来たのではないか。


もっと早く気付けたのではないか。


そんな考えばかりが頭を巡っていた。


アリアはさらに酷かった。


魂が抜けたようだった。


虚ろな瞳。


力の入らない足。


歩いているのが不思議なほどだった。


何も考えたくない。


だが。


考えない事も出来ない。


自分が撃った。


自分が殺した。


その事実だけが頭の中で繰り返されていた。


ミーナもまた無言だった。


小さな手を握り締める。


ようやく会えた。


やっと会えた。


そのはずだった。


それなのに。


もう二度と話せない。


その現実が受け止め切れなかった。


三人は宿舎の部屋へ入る。


誰もおやすみとは言わなかった。


そんな言葉を言える夜ではなかった。


――――――


一方。


ギルド酒場。


こちらも静かだった。


普段なら笑い声で満ちる場所。


今は違う。


灯りだけが揺れている。


リザリアは席に座っていた。


酒を飲む。


また飲む。


それでも酔えない。


酔える訳がなかった。


向かいにはカティア。


その周囲にはヴァレル。


シオン。


ルドヴィカ。


金級冒険者達がいる。


誰も騒がない。


誰も笑わない。


時折杯を傾ける音だけが響く。


リザリアは酒を見つめる。


昨夜の事を思い出していた。


風呂。


部屋。


抱き締めた事。


話を聞いた事。


「目の届くところにいてくれ」


そう言った事。


全部昨日の事だった。


なのに。


もう遠い昔のように感じる。


金色の瞳から涙が零れる。


拭わない。


拭う気力も無かった。


カティアも何も言わない。


ただ隣にいる。


それだけだった。


そして。


深夜の温泉街は静かに更けていく。


誰も眠れない夜だった。



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