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欠けた少年の帰る場所  作者: 羽衣月
冒険者
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ミーナの到着



深夜。


医務室の中では重い時間が流れていた。


その外でも。


誰一人として眠ってはいなかった。


廊下の長椅子には、三人の冒険者が待機している。


ヴァレル。


シオン。


そしてルドヴィカ。


誰も軽口を叩かない。


普段なら場を和ませるヴァレルですら、今は黙っていた。


シオンは何度も眼鏡を押し上げている。


ルドヴィカは壁際に立ったまま動かない。


まるで医務室の扉を守る門番のようだった。


その時だった。


――バンッ!!


ギルドの正面扉が勢いよく開かれる。


冷たい夜風が流れ込む。


吹雪。


舞い込む雪。


その中に、小さな人影が立っていた。


白い毛並み。


小柄な身体。


白鼠獣人の女性。


外套には雪が積もっている。


長距離を休まず来たのだろう。


肩で息をしていた。


それでも彼女は足を止めなかった。


ギルドの中へ飛び込む。


辺りを見回す。


必死な顔で。


泣きそうな顔で。


そして叫んだ。


「ここに!」


息が詰まる。


それでも声を絞り出す。


「ここに、ジンという子はいませんか!?」


ヴァレルが立ち上がる。


シオンの目が見開かれる。


ルドヴィカがゆっくりと振り返る。


白鼠獣人の女性は、さらに一歩前へ出た。


「ジン君は……!」


声が震える。


「ジン君はどこですか!?」


その声がギルドの廊下へ響いた。


ミーナ・フェルトン。


フィリスから話に聞いていた名前だった。


かつて聖騎士団補給班にいた女性。


ジンにとって、家族同然だった者の一人。


彼女はまだ知らない。


この扉の向こうで。


ジンが今、命の淵にいる事を。


ミーナは医務室へ足を踏み入れた。


そして。


全身から力が抜けた。


ベッドの上。


そこにはジンがいた。


白い髪。


青白い顔。


包帯だらけの身体。


弱々しい呼吸。


今にも消えてしまいそうな命。


「……ジン君」


声が震える。


持ってきた荷物が床へ落ちた。


会いたかった。


ようやく会えると思っていた。


それなのに。


どうして。


どうしてこんな事になっているのか。


そして。


ミーナの視線が動く。


フィリス。


血で汚れた手。


俯いた顔。


泣きそうな表情。


さらに。


その隣。


床へ膝をついている猫獣人。


アリア。


ミーナは息を呑んだ。


思い出す。


温泉街へ向かう前の事を。


銃を持っていたアリア。


張り詰めた表情。


暗部を探すと言っていた事。


そして。


自分は止められなかった。


誤解を解けなかった。


言えなかった。


ジンが生きているかもしれないと。


アリアが探している相手が本当に敵なのか分からないと。


何も言えなかった。


アリアが顔を上げる。


涙でぐしゃぐしゃだった。


その顔を見た瞬間。


ミーナは理解してしまった。


理解したくなかったのに。


理解してしまった。


「……アリアさん」


掠れた声だった。


アリアは何も言わない。


言えない。


その代わり。


肩だけが震えている。


ミーナの胸が締め付けられる。


誰が撃ったのか。


もう聞くまでもなかった。


「そんな……」


一歩後ろへ下がる。


視界が滲む。


自分が止めていれば。


もっと早く追い付いていれば。


ちゃんと話せていれば。


そんな後悔ばかりが頭を埋め尽くしていた。


医務室の中には。


泣き声すら上がらない。


ただ。


取り返しの付かない後悔だけが満ちていた。

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