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欠けた少年の帰る場所  作者: 羽衣月
冒険者
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状況説明

ザインは、静かに口を開いた。


「……名前は、分かりません」


掠れた声。


医務室の灯りが、白い髪を照らしている。


「妙に優しそうな顔をした……長身の男でした」


エルカは黙って聞いている。


狐耳が、ぴくりと揺れた。


ザインは続ける。


「投げナイフと、細身の剣を使っていました」


「それと……爆発系の魔術を」


シオンが静かに目を細める。


ヴァレルも腕を組んだ。


レヴィアナだけは、無言でザインを見ている。


そして。


ザインは少しだけ言葉を止めた。


黒い瞳が、ゆっくり医務官を見る。


老人医務官は、その視線で察したらしい。


「あー……」


困ったように頭を掻く。


エルカもすぐ気付いた。


「申し訳無いけど、少し外してくれるかしら?」


「うむ」


医務官は、おずおずと部屋を出て行く。


扉が閉まる。


静寂。


その後で。


ザインは、静かに続きを話し始めた。


「……僕の名前を知っていました」


その瞬間。


空気が少し変わる。


「おそらく……僕を探していたんだと思います」


エルカの狐耳が、不思議そうに垂れた。


「名前……?」


「ザインじゃなくて?」


ザインは、少しだけ視線を伏せる。


そして。


静かに言った。


「……暁ジン」


掠れた声。


「それが、僕の真名なんです」



医務室が静まり返る。


だが。


金級パーティの面々に、驚きは無かった。


エルカだけが、ゆっくり周囲を見る。


ヴァレルは腕を組んだまま、小さく息を吐いた。


「あー……まぁ」


「そこはもう知ってる」


エルカの狐耳がぴくりと動く。


「知ってるの?」


シオンが静かに頷いた。


「以前、本人から聞いています」


レヴィアナも肩を竦める。


「色々あったのよ」


ルドヴィカは無言のまま立っていた。


エルカは少しだけ目を細める。


そして。


改めてザインを見る。


砕けた仮面。


白い髪。


傷だらけの身体。


そして。


妙に幼い顔。


「……なるほどねぇ」


静かな声だった。


「だから、あの男はあなたを狙った」


ザインは、小さく頷く。


「……多分」


エルカは椅子へ深く座り直した。


狐耳がゆっくり揺れる。


「その男、あなたを“回収”しに来た感じ?」


ザインの黒い瞳が少し揺れる。


思い出す。


“身体が欲しい”。


“器”。


あの言葉。


ザインは静かに答えた。


「……そんな感じでした」


その瞬間。


ヴァレルの顔が露骨に嫌そうになる。


「気色悪ぃなマジで」


レヴィアナも眉を顰めた。


「しかも、魔族因子を理解してる節がある」


シオンは静かに続ける。


「聖王国側の関係者か」


「もしくは……」


そこから先は言わなかった。


だが。


全員、何となく察していた。


エルカは少し考え込む。


それから。


静かに言った。


「……今夜から、ギルド側でも警戒を強めるわ」


狐耳がぴくりと立つ。


「少なくとも、ただの通り魔じゃない」


その言葉に。


医務室の空気が、また少しだけ重くなった。


その時だった。


ギルドの奥から、声が響いた。


「ザイン・グリムヴァルドはここにいますか!?!?」


女性の声。


必死だった。


切羽詰まっている。


医務室の空気が、一瞬で張り詰める。


ヴァレルが即座に槍へ手を掛けた。


レヴィアナの魔法陣が、薄く展開される。


シオンも反射的に弓へ手を伸ばした。


ルドヴィカは無言で、ザインの前へ半歩出る。


エルカの狐耳も、ぴんと立った。


「誰――」


そこまで言いかけた瞬間。


バタバタ、と廊下を走る音。


一直線にこちらへ向かって来る。


そして。


勢いよく医務室の扉が開かれた。


「ジン君――ッ!!」


そこに居たのは。


雪に塗れた鳥獣人だった。


暗い羽色。


眼鏡。


乱れた呼吸。


そして。


泣きそうな顔。


フィリスだった。


その瞬間。


ザインの黒い瞳が、大きく見開かれる。


「……フィリス?」


フィリスは、そこでようやく立ち止まった。


肩で息をしている。


雪まみれだった。


おそらく。


温泉街へ着いてから、ずっと探し回っていたのだろう。


だが。


彼女の視線は、すぐザインの姿を捉えた。


包帯。


血。


砕けた仮面。


そして。


傷だらけの身体。


フィリスの顔色が、一瞬で青ざめる。


「ッ……!!」


眼鏡の奥の瞳が揺れる。


「ジン君……!」


泣きそうな声だった。


ザインは、少しだけ困ったように笑う。


「……お久しぶりです」


その言葉を聞いた瞬間。


フィリスの瞳から、ぼろりと涙が零れ落ちた。

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