優男との戦闘、刹那
「これで終わりにします」
優男が、静かに細剣を構えた。
無駄の無い姿勢。
急所を確実に貫く構え。
ザインは、荒い呼吸のままそれを見ていた。
身体が動かない。
血が流れ過ぎている。
魔力も、もうほとんど残っていない。
それでも。
黒い瞳だけは、最後まで諦めていなかった。
優男が踏み込む。
鋭い一撃。
一直線。
喉を狙う、必殺の突き。
その瞬間。
「――終わらせねぇよ!!」
轟音。
横から、巨大な槍が叩き込まれた。
ギィィィンッ!!
火花。
細剣が強引に弾き飛ばされる。
優男の目が、初めて大きく見開かれた。
ヴァレルだった。
長槍を構え、ザインの前へ滑り込む。
馬耳が逆立っている。
完全に怒っていた。
「坊主に何してやがる」
低い声。
殺気。
先ほどまでの軽薄さが、一切無い。
直後。
雪道へ複数の影が降り立つ。
レヴィアナ。
シオン。
ルドヴィカ。
金級冒険者パーティが、追い付いていた。
レヴィアナの青い瞳が、血塗れのザインを見た瞬間。
表情が変わる。
「……っ」
静かな怒気。
空気が軋む。
シオンも息を呑んだ。
「ザインさん……!」
ルドヴィカは無言だった。
だが。
巨大斧を握る音が鳴る。
優男は、数歩下がった。
それでも笑みは崩れていない。
「……なるほど」
柔らかな声。
「金級が来ましたか」
ヴァレルは槍を回す。
「テメェが例の殺人鬼か?」
優男は答えない。
ただ。
穏やかに微笑むだけ。
その姿を見たレヴィアナの目が、静かに細まった。
「……気持ち悪い男ね」
次の瞬間。
無数の魔法陣が展開される。
空気が変わった。
今度は。
“金級パーティ全員”が相手だった。
「……なるほど」
優男は、楽しそうに笑っていた。
雪の夜。
金級冒険者達に囲まれてなお。
焦りが見えない。
「これは、少々分が悪い」
その瞬間。
レヴィアナの魔術が放たれる。
「燃えなさい!!」
轟ッ!!
炎熱魔術が裏路地を飲み込む。
同時。
シオンの矢が飛ぶ。
死角を潰すような精密射撃。
さらに。
ヴァレルが地面を砕きながら突撃した。
「逃がすかァッ!!」
長槍が唸る。
だが。
優男は、その全てを回避した。
炎を掠め。
矢を避け。
槍を流す。
異常な動き。
雪の中を滑るように動きながら、ケラケラと笑っている。
「ははっ……!」
「やはり金級を相手にするのは、少々骨が折れますねぇ……!」
レヴィアナの青い瞳が鋭く細まる。
「……気色悪い」
次の魔法陣を展開。
だが。
その時。
優男の視線が、後方のザインへ向いた。
血塗れ。
満身創痍。
それでもまだ睨んでいる白髪の少年。
優男は、穏やかに微笑んだ。
「それでは」
柔らかな声。
「また会いましょう」
その瞬間。
男が足元へ術式を展開した。
レヴィアナが即座に気付く。
「っ、違――」
轟ッ!!
爆発。
いや。
煙幕。
濃密な煙が、裏路地全体を一瞬で覆い尽くした。
視界が消える。
ヴァレルが舌打ちする。
「チッ!!」
シオンが周囲警戒。
ルドヴィカが斧を構える。
そして。
数秒後。
煙が晴れた頃には。
優男の姿は、完全に消えていた。
静かな雪だけが降っている。
ヴァレルが槍を握り締めたまま吐き捨てる。
「……逃げやがった」
レヴィアナは、険しい顔のまま周囲を見る。
シオンも表情が硬い。
だが。
次の瞬間。
ルドヴィカが低く言った。
「……先にザイン」
全員の視線が向く。
そこには。
雪の中、血塗れで座り込むザインが居た。
白い髪。
砕けた仮面。
消えた義手。
そして。
大量の血。
レヴィアナの顔色が変わる。
「……っ!」
ヴァレルが即座に駆け寄った。
「坊主!!」




