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欠けた少年の帰る場所  作者: 羽衣月
冒険者
113/197

優男との戦闘は続く

「ッ!!」


次の瞬間。


ザインの脚へ、投げナイフが突き刺さった。


深い。


膝の少し上。


筋肉を貫いている。


「ぐっ……ぁッ!!」


激痛。


ザインの身体が崩れる。


雪へ膝を付いた。


逃げようとしていた足が、完全に止まる。


優男は、ゆっくり歩いて来た。


雪を踏みながら。


細剣を片手に。


相変わらず穏やかな顔で。


「これで足は封じましたよ」


柔らかな声。


まるで会話でもしているみたいだった。


「もう逃げられませんねぇ」


ザインは荒い呼吸を繰り返す。


肩。


脇腹。


脚。


全身傷だらけだった。


血が雪へ落ちる。


優男は、小さく首を傾げた。


「どうですか?」


細剣の切っ先が、静かにザインへ向く。


「大人しく、私に捕まってくれませんか?」


その瞬間。


ザインの黒い瞳が、ぐらりと揺れた。


脳裏へ過る。


解体。


切断。


炉心。


実験。


暗い部屋。


悲鳴。


もう。


もう嫌だ。


そして。


ザインは咆哮した。


「――ッッ!!」


雪の夜へ響く叫び。


優男の目が細まる。


ザインは、左腕へ魔力を集中する。


義手。


その奥。


禍々しい魔力が、暴走するみたいに溢れ出した。


紫色の風が巻く。


空気が歪む。


「もう……逃げられないならッッ!!」


轟ッ!!


紫色の巨大風刃が放たれた。


石壁を切断しながら一直線に走る。


だが。


「……甘い」


優男の姿が、消えた。


「――!」


次の瞬間。


もう目の前。


細剣が一直線に、左腕へ突き込まれる。


義手へ直撃。


そして。


刹那。


魔力で構築されていた義手が、弾け飛んだ。


轟音。


紫色の魔力が暴発する。


破片。


光。


雪。


全部が吹き飛ぶ。


ザインの身体が、再び地面へ叩き付けられた。


左側が、空白になる。


義手が消えた。


優男は、静かに細剣を振るう。


そして。


恍惚とした目で呟いた。


「……素晴らしい」


まるで。


宝物を壊した感触を、味わっているみたいだった。


ザインは、それでも立ち上がった。


左側の義手は消えている。


魔力も、もう底が見えていた。


呼吸が荒い。


視界が揺れる。


血が止まらない。


それでも。


黒い瞳だけは、まだ死んでいなかった。


優男が少し目を細める。


「……まだ戦いますか」


ザインは答えない。


答える余裕など無い。


ただ。


地面へ落ちていた短剣を握り締める。


そして。


雪を蹴った。


「ッッ!!」


一直線。


短剣による斬撃。


だが。


キィンッ!!


優男の細剣が、それを止める。


完全に見切られている。


だが。


その瞬間。


ザインは無理矢理身体を捻った。


体勢を崩しながら。


そのまま蹴りを放つ。


「ッ!!」


直撃。


優男の脇腹へ入る。


鈍い音。


だが。


浅い。


優男は数歩下がっただけだった。


それでも。


その顔から、初めて少し笑みが消える。


「……なるほど」


次の瞬間。


細剣が閃いた。


ズブリ、と。


ザインの脇腹へ突き刺さる。


血飛沫。


白い雪へ赤が散る。


「がっ……!!」


だが。


ザインは止まらない。


痛みを無視する。


そのまま。


短剣を振るう。


必死だった。


生きる為だけの斬撃。


だが。


優男の細剣が、それを容易く弾いた。


キィィンッ!!


短剣が、雪の夜へ吹き飛ぶ。


回転しながら地面へ突き刺さる。


その瞬間。


ザインの手が空になる。


武器が、無い。


優男は静かに細剣を構えた。


そして。


穏やかな声で言う。


「……終わりですね」


雪が降っている。


血が流れている。


ザインは肩で息をしていた。


それでも。


黒い瞳だけは、まだ優男を睨んでいた。



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