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欠けた少年の帰る場所  作者: 羽衣月
冒険者
111/197

優男との戦闘

ザインの黒い瞳が、素早く周囲を走る。


逃げ道。


路地。


建物の屋根。


人通り。


瞬時に確認する。


――強い。


目の前の男は危険だ。


しかも。


温泉街の中。


下手に暴れれば一般人を巻き込む。


ザインは一歩後退した。


その瞬間。


優男の手が、僅かに動く。


「――っ」


殺気。


反応は間に合った。


投げナイフ。


一直線。


異常な速度で飛来する。


ザインは咄嗟に杖を振るった。


「ッ!」


風圧魔術。


空気が爆ぜる。


軌道を逸らす。


だが。


完全には逸れない。


ギィンッ!!


甲高い音。


次の瞬間。


ザインの仮面へ亀裂が走った。


白い破片が、雪の夜へ散る。


半壊。


仮面の右側が砕け落ちる。


白い髪。


黒い瞳。


そして。


顔を走る雷傷が露わになった。


優男の目が、静かに細められる。


「……やはり」


柔らかな声。


だが。


そこに迷いは無い。


「貴方でしたか」


ザインは、即座にさらに距離を取る。


風が巻く。


心臓が激しく鳴っている。


戦場の感覚。


逃げろ。


逃げないと。


優男は静かに歩き出す。


雪を踏みながら。


柔らかな笑みのまま。


「安心してください」


その声音だけは、妙に穏やかだった。


「私は、貴方を殺しに来た訳ではありません」


だが。


その殺気だけは、少しも消えていなかった。


「――貴方の身体が欲しいだけです」


優男は、穏やかな声のまま言った。


その内容だけが、異様だった。


ザインの黒い瞳が見開かれる。


次の瞬間。


また男の指が動く。


投げナイフ。


今度は三本。


異常な速度で飛来する。


「ッ!!」


ザインは即座に横へ跳んだ。


雪が舞う。


一本目を回避。


二本目を風圧で逸らす。


だが。


三本目が頬を掠めた。


血。


白い肌へ赤が走る。


そして。


その回避動作の“合間”。


男が、もう目の前まで来ていた。


「――!」


速い。


細剣が閃く。


ザインは咄嗟に身体を捻る。


銀閃。


刃が、顔を掠めた。


頬からさらに血が散る。


あと一瞬遅ければ、首を裂かれていた。


ザインは反射的に風刃を放つ。


だが。


優男は、まるで知っていたみたいに半歩だけ下がる。


空振る風刃。


その動きが異様に洗練されていた。


優男は、細剣を片手で構えたまま微笑む。


「素晴らしい反応速度です」


柔らかな声。


まるで褒めているみたいだった。


だが。


その目は完全に獲物を見る目だった。


ザインは息を荒げる。


強い。


異常に。


しかも。


殺し慣れている。


優男は静かに続けた。


「やはり貴方は、失うには惜しい」


「聖王国の女王は、本当に馬鹿だ」


その瞬間。


ザインの黒い瞳が揺れる。


――聖王国。


――女王。


こいつ。


知っている。


優男は雪の中、細剣をゆっくり構え直した。


「安心してください」


穏やかな声。


「次は、ちゃんと大事に使いますから」


その言葉と同時。


優男の姿が、消えた。


次の瞬間。


「ッ――!!」


優男の蹴りが、ザインの鳩尾へ突き刺さった。


凄まじい衝撃。


空気が、一瞬で肺から押し出される。


だが。


ザインは咄嗟に身体を捻った。


衝撃を殺す。


そのまま雪の地面を転がった。


「っ……!」


呼吸が乱れる。


苦しい。


重い。


ただの蹴りじゃない。


完全に人体の壊し方を理解した蹴りだった。


ザインは即座に起き上がる。


杖を構える。


周囲確認。


そして。


黒い瞳が、僅かに揺れた。


――人通りが無い。


さっきまで温泉街の灯りが見えていた。


だが今は。


裏通り。


薄暗い路地。


雪だけが降っている。


静か過ぎる。


いつの間にか。


完全に人目の無い場所へ追い込まれていた。


優男は、数メートル先へ静かに立っている。


細剣を下げたまま。


柔らかな笑み。


まるで散歩中みたいな顔だった。


「やはり、良い反応をしますね」


穏やかな声。


ザインは返事をしない。


呼吸を整える。


逃げ道を探す。


だが。


優男は、その視線へ気付いていた。


「逃がしませんよ」


その瞬間。


また殺気が膨れ上がる。


ぞわり、と空気が軋む。


ザインは杖を握り締めた。


戦場の感覚。


思い出せ。


冷静になれ。


相手は強い。


だが。


まだ死ねない。


頭の中へ。


ベリアリアの顔が浮かぶ。


暖かな宿。


アップルパイ。


リンゴ。


王蜜。


やっと。


やっと少しだけ、“普通”へ戻れたのだ。


こんな所で終われる訳がない。


ザインの黒い瞳が、静かに細められた。


風が、ゆっくり巻き始める。


風が唸る。


ザインの杖が振るわれた。


次の瞬間。


複数の風刃が、優男へ向かって放たれる。


高速。


鋭利。


石壁すら切断する威力。


だが。


優男は、一切慌てなかった。


細剣が閃く。


キィンッ!!


一枚目を逸らす。


二枚目を回避。


三枚目を最小動作で流す。


動きが異常だった。


まるで。


最初から軌道を知っているみたいに。


ザインの黒い瞳が細まる。


――全部見切ってる。


次の瞬間。


優男が踏み込んだ。


速い。


細剣が一直線に喉を狙う。


「ッ!!」


ザインは反射的に腰の短剣を抜き放つ。


火花。


衝撃。


ギィィンッ!!


細剣と短剣がぶつかる。


重い。


細い剣とは思えない威力だった。


その瞬間。


ザインの足元が、淡く光った。


「――!」


魔法陣。


爆発術式。


仕込まれていた。


優男が、静かに笑う。


「貰いました」


直後。


轟音。


爆炎が、裏路地を飲み込んだ。


だが。


その中心で。


紫色の魔力が、咄嗟に噴き出す。


ザインの左腕。


義手側から、禍々しい魔力が広がった。


爆炎を防ぐ。


衝撃を削る。


だが。


完全には防ぎ切れない。


「ぐっ……!」


ザインの身体が吹き飛ばされる。


石壁へ叩き付けられる。


雪と瓦礫が舞う。


白い髪が乱れる。


優男は、その光景を見て静かに目を細めた。


「……やはり」


柔らかな声。


だが。


その目には、明確な狂気が浮かんでいた。


「その魔力」


「本当に素晴らしい」


まるで。


宝石でも見ているみたいな目だった。


「いいですねぇ……」


優男は、炎の向こうで笑っていた。


柔らかな顔。


穏やかな声。


なのに。


そこにある空気だけが異常だった。


「まだ、そこまで魔族の力を宿していましたか」


クックック、と喉の奥で笑う。


その目は完全に恍惚としていた。


ザインは、即座に走る。


逃げる。


この男と正面からやり合えば死ぬ。


直感が叫んでいた。


だが。


「逃がしませんよ」


次の瞬間。


足元へ再び魔法陣。


「ッ!!」


轟音。


爆発。


ザインは咄嗟に横へ転がる。


熱風が背中を掠めた。


雪が蒸発する。


そこへ。


投げナイフ。


一直線。


ザインは転がりながら短剣を振るう。


キィンッ!!


火花。


ナイフを弾く。


だが。


その直後には、もう優男が目の前まで来ていた。


細剣。


高速の突き。


喉。


心臓。


眼球。


急所だけを狙ってくる。


「ッッ!!」


ザインは身体を捻る。


完全回避は間に合わない。


だから。


左肩で受けた。


ズブリ、と。


細剣が肩へ突き刺さる。


血飛沫。


白い雪へ赤が散った。


「っ……!!」


痛み。


だが浅い。


致命傷ではない。


ザインは、そのまま至近距離で風圧魔術を叩き込む。


轟ッ!!


空気が爆ぜる。


優男が少しだけ後退した。


その隙に。


ザインはさらに距離を取る。


呼吸が荒い。


左肩から血が流れている。


優男は、細剣へ付いた血を見ていた。


そして。


嬉しそうに微笑む。


「素晴らしい」


静かな声。


「本当に、壊れませんねぇ」


その言葉が。


まるで。


“人間”へ向けるものではなかった。


「いいですねぇ……」


優男は、炎の向こうで笑っていた。


柔らかな顔。


穏やかな声。


なのに。


そこにある空気だけが異常だった。


「まだ、そこまで魔族の力を宿していましたか」


クックック、と喉の奥で笑う。


その目は完全に恍惚としていた。


ザインは、即座に走る。


逃げる。


この男と正面からやり合えば死ぬ。


直感が叫んでいた。


だが。


「逃がしませんよ」


次の瞬間。


足元へ再び魔法陣。


「ッ!!」


轟音。


爆発。


ザインは咄嗟に横へ転がる。


熱風が背中を掠めた。


雪が蒸発する。


そこへ。


投げナイフ。


一直線。


ザインは転がりながら短剣を振るう。


キィンッ!!


火花。


ナイフを弾く。


だが。


その直後には、もう優男が目の前まで来ていた。


細剣。


高速の突き。


喉。


心臓。


眼球。


急所だけを狙ってくる。


「ッッ!!」


ザインは身体を捻る。


完全回避は間に合わない。


だから。


左肩で受けた。


ズブリ、と。


細剣が肩へ突き刺さる。


血飛沫。


白い雪へ赤が散った。


「っ……!!」


痛み。


だが浅い。


致命傷ではない。


ザインは、そのまま至近距離で風圧魔術を叩き込む。


轟ッ!!


空気が爆ぜる。


優男が少しだけ後退した。


その隙に。


ザインはさらに距離を取る。


呼吸が荒い。


左肩から血が流れている。


優男は、細剣へ付いた血を見ていた。


そして。


嬉しそうに微笑む。


「素晴らしい」


静かな声。


「本当に、壊れませんねぇ」


その言葉が。


まるで。


“人間”へ向けるものではなかった。

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