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桃始笑 ~和色男子。~  作者: 島津 光樹
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二十四 秘色

    二十四 秘色


 向こうの世界はギラギラのピカピカだった。

 ライムと名乗った少年は色んな所に案内してくれた。

「お前、アレだろ?NINJYAって奴だろ!スゲーな!本当にいるんだな!」

 目を輝かして言うから、手裏剣投げを披露してやったら、すごく喜んだ。

「そうくーる!」って言うから「何?」って聞いたら「カッコイイ!ってことだよ!」って言った。悪い奴じゃないのかも。でも、悪い事を悪いと分からずにやってるなら問題だよな。よその世界に友好的に手を差し伸べるのではなく、一方的に攻撃を仕掛けたりするのはいけない事だ。そんな事を考えてた。とりあえず、待遇は良かった。ライムは僕を皆に紹介して自慢した。

「ボクの新しいペットのNINJYAだ!カッケーだろ!」

「必殺手裏剣シュシュシュのシュだそ!見せてやってよ!」

 僕が手裏剣投げを決めるとピョンピョン飛んで喜んだ。それを見た周りが口にする「あめーじんぐ!」だの「ふぁんたっすてぃっく!」だの良く分からない単語も多かったけど、なんとな~く、言いたい事は伝わった。

 食べ物は大体全部怪しい色をしていた。禍々しい色の食べ物を食べて「見て見て!」と言ってくるライムの舌は真っ青だった。とりあえず、毒じゃないって分かったから食べたけど…、なんだか大雑把な味がした。色が違うだけで、皆同じ味って言うのかな?大抵しょっぱいかすごく甘いの二択だ。ここに滋味深い味はなさそうだ…。

 建物は鋭角で高かった。

「これじゃ、飛び越せないな…」って言ったら「NINJYAでもダメなのか?ショックだな…」とがっかりしてた。

「飛び越せないだけで、てっぺんに登る事は出来る!」

 ついムキになったら、「NINJYAスゲー!」って目を輝かせた。なんか…アレだな。コイツ、桃にちょっと似てる。桃、ぶっ飛ばしちゃったけど、大丈夫だったかね?ま、あいつ石頭っぽいから大丈夫だろうけど…。鶸とケンカしてるみたいだけど、早く仲直りすればいいのに…。だって、あいつらは一魂二体みたいなもんだ。初めてあいつらに武術の鍛錬をつけた時は驚いた。鶸が当たり前のように桃色の霊力を使ったからだ。これが前代未聞の二人なのかと思った。本人達は何がすごいか気付いてないと思う。桃がそれに気付いたらすごい事が出来るのにな、といつも思う。でも、こっちからは教えてやらない。僕と瓶が修行して得て来た物をあっさり手にされるのは悔しいからね。

「ボクのNINJYA」と言われてブラブラ連れまわされてるうちに、和色の世界から来た奴等にも会った。皆、上手い事言って連れてこられたはいいものの、聞いてた話と違う、って喚いてた。

「世の中にそんなにうまい話が転がってる訳ないじゃん」と言ったら「酷い!」とそこにいた全員になじられた。理不尽…。そんな僕を見てライムはひーひー笑ってた。

「やぁっぱ、お前は他の奴等と違うわ!お前、ボクのジョーカーになれよ。」

「じょーかー?何それ?」

「切り札だよ!ボクが困った時に助けに来るのがNINJYAだなんて、カッケーじゃん!ネオンの奴がくやしがりそう。」

 そう言うとキシシッと笑った。

「じょーかー…。いいかもね…。」

 昼間は見せびらかす為に連れまわされてるけど、夜は牢屋みたいな所に突っ込まれた。

「ゴメン。ボクは部屋で一緒でいいと思うんだけど、皆がダメって言うから…。」

「いいって、いいって。世の中そんなもんだ。長い物に巻かれる方が生きやすいからね。」

 こっちは逆に一人でぐっすり眠れるから助かる。


     *****


「ヒショク…。こっちにいる人達の場所は分かったけど、どうすんの?」

「機会を見て、向こうに帰るしかないだろ。」

「どうやって?」

「あの空の穴から向こうに行けるって、鶸が言ってたから、それで。」

「上まで遠くね?」

「お前なら、楽勝だろ?桃に食らわせたのより、大きいのを出せばいいだけだ。」

「ん~…。」

 そこまで話してたら、誰かの声が聞こえた。

「おい、アンタ!」

「…んあ?」

 誰だよ?と思って目を開ける。目の前に黒ずくめの男がいた。眼鏡は蘇芳様で見慣れているけど、この人物は眼鏡までもが黒かった。

「アンタ、誰?」

「こっちでは、ダンディーと呼ばれてるな。」

「ふーん…。で?気持ち良く寝てる所を起こして何の用?」

「…捕まってるとは思えない奴の発言だな…。」

 黒づくめの男は呆れていた。そこで、ピンときた。もしかしたら、この男は鶸が向こうで会ったと言う男か?

「アンタは何故、こっちに突っ込まれているんだ?和色の奴等は皆、ひとまとめにされてた筈。」

「あ~…。それは僕がライムとかいう奴に気に入られてるから?ジョーカーになれ、って言われたよ。」

「……。おい、アンタ。悪いこたぁ言わねぇ。アイツらに与するのはやめろ。アイツらは、和色を滅ぼしたいだけだ。現に少し前までいた瑠璃って奴は奴等に斥候にされた。アンタも今はお気に入りのペットとして優遇されても、暫くしたら向こうの情報を引き出すのにいいように使われて捨てられるだけだ。」

「……。僕を瑠璃なんかと一緒にしないでくれる?不愉快だよ、おっさん。」

「お、おっさん…」

 何故だか傷ついたような顔をした後、おっさんはキリッと言った。

「俺は…掴まってる奴等を解放して向こうに帰してやりたいと思っている。その時、お前は味方になるのか?敵になるのか?」

「…僕は、影となって動く草の者だよ。僕が何のためにここにいるのか、考えれば分かるでしょ?じゃあね。」

 そう言うと、僕は布団を被って寝転がった。こっちでは昼間は連れまわされる。日中に寝られないから、ヒショクとの対話は夜にしか出来ない。貴重な時間を邪魔しないで欲しい…。

「…とんだ大物だな…。」

 その言葉を残すと、おっさんはゆらりと消えた。


「なんだったんだ、あのおっさん?」

「さ~。でも、味方は一人はいるって事だね。」

「足手まといにならなきゃいーけど…。瓶以外と組んで上手く行くかは分かんないから、とりあえず単独行動だと思っとけ。」

「うん。ところでさ、真名を取らせてこっちに来たまではいいけど、どうやって返してもらうのさ?」

「それな!」

 ヒショクが言った。

「奴らにこっちの真名を呼ばせれば返してもらえる筈なんだよな。」

「和色の名を滅ぼしたい奴らが易々と呼ぶとでも?」

「うん。でも、ライムならもしかして…って今日思った。」

 ヒショクはニヤリと笑った。

「勝算は…?」

「五割、てトコだな。」

「賭けだね。」

「あぁ。どうする?今度起きたら、オレが行こうか?」

「そうだね。でも…、だんだん面倒になってきた。こっちじゃ、おちおち昼寝も出来ないし…」

「だよな!そんじゃ、腹をくくるか?ヒソク。」

「そうだね…。こんな異世界にまで来た僕が、“ぼんやりしてぱっとしない奴”な訳がないもんね?」

「そうさ!お前はその気になればなんだって出来るすげー奴だぜ!なんたって、ヒソクのヒは秘めたる力の秘だからな!」

「…そうだね。今まで、君を否定していてごめんね。」

「いいって事よ!オレはお前で、お前がオレだ。」

「あ…。でも、ヒショクの霊力は瓶に全部あげちゃったんじゃないの?」

「バッカ言え!それ位で尽きるもんかよ!」

「そっかぁ…。それじゃ、ヨロシク、ヒショク。」

「おうよ。ヨロシク、ヒソク。」

 僕達は固い握手を交わした。僕の人格が一つになった瞬間だった。ヒショクを認めた事でみなぎる霊力。これなら…、遥か上空にまで風を起こせそうだった。


     *****


 そっからは退屈な日々だった。クナイ投げも披露して、水上を走って見せたらライムは大喜びしてたけど。

「ネオンの奴がさ~、バカのくせにお偉いさんの息子だからって、向こうの世界を滅ぼすのの総指揮とってるのがムカツク!世襲制なんて時代遅れだよねっ!アイツじゃ絶対上手くいかないよ!」

 相変わらず良く分かんない極彩色の食べ物を食べながら、口を尖らせて文句を言い出した。向こうから連れて来た人物に、こっちの世界の不満を漏らすなんて、信用されてる証かな?ま、油断はできないから話半分で聞くけどね。

「そうだね。各々の能力に見合う成果主義がいいと思うよ。」

「だよねー!やっぱ、お前とは話が合うわ!…でも、呼ぶ時、お前じゃ味気ないよな。ボクがなんかいい名前をつけてあげようか?あ、知ってる?ネオンはペットにした和色の奴にラピスラズリって名付けたらしいよ。でも、長いから結局ラピスって呼んでるみたい。だったら、最初から呼びやすい短い名前にすればいーのにねー。」

 そんな事を話してたら、ライムが持ってる小さな板がピカピカ光った。

「もしもし?」

 どうやら、あの光る板は離れた場所にいる仲間と通話が出来る便利道具らしい。どんな仕組みになってるのか分からないけど、ちょっと欲しいな。そう思って見てた。

「マジで!?それは見に行かないと!」

 そう言うと、パッと立ち上がる。

「遂に今日、ネオンが向こうの世界を滅ぼすらしいよ!さっき、大軍引き連れて出て行ったって!これは…見物だね♪そうだっ!自分の世界が滅びる所をこっちにいるマヌケ共にも見せてやろうよ!」

 そう言うと、足取り軽く歩き出した。不思議な歩き方をしている。

「その足さばき、何?」

「これ?スキップだよ!」

「すきっぷ…?」

「そう。こうやって、リズムをとって足を動かして進むの!やってみなよ!」

「…こうか?」

 見よう見まねでやってみる。

「そうそう!上手いじゃん!流石はNINJYA!でも…、その格好ではして欲しく無いな。クールなイメージが台無しだ。」

「ん。」

 だから、すきっぷはやめた。


 こっちで捕まってる奴等の部屋に向かう。ライムが何かを操作すると、壁に向こうの世界が映った。どういう仕組み?幻灯機かな?

「ホラ、見てごらんよ!お前らの世界が壊れていく所を…!」

 黒い影がゆらゆらしている場所に、こっちの世界の者達が大量に現れ、暴れ出す。暫くすると、ブワッと一気に黒い影が湧きだした。

「怨霊っ!?まさか…黄泉平坂への扉を壊したのか!?」

 吃驚して言ったら、ライムが振り向いた。

「ピンポーン!大正解っ!向こうの世界では怨霊が増えすぎて扉がしまり切らなくなってたようだから、開けてあげたんだって!怨霊とボク達を相手に戦わなくちゃならないなんて大変だよねっ!この情報はラピス、元は瑠璃って奴が教えてくれたんだってよ!」

 アハハハと笑うライムを前に、捕まっていた奴等が嘆き出す。

「もう駄目だー!」

「和色世界は終わりだ…。」

「どうして…こんな事に…」

 泣き出す奴まで現れた。泣く暇があるなら、打開策の一つでも考えればいいのに。その姿を見て、お腹を抱えてひーひー笑ってたライムが言った。

「ショックだよね~?自分達がいた世界がなくなるなんてさー!でも、しょーがない!紅絹モミ路考茶ロコウチャ退紅アラソメ海松ミル砥粉トノコ天鵞絨ビロウドだっけ?読めないもん!漢字とかいう画数が多いばっかで難しいヘンテコな名前つけてさ!時代は変わったの!今はオシャレでイケてる名前とカラーじゃないとねっ!あー、おっかしい!」

「ホントにね…」

 僕も笑った。ヒショクが「でも、ライムならもしかして…」って言った理由が分かったからだ。

「は~、おっかしい!!」

 今までこんなに笑った事無いんじゃないか、って位、腹の底から笑いが込み上げて来た。今まで殆ど使わなかった頬の筋肉が痛い。

「???どうした?普段クールなお前がそんなに笑うなんて…?」

 ライムが吃驚して僕を見てる。それなりにいい奴だったな。だから…。

「今、呪い(まじない)が解けたからだよ。」

 そう教えて、連続して手裏剣を投げた。大きくて透明な窓に大きな亀裂が入り、風穴が開く。高い場所にある部屋だったから、強風が吹きこんで来た。

「うわっ!」

「秘技・竜巻の術!」

 サッと印を結んで巨大な竜巻を出す。どんどん霊力をあげて巨大な龍の姿に変えると、部屋の隅で固まる人達を窓から外へ、上空へと巻き上げた。

「―――ド、ドラゴンッ?!ソー!クール!」

 ライムが目を見開いた。僕は竜巻の龍の背に飛び乗ると言った。

「これにて、御免。」

「待ってっ!ボクのNINJYA!行っちゃヤダ!」

 縋るように手を伸ばすライムの背後から、例のおっさんが現われた。

「やるな、お前さん!」

「まぁね。おっさんも帰るよ!」

「おうよ!」

 おっさんは勢いよく竜巻の龍の背を駆け上がった。空の穴に近付いた時、穴の向こうから声が聞こえた。

「…!!!クッソ!ラピス!てめぇ、この役立たずっ!だから、テメーは駄目なんだよ!もういいっ!返せっ!お前にラピスラズリなんて名は勿体ねぇ!お前みたいなクズには、瑠璃って古くせー名前がお似合いだよ!」

「そんなっ!待ってくれ!俺を見捨てないでくれっ!」

「うるせー!お前みたいな使えねー奴、いらねーんだよ!」

 ちょっと…ムカついたな。

 だから、空の穴を越えた時に言ってやった。

「いらないなら、返してもらうね!」


 そのままシュタッと着地して、目の前の蘇芳様に告げた。

「任務完了。」

「秘色、ご苦労様でした。次は半、頼みますよ!」

 蘇芳様は素早く指示した。その声で青藍が動いて、半が消える。


 残った瑠璃は「なんでだよっ!」と怒鳴ってた。

「なんで、こうも上手く行かないっ!俺はっ!七宝なのにっ!なんでだよっ!瓶覗みたいな安い奴が六省に入れて、なんで俺はっ!チクショウっ!秘色!お前、霊力をこんな奴にやるなら、俺に寄越せば良かったんだよ!」

「やだよ。努力もしないで人を踏み台にする奴なんかお断りだ。」

「何だとっ!」

「瑠璃っ!」

 掴みかかって来る瑠璃を瓶覗が止める。

 それを見た蘇芳様が言った。

「瑠璃さん…、見苦しいですよ。そんなだから、向こうからも見捨てられるのです。」

「なっ…!」

「悔しいなら、実力を示せばいいだけのこと。貴方、ついてますよ。今日はいつもお見えにならない方が来てますからね。」

 その声で向こうを見る。緑様の後ろから、眩しい人が現われた。従える全ての色を反射するその人は、スラリと刀を抜いた。白虹が現われ、一閃して全ての物を通り抜けてゆく。それが通り過ぎた後、向こうの世界から来た人物は全て消え去っていた。


「…流石ですね。結界を張り直すと同時にあれだけの敵を一瞬で滅し、しかも…五行まで書き換えてしまうとは…。」

 蘇芳様が眼鏡の縁を押さえて言った。

「しかし…。これは…一難去ってまた一難、といったところでしょうか…。」


 地面から、黒くうごめく影が湧き出していた。


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