二十三 半
二十三 半
先日は吃驚したな。だって、桃と鶸が同時に大きくなって会議に現れたんだもん…。
桃が蘇芳様に追い返された時はどうなるかと思ったけど、なんとかなるもんだ。鶸と桃は最近ぎくしゃくしてたけど、無事に仲直りしたみたいで良かった、良かった。なんだかんだで俺はあの二人が好きだ。最初に出会って親切にしてもらった時から、あの二人は二人で一つなんだと認識してる。可愛い鶸を好きだなぁって思った事もあるけど、鶸の目には桃しか映ってないって分かってるから、余計な事は言わない。あの二人の友達として一緒にいられる方がずっといい。里にいた頃と違って、俺を信頼してくれる奴等がいるって本当に心強いからさ。ここに来てから、俺の卑屈さも随分マシになったと思う。紫様のお言葉もあって「どうせ俺なんて…」とは言わなくなった。
それには、この人の存在も大きいんだろうなぁ~。
「半く~ん、ど~?なんか変わったトコあった~?」
六省内の中庭に作られた対策本部で青藍さんが聞いてくる。最近はずっとここが仕事場だ。何かあったら、青藍さんが部隊を転送させる。例の作戦を決行する時は俺を天守の屋根で待ってる桃の所に転送してくれる事になっている。
そこに「御疲れ様です」と瓶覗さんと瑠璃さんが歩いてやってきた。瓶覗さんが普通に歩いてる姿を見るのはまだ慣れない。だって、いつも秘色さんと壁から現れてたから。そう、瓶覗さんの隣に違う人が立っているのもなんだか不思議だ。
「お茶をどうぞ。」
そう言って、瑠璃さんがお茶を淹れてくれた。その時だった。防人の地を映していた水鏡に大量の見慣れぬ色の者達が姿を現した。
「来ました!おびただしい数の敵です!」
その声で向こうにいた蘇芳様達も駆け寄り、覗き込む。
「……ややこちらが劣勢か?青藍!」
「はいっ!第一陣、縹様率いる部隊を転送します!」
「頼む!」
「縹隊、いざ出陣!」
庭に待機していた第一陣がシュン!と姿を消して、水鏡で映す防人の地に現れる。それを見た瑠璃さんが言った。
「はぁ~!すげー!本当に転送って出来るんだ!」
「まぁね~ぃ♪」
青藍さんが胸を張る。だが、見守る遠方の地はまだ劣勢だ。見慣れぬどぎつい色の者達と一緒になって暴れ回っている大量の黒い影が湧き上がっている。
「…どうやら、あちらさんに黄泉への扉を壊されたようですね…。怨霊までわんさか沸いているじゃないですか…。」
蘇芳様が溜め息をついた。
「仕方ありません、青藍。第二陣を。そして、出来るようなら、第三陣を送って下さい。」
「げげっ!一日二部隊までって言ったじゃないですか~!」
「緊急事態です!霊力が枯れるまでやりなさい!」
ぴしゃりと言われて、第二陣、第三陣を送る。第三陣を送り終えた後は、ハァハァ肩で息をしていた。苦しそうだ。
「もぉ~、無理…。大体、いつもより編成人数が多いのに…。」
「無駄口を叩けるようなら、もう一部隊追加で。」
「…蘇芳様の…鬼―っ!!!」
青藍さんはありったけの霊力を込めて、第四陣を転送した後にバッタリ倒れた。
「青藍さんっ!しっかり!」
俺は慌てて抱き起す。
「あー…。半くん…。俺はもう駄目だ…。俺が死んだら過労で蘇芳様を訴えてくれ…」
そんな冗談を言うと目を閉じた。
「せ、青藍さーん!」
死なないでー!と言おうとして気付いた。…寝息立ててた。
「どうやら、霊力を使い過ぎてしまったようですね…。寝かせてあげて下さい。」
傍らで、狼煙をあげ終えた緑様に言われた。
「はい…。」
その時だった。
「ハッハッハー!待ってたぜ、この時をよぉう!」
そんな声がして、六省の庭の上空が虹色のもやに覆われた。もやが消えた後には、空中に浮かぶ極彩色の色をした少年と青年の一団がいた。
「よ~ぉ!読めない漢字の皆さん、ちぃ~す!まんまとこっちの陽動作戦にのってくれて、向こうに大量の戦力送ってそこの奥の手君を潰してくれてありがとサンクス!残念だったね~。おかげでこっちは、残ったお前らを叩き潰すだけで済むから楽だわ~!」
「ホントホント~!よくやったぞ!ラピス!」
そう言われた瑠璃さんが恭しく頭を下げた。
「…!!お、お前っ!やっぱり、向こう側だったんだな!」
カッして胸倉をつかんでやったら、逆に突き飛ばされた。
「それが何?」
冷たく言われた。
「瑠璃…。」
瓶覗さんが何かを言いたそうにこっちを見ていた。
「あ~ぁ、かわいそ~!同じ和色の仲間を信じられないなんて、悲しいよね~。でも、ダイジョーブ!こ~んな古臭くてカビが生えたような名前の色の世界なんて、今日でオシマイだからさ!オレ達に滅ぼされて…消えな!」
そう言うと、右手を前にして閃光を放って来た。
「うわっ!」
とっさの攻撃に、俺は腕を前に塞ぐのが精一杯だったが、素早く前に出た緑様によってその攻撃は跳ね返された。
「うをっ!」
「おっかねー!」
向こうが驚いていた。
「こちらに残る者が、腕利きでないとは誰も言ってませんよね。」
蘇芳様が薄笑いを浮かべて言った。
「あぁ…。もしや、少数精鋭という言葉をご存じない?」
「カッチーン!マジムカツク、あの眼鏡!」
少年が喚いた。
「バーカ、バーカ!読めない漢字のくせにっ!」
「…おい、ネオン。バカって言ってるお前の方がバカだぞ。」
「うるせー!も~ムカツいた!全員シュウゴ~、あいつらやっつけちゃって~!」
そう言うと、さっきより大きな虹色のもやが現われた。そして…ネオンと呼ばれた少年の後にはおびただしい敵の群れ…。
「な、なんだよ…。これ…」
水鏡を見る。防人の地にいた筈の敵軍は消えていた。後に残るのは自軍と怨霊ばかりだ。
「そこの回数制限がある奥の手君と違って~、こっちはこれであちこち移動できるんだもんね☆」
キラリを光る何かを見せびらかした敵が笑った。
その時、パチンと指を鳴らす音がした。
「只今、戻りました。」
「お帰りなさい。」
蘇芳様のその声で、背後を見た敵軍が一斉に驚く。
それと同時に「えっ!嘘だろ…」と声がした。瑠璃さんだった。
「なんでだっ!?奥の手君はそこで伸びてる…。なんで、お前ら戻って来られた…?」
そんな瑠璃さんに向かって、ネオンと呼ばれた敵の少年が声を荒げた。
「ラピス!てめぇ!嘘教えやがったな!」
「ち、違うっ!嘘じゃないっ!作戦会議で転送できるのは青藍だけって言ってました!」
「ええ…。彼は嘘なんてついていませんよ。あちこち転送出来る術を持っているのは青藍だけです。」
蘇芳様が瑠璃さんを庇うような発言をした。ちょっと!蘇芳様っ!どっちの味方?
「その通りです。でも…、転送は出来なくても、帰ってくる事だけは出来るんですよね。」
防人の地から戻ってきた部隊の一人がにこやかに言った。そっちを見た瑠璃さんと敵がこっちをまた見直した。同じ顔と色をした人間があっちとこっちにいたからだ。
「ドッペルゲンガー?」
「プラナリアみたいなものですかね?分裂出来るとか?」
敵さんが首を傾げる。そんな中、「おや…。時間切れのようですね」と俺の傍らに立っていた緑様が言った。と、同時に緑様の色が…青くなっていた!
「青様っ!?」
え?一体、いつから緑様が青様になっていたんだ?驚いた。
「…!!!クッソ!ラピスッ!てめぇ、この役立たずっ!だから、テメーは駄目なんだよ!もういいっ!返せっ!お前にラピスラズリなんて名は勿体ねぇ!お前みたいなクズには、瑠璃って古くせー名前がお似合いだよ!」
「そんなっ!待ってくれ!俺を見捨てないでくれっ!」
「うるせー!お前みたいな使えねー奴、いらねーんだよ!」
少年が喚いた時、「いらないなら、返してもらうね」と久しぶりの声がした。それから、突風と共に上から人間がどんどん降ってきた。それを瓶覗さんが怪我しないように次々に受け止めて、そっと下ろす。
最後に真っ黒な服を着た人と秘色さんがスタッと降り立つ。
「任務完了。」
「秘色、ご苦労様でした。次は半、頼みますよ!」
「え?」
「準備はいい?」
さっきまで伸びてた青藍さんが俺に水鏡用の深皿を持たせる。
「桃ちんのとこまで、とんでけー!」
「うをっ!」
一瞬で桃のいる天守の屋根に転送された。高い…。足がすくむ。だけど、そんな事言ってる場合じゃないっ!
「半!待ってた!いよいよだな!ところで、下が騒がしいのは何?」
桃が聞いてくる。
「秘色さんが…他の人達と帰ってきた!」
「マジでっ!?さっすがー!こりゃ、俺も負けらんねーな。」
桃はそう言うと、黄丹様の盆栽から作った矢と短弓を手に取った。
「半、頼む。」
「あぁ…。任せて。」
俺は急いで、鶸のいる遠くの空を映し出す。
「うん。方角は坤。そっちだね。」
桃に水鏡を見せる。空に浮かぶ穴を指差す鶸が映っている。こっちに声は届かないと分かっているだろうに、鶸の口が動いてる。「も、も、な、ら、で、き、る」と言っているようだ。
「よしっ!」
そう言うと、桃は構えて弓を引いた。目を閉じて集中する。次の瞬間、桃の身体が眩しい光に包まれた。これは…何?黄丹様の色?いや、違う…!これは、鶸の色だ!見れば、桃の右手の薬指にはめた指輪が光っている。これは…なんだ?二人は共鳴しているのか?
ぱちっと桃の目が開いた。
「見えた!一撃必中!」
その言葉と共に放たれた光の矢が飛んでいく。桃と俺は急いで水鏡を覗く。矢の先端が鶸の指の先に消え、ぴたりと動かなくなった。
「やった…!」
水鏡の中の鶸が両手を胸の前でぐっと握りしめた。
それを見た桃が「よっしゃー!」と言った後に、ぐらりと倒れた。
「あ、あぶなっ!」
いくら桃でもここから落ちたら大怪我すると思って受けとめる。どうやら、今の一撃にほぼ全部の霊力を込めてしまったようだ。
「桃も霊力切れ…かな?大丈夫…?」
このままの体勢では自分も危ない、とゆっくり体勢を立て直そうとした時、水鏡の中の鶸がはばたくのをやめて落下していくのが見えた。
「…!!鶸―っ!!」
その時、白虹が世界を一閃した。




