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桃始笑 ~和色男子。~  作者: 島津 光樹
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十六 桃

    十六 桃


「はぁ~っ…。」

 溜め息が出る。もう何回ついただろう…。

「桃。溜め息をつくと幸せが逃げると言うぞ。頼むから、俺の近くで毎日毎日溜め息をつかんでくれ…。こっちの気も滅入る…。」

「だって、山鳩様…。鶸がまだ帰って来ない…。」

 そう、鶸が遠距離警邏に出掛けたまま帰ってこないんだ。折角、指輪を完成させて後は渡すだけなのに、肝心の鶸がいなきゃ、何にも始まらない…。

「行ってもう七日は経ってる…。こんなに鶸が帰ってこないの初めてで…。あいつ…大丈夫かなぁ…。はぁ~っ、俺っちにも羽根があったら良かったのに…。」

 ぐだぐだ言ってたら、頭を小突かれた。

「ほれ。」

 目の前に紙がつきつけられる。

「?」

「そんなに鶸が心配なら、手紙でも書きゃいい。得意の矢文で届けてやれ。」

「!」

 その手があったか!自分は送るばっかりで、手紙なんて書いた事無かった。早速、筆を手に取る。だが、次の瞬間、固まった。何を書けばいい?先ずは無事かを確認したい。それから、渡したい物があるから早く帰ってこいよ、って書く?いや…。そういう大事な事はちゃんと口頭で言いたいしな…。そう考えると、余計な事は書かない方がいいか?変に小出しにしても、気になって仕事に支障が出るかもしれないし…。うだうだ考えたら、書ける事は少しだった。

 鶸の名前を書いてから『元気か?大変な事はないか?早く無事に帰ってこいよ』と書いた。特に最後の一文は、ありったけの想いを込めて書いた。それから自分の名前を記す。それを持って天守の屋根に上がり、遠くの地目掛けて放った。

 一直線に飛んで行く矢文を見て、自分が矢文になれたらいいのに…と思った。それから、腰を下ろした。いつもここで、鶸とおやつを食べてたのにな…。そう思って、腰に下げた袋から金平糖を一つ取り出して、口に放る。一人で食べる金平糖は味気なかった。

「あ~ぁ…。鶸、早く帰ってこないかな…。」

 首から下げた指輪を取り出して眺めてみる。金色に光るそれにはお日様のかけらの砂金粒がついている。

「鶸、気に入ってくれるといいけど…。」

 早くこれを渡したい。お揃いだぞ、って教えたい。鶸は、お揃いに込めた願いに気付いてくれるかな…。

「あ~ぁ…。」

 本日何回目か、もう分からない溜め息が出た。そのまま後ろに上体を倒して空を見た。

「俺っちにも翼があったらなぁ…。今すぐ飛んで会いに行けるのに…。」

 鶸がいないと調子が狂う。元気が出ない。だからさ、早く帰ってきてくれよ、鶸!


 しょげる俺っちを気遣ってか、半が「水鏡で鶸の様子を見てみる?」と提案してくれたけど、見るだけで言葉を交わせないなら意味がないから断った。第一、そんな覗き見みたいな事はしたくない。だって、勝手に見られたら困る事が俺っちにはあるからな…。脛に傷を持つ俺っちは、後ろめたい事はしたくないんだ。

 再び溜め息をついた時、真朱が鼻歌を歌いながら現れた。

「あ、二人共いた~!ね~、ちょっと見て~。これ、どうやったと思う~?」

そう言って、両手に持った二つの硝子瓶を見せてくる。片方は瓶の口より大きなかさのひらいた松ぼっくりが入っていた。そうしてもう一つの瓶には木の矢が貫通していた。それはがっちり刺さって動かない。

「何それっ!?」

「どーなってんの?」

「ふっふ~♪両方答えが分かったら、今日の晩飯を好きなだけ奢っちゃる!」

 そう言うので半と二人、頭を悩ませる。

「あっ!」

 雨の日の山を思い出した。

「俺っち、松ぼっくりの方、分かった!」

「お~?桃、こっそり言ってみ。」

「うん。あのな…。」

 こしょこしょと耳打ちする。

「ちっ…、正解。山育ちには簡単だったか~。もう一つはどうよ?」

 舌打ちをして真朱が言う。

「え?ええーっ。こっちはわっかんねーよ…」

 そう言いながら、矢の刺さった瓶をいじくる。もしかしたら、割ったのを後から継ぎ合わせたんじゃないかと思って、つなぎ目がないかどうかを確認する。

「言っとくけど、瓶を切って繋いだりとかはしてねーから。」

 かさのひらいた松ぼっくりの入った瓶を逆さに振ってた半が言った。

「も~降参っ!わっかんねーよ!答え、教えろ。」

「ええ~、つまんないな~。桃は?桃も降参?」

「…うん。くやしいけどわっかんねー。俺の弓矢でやったら出来んのかな、これ?」

「さ~、どうだろね?」

 真朱は笑って首を傾げる。そしてそのまま帰ろうとしたから、二人で引き止めた。

「ちょ…待てや!」

「答え教えてから帰れ!」

「ちぇ~。もっと悩んで欲しかったのに~。」

 俺達に両袖を掴まれた真朱は口を尖らせると言った。

「こっちは桃が言った通り~。松ぼっくりは濡れるとかさが閉じて小さくなるから、小さい時に中に入れて乾燥させたってワケ。そうすっとかさがひらいて大きくなって瓶から出なくなる。んで、こっちは~、瓶に穴を開けて矢を通した。」

「ただ通しただけじゃ、こんなにぴったりはまらないだろ?」

「うん、そだよ~。ちょっとしたやり方があんの。」

「どんな?」

「これ、最初に桐の木で作った矢を圧縮加工してさせて穴に通してから、元に戻したってワケよ~。」

「な、なるほど~…?」って言いながらも、何だか良く分からなかった。

「君達には分んないか~。ま、いいや。次の人に聞いてみよ~。」

 そう言うと、真朱は両手に持った瓶をぶんぶん振りまわしながら行ってしまった。


     *****


 その後も鶸は戻って来ない。俺っちは手紙を書いた。内容はいつもおんなじだ。考え過ぎて、結局振り出しに戻る感じ。もう一月も鶸の顔を見ていない。


 鶸と金糸雀さんが重大任務を請け負ってたんじゃないかと俺っちが気付いたのは、事件が起こってからだった。

 その日。城内にいたら、突然、ぼうぼーうと法螺貝の音が城内に響き渡った。

「何だ?」

 山鳩様が顔をあげた時、緊急放送が流れた。

「伝令!結界が破られ、敵が侵入した模様!」

「何だとっ!?」

 城内が俄かに騒がしくなった。省上位の方々で緊急会議が開かれ、上位六名の方が揃って出陣する騒ぎになった。一大事だ!

 俺っちは慌てて、半の所に行った。

「半っ!聞いた?」

「うん…。敵って何?」

「分っかんねー!」

 そこに真朱が走ってきた。

「半っ!大将達は東大寺に向かったらしい!いますぐ、水鏡で見せてくれ!」

「…を、をう!」

 半が急いで準備する間に、気付けば後ろに人だかりが出来ていた。

「敵影確認は大事だからね。」

「一体、どんな奴らが…。」

 大勢に囲まれる中、半の水鏡が展開される。

 炎の礫を放つ緋色様の姿が映った。礫は敵にあっさり避けられた。

「あちゃ~…。」

「頼むぜ、大将~…。」

 落胆の声が上がる中、今度は紅様が髪留めの紐を解いて、何かを唱えた。炎に包まれる侵入者達。

「おおっ!さっすが紅様!」

 見守る中、深藍様が身を乗り出す。上位の方々が一斉に構える。六人それぞれが印を切ると鮮やかな色が飛び出した。眩い光は巨大な光の玉となって侵入者を飲み込み、消えた。

「す、す、すげー!」

「流石…。各省一位は伊達じゃない、って事か…。」

 ざわめきの中で、急速に不安になった。平和だと思っていたこの世界に、良く分からない敵がいる。鶸は?大丈夫なのか?

 いてもたってもいられなくて、何でも知ってそうな蘇芳様のいる部屋に走った。

「蘇芳様!桃です!入室してもいいですか?」

「お入りなさい」と声がした。

 室内に入ると、気難しい顔をした蘇芳様と東雲様がいた。

「どうしました?」

「あ…。その…」

 言いかけた時、窓の外から声がした。

「ただいま~、戻りました~♪」

「無事帰還、です。」

 久し振りに見る鶸と金糸雀さんだった!今すぐ鶸に抱き着いて「おかえり!」と言いたかったが、蘇芳様の前だし、二人が深刻な顔をしていたから、そっと後ろに下がった。

「お帰りなさい、金糸雀、鶸。」

「疲れました~♪」

「でも、ちゃんと任務達成、です。」

「二人共、お疲れ様。で、どうだった?」

「防人が~、凹んでた~♪俺のせいだと~、泣いていた~♪慰めて~、飛び立った~♪その先に~、異世界あった~♪」

 …異世界!?何だそれ?

「えと…。結界破壊されて綻んだ空に穴があったから、僕達、飛んで行ってみたのです。その先は、空ではなく、こことは違う街でした。滅茶苦茶で、支離滅裂。豪華絢爛で玉石混淆。ただ、分かったのは、向こうも色の世界、です。ただ、向こうの世界に、僕達の色は見当たらなかった。」

「成程…。」

 眼鏡を押さえて、蘇芳様が呟く。

「なんとなくの仮説が裏打ちされました。後は、侵入者を倒しに行った者達の帰りを待つと致しましょう。金糸雀と鶸は、日報を書いたら今日はもう帰っていいですよ。ああ、そうだ。桃、防人に矢文を出しておいてください。「結界が破られたのは、貴方のせいではない。むしろ、今まで良くもたせてくれた。最大級の感謝と賛辞を。引き続き、警備にあたってくれ」と。」

「かしこまり~。」

 鶸の顔を見られた安堵から、俺っちは足取り軽く仕事に戻った。鶸が無事に帰って来て、本当に良かった!今日は長旅で疲れてるだろうから、ゆっくり休んでもらって、明日沢山積もる話をしよう。


 そう思ってたのに…、翌日の六省に鶸の姿は見えなかった。金糸雀さんには会った。どうやら今日は別行動らしい。

「ずっと向こうで浄化をしてたので~、疲れているのだと思います~♪ゆっくりと~、休ませてあげて下さいね~♪」

「ジョーカ?何それ?」

 聞き慣れない言葉だったので、聞き返す。聞けば、向こうで鶸は怨霊をやっつけてたらしい。浄化と言うのは、怨霊を綺麗に消す事だと教えられた。

「何それ!?鶸すげー!必殺技じゃん!」

 吃驚した。あんなに早く飛ぶ以外にも、鶸には特技があったんだ!自分との差がどんどん開くような気がして焦った。だって…、俺っちは武術の鍛錬でも、いまだに必殺技と言えるようなものを出せないでいる。

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