仲魔ー共生関係ー
「次からもうちょっと心臓に優しい解決策にしてくれ」
「ん?」
まるでペットを扱うようにサラマンダー(火の下級生霊)を撫でるイリア。何を言われているのか分かっていない。こちらがどれだけヤキモキしたことか。
サラマンダーはされるがままだ。追加で魔石を貰えて気を良くしたのかゴロゴロと喉を鳴らしている。何かヤレヤレって感じだ。
普通、精霊がこうも簡単に懐くことはない。ましてや気性の激しいサラマンダーは尚の事だ。そりゃ温泉でサラマンダーの機嫌が良かったにしてもこんなに首尾よく終わるのは有り得ない。精霊使いの素養はずば抜けているということだろう。
「ん?どうしたの?」
サラマンダーが何かを要求するかのごとくイリアに頭を擦り付けてくる。甘えている仕草にも見えなくもないが何だろうか?
「何かあったのか?」
「俺も、連れてけだって」
「ハハっ、そりゃすげぇじゃねえか」
精霊が仲魔になりたいっていうなら仲魔にしてやればいい。どの道サラマンダーを町の外へ動かす必要があった。自発的に動いてくれるならそれに越したことはない。
「体に負担とかかからないか?」
「かからない」
「だったら異論はないな。俺達はこれから寒い所に行くんだ。火元はあって困るもんじゃないしな。お手柄だイリア」
精霊使いは精霊を仲魔にして行使する。精霊は術者から魔力を分けてもらうことで快適に過ごす。共生関係というやつだ。必然的に魔力を多く兼ね備えるものは仲魔をより多く率いることになる。
「うん」
イリアはサラマンダーに向き直ると頭に手をかざす。するとサラマンダーは光に包まれて溶けるように消えた。
「お疲れ様。やったな」
「うん!」
満足気にはにかむイリア。微笑ましい気持ちになる。
◇ ◇ ◇ ◇
「いかがでしたか?」
「バッチリです。イリアが無事解決してくれた」
「ありがとう。イリアちゃん」
「わっ」
嬉しそうにイリアに抱きつく若女将。イリアはびっくりするように目を丸くするがされるがままにしている。
若女将が落ち着いたら所で事の顛末を伝え、宿場町が平常運行に切り替わり元の活気を取り戻す。
「アークさん、イリアちゃん、お疲れ様でした」
「そっちもお疲れ様」
「おつかれ、さま」
「折角ですから宿に泊まっていってください。勿論温泉にも入ってください」
「それは有り難い」
◇ ◇ ◇ ◇
部屋に向かうまでの間に、どこから漏れたのか事の顛末がいつのまに町中に広がっていた。
『ありがとう』だとか『町の英雄』とかゆく先々で頂戴して悪い気はしない。自分のためとはいいえ、やったことが人の役に立ったようだし結果的にこれはこれでよかったんじゃないだろうか。
「こちらの部屋で寛いでください。温泉の用意が出来たらまた声をかけるから」
通された部屋は全体的に間取りが広くとられていた。過度な装飾こそされていないが机や長椅子といった調度品の数々はどれも作りがしっかりしていて使いやす。多分上等な部類に入る部屋なんじゃないだろうか。旅の者には過ぎた部屋だ。そんなことを考えていたらイリアが話しかけてきた。
「私の意見、聞いてくれてありがとう」
「ん・・・?ああ、当たり前だろ。俺、イリアの意見を無視したことないはずだぞ。後、自分の意見を押し通したつもりもないんだが」
「そう、だよね。今まで、こんな風に接してくれた人いなかった。みんな、よそよそしかった」
「んー、まぁ、イリアは村の中じゃ特別な立ち位置だろ?仕方ないっちゃ仕方ないと思うけどな」
俺だって女神ウラニア様のご指名(無茶振り)がなかったらこんな風に一緒にいなかったわけだからな。イリアと出会ってなかったら一体何をやっていたんだか。受付嬢ハナさんとギルマスのフィンさんに酷使されている未来が浮かんで慌てて妄想を取りやめる。
「アークは、変わらずに接してくれる?」
「そりゃ勿論、旅仲間だから。対等に接しているつもりだぞ」
「これからも、よろしく」
「おう、よろしく」
晴れ晴れとした表情でこちらに笑顔を向けてくる。気心知れてきたせいか、イリアも笑顔や口数が増えた気がする。年相応な感じがして良いことだと思う。イリアが何か口を開こうとした所で扉をノックする音が聞こえる。扉が開くと出てきたのは予想通り若女将だった。
「お風呂の準備出来ました。是非ご堪能ください」
「ええ、心ゆくまで堪能させてもらいます。んじゃイリア行こうぜ」
「うん」
◇ ◇ ◇ ◇
通された温泉はサラマンダーがいたあの温泉だ。さっき来た時よりも更に綺麗になっている。わざわざ清掃してくれたんじゃないだろうか。温泉の縁には酒とつまみも用意されている。
ちなみにイリアは別の温泉に通されている。
お湯を浴びて体を清めた後に湯に浸かるとジワっと体があたたまる。日は暮れていて空には星も浮かんでいる。これはこれで風情がある。こんな広い湯を一人で使わせてくれるなんて贅沢な話だ。晩酌をしながら至福の時を過ごした。
一息ついて少し物思いに耽る。そういえば久々に一人になったな。いつも傍にイリアがいて、あの子反応や成長を見ながら旅は進んでいる。騎士ダニエルに追放された当初はこうなるとは予想もしていなかった。追放されたことは納得してないしやりきれいないものがある。それでもこうし荒まずにいるのはやっぱりあの子のお陰もあると思う。破片が集まるまでの関係性ではあるが、無事にあの子を村に返すまでは年長者としての責務を果たしたい所だ。
温泉から出て部屋に戻ると先にイリアが部屋にいた。宿で用意されたゆったりとした服を着て寛いでいた。イリアの傍でウルフとオウルも寛いでいる。
「すごくいい湯だった。そっちはどうだったか?」
「すごく、気持ちよかった。リピートする人の気持ち、わかった。また来てみたい」
「ああ、いいな。また立ち寄れたらいいな」
旅の思い出にが一つ増えた。
この時ばかりは破片のことをすっかり忘れ夜を迎えた。




