宿場町-ポロリはないよ!-
「湯気、すごい!」
「楽しみだな」
山岳の村を出て数日、中継地点である宿場町の外観が見えてくる。
遠目からも湯気がモクモクと出ているのが分かる。イリアじゃないがこれは期待せずにいられない。足取りが俄然軽くなる。いざ温泉。
◇ ◇ ◇ ◇
「変な、感じ。みんな元気ない」
「そうだな」
宿場町に入ると期待していたのとちょっと違う。町並みは綺麗なんだが、何というか活気がない。町の人も、他の旅人元気ないのはどうしてなんだ?とりあえず町の人に聞いてみるか。
「すみません、何かあったんですか?」
ブルネットの女性に話しかけてみた。ここいらじゃ珍しい色だ。クリっとして大きな目と水色のエプロンが印象的だった。
「お客様も温泉を楽しみにされていらっしゃったのでしょうか?申し訳ございません。見慣れない動物が居着いてしまって温泉は臨時休業しています」
「温泉休業ですか。・・・見慣れない動物とはどんな動物ですか?こう見えても動物の取り扱いに関してはちょっとしたものがあります」
ウルフを撫でながら伺ってみる。臨時休業?そいつは困る。こっちは温泉楽しみにやってきたんだ。何が何でも温泉入るぞ。
「専門家の方ですか?あの、是非居着いた動物も見てくれませんか。お願いします。誰に相談出来る相手がいなくて困ってたんです」
縋る手を掴んでお願いしてくる。何というか忙しない子だ。
「俺でよければ協力しますよ。いいよな?イリア」
「温泉、のためだよね?」
「ん?それ以外に何があるんだ?」
「うん、いいよ」
ワンクッション間があったが何だったんだ?一瞬不機嫌なそうな表情をしていたような気がしたが今はそんなことはない。まあ気のせいだろう。
◇ ◇ ◇ ◇
「でっ、動物っていうのはどんなやつだったんだ?」
先程の女の子、若女将に事情を聞きながら現場に向かっている。
「今まで一度も見たことないのですが、全身半透明なオレンジ色したオオトカゲです」
「それ、本当に動物なのか?」
「いや、よく分からないんですよ。魔獣にしては大人しすぎるんです。温泉の縁でずーっと陣取ってるんですよ。だから下手に刺激を与えるわけにもいかなくて誰も手出し出来ない状態なんです」
心当たりがないわけではないが実物を見てみないと何とも言えない。
そうこうしているうちに数ある施設の一つに到着する。四方は板で囲まれ中は見えない。目線を上に向けると湯気が立ち上っている。温泉かな?
「こちらです」
若女将が扉を開ける。その先には露天掘りのお湯が溜まっていた。
「これが、温泉?」
「うん、そうだよ」
火で沸かさずにこれだけの湯があるなんて夢のような話だ。四肢を伸ばして湯に浸かれたらさぞかし気持ち良い話だろう。
…目の前のトカゲがいなければな。
トカゲはよく肥えていて、一抱え程の大きさがある。人間サイズではないが充分大きい。大きさもそうだが、色も特徴的だ。全身が半透明でオレンジ色をしている。
温泉の傍で目と口を半開きにしてボケーっとしているから何を考えているのかは読み取れないが、寛いでいるのは間違えない。
「これってもしかして・・・」
「サラマンダー(下級火の精霊)」
「サラマンダー?」
首を傾げながら若女将が質問してくる。
「動物じゃなくて、精霊だな」
「サラマンダー、温かい所、好む。だから、温泉に来たのかも知れない」
「あの、動物でも精霊でも何でもいいので、何とか出来そうですか?ああやって日がな一日陣取られています。幸い暴れるようなことはないので被害は出ていないのですが、みんな温泉入れなくて困ってます」
しげしげとサラマンダーを観察すると、結構大きい。普通のサラマンダーよりふたまわり程大きい。
「とりあえず俺達でこいつ(サラマンダー)の面倒見るよ。よく刺激せずに隔離に踏み切れたな。賢明な判断だ」
「いえ、そんな。その、よろしくお願いします」
「怪我したら大変だから引き続き人払いをお願い出来るか?なるべく穏便に済まそうとは考えてるが」
「分かりました。私で出来ることなら何でもやります」
「よろしく頼む」
こうして温泉を賭けてサラマンダーと対峙することになった。




