私の葛藤
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私の脱走未遂事件の後、剣は没収され、訓練用の服も全て処分された。
そして四六時中、監視の下での生活を強いられた。
護衛隊の誰かが見張っているのであれば、遠慮なく端から気絶をさせて逃げるというのに……基本ばあやと女性の使用人たちが見張っているので、手を出し難い。
非戦闘員の彼女たちが相手なのだから、それもそうだろう。
自分の目的のために、何の咎もない彼女たち相手に本気になれるほど私は堕ちてはいない。
これが護衛隊の隊員たちならば、訓練と同じことだと遠慮なく戦えるのに。
隙をついて逃げ出そうとしたこともあったけれども、彼女たちの包囲網は幾重にも張り巡らされていて、そして誰かに見つかった瞬間『メリー様、どうなさいました!?』とわざとらしい大きな声を出される。
そのままワラワラと彼女たちに囲まれて、動けなくなった挙句部屋に強制送還されるのだ。
普通、私の見張りといったら訓練を積んだ屈強な護衛隊のメンバーが来そうなものだと言うのに……完全にその逆を突かれて、それ故に手も足も出ない状態なのだ。
お父様が、この布陣を考えたのか……それは分からないが、お父様だろうが誰だろうが、これを考えた人は私の思考をよく理解しているとしか言いようがない。
結局逃げることもできないまま、時間だけが過ぎて行く。
また今日も無為に時間が過ぎて行ったと、息を吐きつつ窓の外を眺めていた。
ちょうど、それは塔が建っている方角だ。
「……ルイ」
ふと、呟いたのは彼の名前。
自由を奪われた上に、未来を共に歩く伴侶まで勝手に決められている今……思い浮かぶのは、彼のことだった。
……まだ、彼に好きだと伝えられていない、と。
彼を思うこの気持ちが、好きという感情なのだとやっと分かったのに。
自覚しただけで、結局何の行動にも移せなかった。
思いを返してもらうことは叶わずとも、せめて……この温かな感情を教えてくれたことに対する感謝を伝えたかった。
……それができないことが、こんなにも辛いことだなんて。
侯爵家の娘として、政略結婚は起こり得る未来だった。
……それを知識としては理解していたけれども、自分にそれが起こるとは全く想像していなかった。
そして、だからこそ。
私は、夢を見れていたのだ。
剣を持ち続ける、夢を。
それと同時に、彼に思いを伝え、彼と共に歩む未来を。
「……好き」
溢れ落ちた言葉は、けれども虚しく宙を彷徨うばかりだ。
その現実に苦笑と共に息を吐くと、窓に添えた拳に額を寄せた。
ゼロ距離となった窓から見える、風景。
眺めていると、自分が外にいるような気になる。
けれども、それは錯覚だ。
私と外の世界は、窓によって隔たれたまま……その状況は何も変わっていない。
近いようで、外の世界は……自由は、遠い。
まるで、私と彼の間の距離のようだと力無く笑った。
あんなにも近くにいたのに、今はこんなにも遠い……と。
同時に、ギュッと窓に手を添えたまま拳を握り閉める。
力一杯握ったことで爪が手のひらに食い込み、僅かに紅の血が滴り落ちる。
ポタポタ、と。
窓を伝って、紅の雫が下へ下へ。
窓に映る私の虚像の頰を伝う様は、まるで私が紅の涙を流しているように見えた。
「……諦めたく、ない」
掠れた声で漏れた、私の本音。
それは、侯爵家の娘として相応しくない。
……けれども。
自由を望むことは、我が儘なのか。
夢を見ることは、幼稚なのか。
義務を務めなければならないと思う理性と、それをかなぐり捨てようと権利を主張する本能。
それらが、私の心の中でせめぎ合っていた。
……否、せめぎ合っているという表現は正しくない。
本能に傾いている私を、理性が必至に止めているといったところか。
ふと、今更ながらに手のひらから痛みを感じて窓から離れる。
さして大きくない傷が、手のひらにくっきりとついていた。
ちょうどそのタイミングで、コンコンコン……とノック音が扉から聴こえてきた。




