父に突きつけられた現実
大変長らくお待たせ致しまして申し訳ございません
「何故ですか……!? 何故、剣を捨てよなどと……他ならぬ、お父様が仰るのですか!」
私は、そうお父様を詰った。
けれどもお父様は、表情一つ変えない。
「何故、などと……。お前は『侯爵令嬢』なんだぞ? 政略結婚は、当然の義務ではないか」
どこまでも冷静な、声色。
「……っ」
そして至極当然のことを突きつけられ、逆に私の方が言葉に詰まった。
「今までが、普通ではなかったのだ。侯爵令嬢ながら剣を持つことを許されていた、今までの方こそが。……これからは先、婚家にて淑女の嗜みを学ぶと良い」
「嫌です……! 私は、私は……っ」
「これは決定だ! 反論は許さん!」
尚も反抗する私に、お父様の怒号が落ちた。
訓練以外で見るお父様の激情に、私は完全に思考が停止する。
「……アルメリア公爵家との顔合わせは、一週間後だ」
そう言葉を残して、お父様は去られた。
残された私は、暫くその場に呆然と佇む。
けれども全身から力が抜けて、腰を抜かしたように座り込んだ。
……訳が、分からなかった。
突然お父様に呼び出されたかと思えば、アルメリア公爵家の嫡男との婚約が決まったなどと言われ。
何の冗談かと笑い飛ばせば、真剣な顔で『決定事項だ』と返されて。
オマケに『侯爵令嬢』として、『未来の公爵夫人』として、剣の訓練は以後厳禁とまで言われたのだ。
……本当に、一体何がどうしてこうなってしまったのだろうか。
ガラガラと、私の中の何かが崩れていく。
今までだとて……目標を叶えるために定めた道を進んでも、結局その道は潰えてきた。
……まるでその目標自体が、まやかしであったかのように消えてしまって。
それでも前に進んできた分の努力は無駄にはしたくないと、絶対に自分で自分を否定したくないと……そんな思いから、自分を奮い立たせることができた。
けれども、これは違う。
いつだって、私の向かう道には私の意志があった。
進むべき未来への道を、選び取って来たのは他ならぬ自分だった。
……お父様も、その自由を認めて下さっていると思っていたのに。
そうでなければ、私は剣を手に取ることなどできなかっただろう。
お父様の言う通り、それは『侯爵令嬢』としてありえないのだから。
今、私は誇りである剣を……何より未来を選び取る自由すら奪われたのだ。
……夢や自由といった未来への希望を抱いていたからこそ、それを奪われた絶望は大きい。
「あ、あ……あぁぁぁぁあ!」
伸し掛かる絶望に潰されそうで、咄嗟に私は思い切り叫んだ。
……何故、何故、何故だろうか。
何故、こうなったのだろうか。
何が、間違っていたのだろうか。
自由にしていたことだろうか。
夢を見たことだろうか。
……それとも、始めから全て間違っていたのだろうか。
私の内なる問いかけに、当然答える人はいない。
どこにもぶつけることのできない憤りが、私の心を蝕んでいた。
その燃えたぎった感情を吐き出すように、私は声の限り叫び続ける。
……そうして、声がすっかりと枯れ果てた頃。
私は、ふらりと立ち上がった。
まるで全力疾走をした後のように、頭の中は真っ白だった。
ぼんやりとしたまま、私は無意識の内に部屋に帰っていた。
そっと、窓に手を添える。
……復讐の相手がいなくなったと知った、あの時のように。
指先から伝わるひんやりとした感触が、少しだけ私の心を落ち着かせた。
このまま、あの時のように目を瞑るのか。
何も見たくない、何も聞きたくないと、全てから隔絶されることを望むのか。
……いいや。
だって、まだ私は夢を見ていたい。
向かうべき道はまだ、選び取れていないけれども……私が夢を見ることを諦めた瞬間、本当の意味でその道は潰えるのだから。
あの日あの時……足掻いてみせると、ルイにそう言ったではないか。
ギュッと、拳を握りしめた。
そして私は、部屋に置いていたためにまだ没収されていない愛剣を手に取ると、そのまま弾かれたように部屋を出た。
未だ頭の中は混乱したままだったものの、気配を消しつつ素早く屋敷を抜け出す。
そうして庭を突っ切り、正門ではなく使用人用の門へと向かった。
後、もう少しで外の世界か……と、徐々に近づき大きくなっていく門を見て、ふと思う。
決して計画的な行動ではない……衝動に身を任せた結果が、今の光景。
……このまま私のような小娘が一人で外に出たとして果たして、何ができるというのか。
そんな疑問が、私の頭を過る。
けれどもすぐにその疑問を、片隅に追いやった。
……諦めて足をを止めることだけは、決してしたくなかったから。
だから結局、私は先へ進み続けるしかない。
まずはこの屋敷を抜け出して、後のことは出てから考えよう……と。
「……まさか、本当に脱走するとはなあ……」
門の手前にいた見知った顔に、私は愕然としつつ足を止めた。
何故、このようなところにお父様がいらっしゃっるのか。
まるで私の行動を読んでいたかのような行動に、私は思わず呆然としてしまった。
……そして、それが命取りだった。
真剣に戦っても、お父様に勝てるのは三本に一本。
だというのに、こんなに気を緩めている状態では、簡単に剣が弾かれてしまうことなど当然のことだった。
弾かれた上にそのまま剣を没収されてしまうという大失態に、再び心に重石が乗ったような絶望を味わう。
「……さて、メリー。部屋に戻るぞ。お前さんがどう思おうと、決定は覆らん」
そのままズルズルと連行されるように引きずられ、私は部屋に戻ることとなった。




