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武家の嗜み  作者: 澪亜
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私の任務

本日11話目の投稿です

それから二ヶ月後、私はお父様に呼び出されて書斎に向かっていた。


「……失礼いたします」


室内には、お父様の他にクロイツさんとベルリスさんもいる。

その三者から発せられる空気のせいか、驚くほどに重苦しい空気が部屋の中を包んでいた。


「来たか。……メル、お前に頼みがあってここに来てもらった」


「一体どのようなご用件でしょう?」


「国軍の任務に協力してくれんか?」


思いもよらなかった言葉に、一瞬言葉が詰まる。


「それは、一体……」


「数週間前より、身分の高い若しくは裕福な家の令嬢が誘拐されるという事件が多発している。……この、王都でだ」


まさか……と、言いかけて口を閉じた。

お父様の言葉が嘘偽りではないことは、お父様の声色やこの場の雰囲気で嫌というほど分かったからだ。


「巧妙な奴らで、調査をしても全く手がかりが掴めん。いかんせん、捕まっている者たちが者たちなだけに、早期解決を求められているのだが……」


「……つまり、私がメルリス様の影武者としてメルリス様になりきり、囮となれということですね?」


「……そういうことだ」


「承ります。具体的な作戦をお教えください」


「……良いのか?お前の力量ら分かっているが……それでも、危険な任務だぞ?」


「その危険な地に、何も力のない女の子たちが捕まっているのですよ?彼女たちの両親も、さぞや心配していることでしょう。……何より、時間が経てば経つほど、彼女たちの身の危険が増します。早期に解決することが何より重要かと。そのためにこの力が使えるというのであれば、何を躊躇うことがあるでしょう?」


私がそう言い切れば、お父様は溜息を吐いた。


「そうか。……では、ベルリス。説明を頼む」


それからベルリスさんの作戦を聞き、私はその通りに動くべくメルリスの服を着た。

そして、手筈通り僅かな護衛……国軍の面々が扮したそれだ……を連れて、私自身は馬車に乗り込む。


夕刻のこの時間、貴族の屋敷が集まる区域は人通りが少ない。


一度でかかってくれれば良いのだけど……。


そんなことをぼんやりと思いつつ、街並みを眺める。

夕刻の人通りが少ない風景は、どこか寂しさと切なさを人に感じさせるような気がした。


任務中の割にはどこか落ち着いていて、そんなことを考える余裕がある自分に笑える。

……中々すんなり上手くはいかないようで、その日は結局空振りに終わった。


それから一週間、作戦は続行。


不定期に貴族区域やその他あえて人通りの少ない王都の散策を行なっていたが……敵が引っかかることはない。


もしや、もう誘拐事件の犯人は活動を停止したのか?


そんな疑念が頭を過る。

勿論、私以外の別部隊が調査に当たっているのだが……中々進展はない。


ただ仮に彼らが敵を発見したとしても、踏み込むことが難しい。

何故なら、優先すべきは捕らえられた子どもたちの救出。

安易に敵地に踏み込んだ挙句、捕らえられた子たちが人質として扱われてしまえば目も当てられない。


だからこそ、一番良いのは私が捕らえられて中から彼らを護衛することなのだけれども……。

そんなことを考えていたら、俄かに周りが騒がしくなった。


まさか……と思いつつ馬車の外から見てみると、そこには交戦中の護衛たち。

どうやら、今日は当たりを引いたようだ。

心臓の音がうるさく鳴り響きつつ、頭はスッと冷えていく感覚がした。

ガタリ、と馬車の扉が開く。


「……さて、お嬢様。一緒に来ていただいてもよろしいでしょうか?」


丁寧な言葉遣いとは裏腹に、下卑びた笑みを浮かべた男。

……勿論、護衛の人たちではない。


私は、怯えたように後退りをする。


……上手くそれらしくできているかしら?


そんなことを頭の片隅で思いつつ、男を一心に見つめる。

男は抵抗しない私を強引に掴むと、そのまま外に連れ出した。


護衛の面々は、他の敵の者たちと戦っている最中だ。

私は男に連れられて、角に停められていた別の馬車に乗せられるとそのまま連れてかれた。

どこに向かうのだろうか……外を見たいのに、目隠しをされていて見ることはできない。


ただ、気配で何人いるのか大凡は分かる。

これも、日頃の訓練の賜物だ。

けれども果たして、影に隠れていた先ほどの護衛役の国軍とは別の面々が私を追うことができているのかは……謎だ。

それは流石に気配を読んでも分からない。


一応彼らのことは信頼しているが……いざという時は、私一人でも戦うということを覚悟はしている。


それから少しして、馬車が止まった。

そして、私は腕を強引に掴まれて歩かされる。

馬車を降りてから、思っていた以上に歩いているが……それはつまり、かなり広い場所ということだ。


一体何の建物なのだろうか?

とはいえ建築様式はそう変わらなのだからと、建物の内部の情報を身体で覚えるべく集中する。

目隠しをされて見えないながらも、何歩直進し何段階段を登らされ、何度曲がったかを記憶していた。


ようやくたどり着いたのか、扉を開く音ともに室内に押し出され、そして目隠しを外される。

中は、普通の部屋だった。


いや、適度に整えられたそれなのだが……普通、誘拐犯の拠点って、もう少し汚くて煩雑とした中だと思っていたのだけに、違和感を感じる。

そう、まるで貴族の屋敷のようなそれなのだ。

勿論、高価な調度品や紋様が刻まれたものは何一つないのだけれども。


たどり着いた可能性に、ブルリと私は震えるような思いがした。

室内を見渡していると、端の方に身を寄せ合っている子たちを見つけた。

すぐに、何人いるかを数える。

五人……事前にベルリスさんから聞いていた誘拐されていた人数と同じ。


「……皆、怪我はありませんか?」


そう声をかけつつ、ざっと彼女たちの身体を見る。

不躾なその視線に、けれどもこの場でそれを咎める人はいない。


「だ、大丈夫よ。貴女もここに連れて来られたの……?」


誰もが恐々と口を開かずにたた頷くだけな中、気丈にもそう言葉にした子がいた。


「ええ、そうです。……皆様も?」


私の問いかけに皆が、恐々と首を縦に振った。

余程恐ろしかったのだろう……頰には涙の跡があり、皆顔色も悪い。


今この時も、泣いている子がいる。

恐怖は、伝搬する……何より、身を縮こまらせ震えるその様が哀しくて私はその子を抱きしめた。


「……大丈夫です」


ポンポン、とその背を優しく叩く。


「きっと、すぐに助けが来ます。それに、私が必ず貴女たちを守りますから」


そう囁くように言って、しばらくそのまま抱きしめ続けた。

やがて徐々に震えは収まり、ストンと身体の力が抜けたようだった。


「……貴女は、一体……?私の名は、シャリア。テルローズ伯爵家の娘よ」


「私は……アンダーソン侯爵家のメルリス」


「え、あのガゼル様のご息女!?」


「その方の護衛兼影武者のメルという者です。今回の事件を解決するため、こちらに潜入しました。今の私の任務は、皆さんをお守りすることです」


私の言葉に、ホッと安心したような空気が流れた。

同じ世代の私からだけれども、明確に守ると言われたことがそれに繋がったのだろう。

人間窮地に立たされれば、藁にも縋るものなのだ。

……とはいえ勿論、私は藁に甘んじるつもりはないけれども。


「ですので大変恐縮ですが、皆さんこの場は私の指示に従ってください。まず、敵が来ても騒がず動かず蹲ったままでいてください。一箇所に皆さんが集まってくれた方が、私も守り易いので。それから、場所はもう少し隅に寄って……ここに、いてください」


私が立ち上がって、場所を示す。

ドアからもっとも離れた奥の隅だ。

その示した場所に皆はゆっくりと立ち上がって、恐々と指示したように座る。


「それから、怖かったら目を瞑っていてください。難しいかもしれませんが、悲鳴もあげないようにお願いします」


サイドテーブル等比較的軽めのものを次々と寄せ集めて砦を作る。


「私も、手伝います」


スプーンよりも重いものを持ったことがないというような貴族然としたシャリアが名乗り上げ、二人で家具を動かしていく。

おかげで、重い家具類も動かすことができた。

砦といっても、すぐにでも壊せてしまうそれだが、ないよりマシだろう。


砦を作り終えたところでシャリアには中に入ってもらい、私はスカートを破いた。

いざという時に、この長ったらしいスカートでは動き難い。


そして、スカートの中で隠し持っていた剣を手に取った。

いつも振るうのよりも軽く小ぶりなそれだ。

そこまで行動したところで、突然、俄かに騒がしくなった。


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[気になる点] 良いのか?お前の力量ら分かっているが……それでも、危険な任務だぞ?」 力量は では?
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