緊張と勝利
本日12話目の投稿です
……どうやら、別働隊がちゃんと私の後を追っていてくれたらしい。
しばらく外の騒がしさに耳を傾けていたら、どうやら私のところにもお客様が来たようだ。
乱雑にドアが開く音ともに、私を連れ去った男が現れる。
男は慌てたように室内に入って来て、けれども私が持つ剣を目にして足を止めた。
「お嬢様、それは一体どういうことで?」
「どうもこうも、使うつもりで」
「お嬢様が剣を?止めた方が良いぞ?中途半端に磨いた腕じゃ、怪我をするだけだ」
「中途半端かどうかは、貴方の身で確かめてみれば?」
そう言いつつ、私は男に突っ込む。
反射的に男が剣を振るった。
……遅い。
僅かに身体を逸らしてそれを避けると、そのまま下から上へと切り上げた。
男は呻き声もあげることなく、倒れ込む。
……死んだか?
確認する前に、倒れ込んだ男の急所に剣を突き刺した。
仕損じて、動かれないように。
この場に居るのは、私一人。……そして後には、戦えない子たち。
少しでも、リスクは減らしたい。
剣を持ち上げ振るうと、切っ先に伝っていた紅の血が滴り落ちた。
すぐさまドアの近くに待機する。
それから暫くして、次に来たのは男二人。
ドタドタと足音を響かせ、近づいて来た。
部屋に完全に入って来る前に、懐に入り込んでまずは一人。
もう一人の男は仲間が切られ驚いている間に、先の動きのその勢いのまま斬った。
ドサリドサリと男たちが倒れこむ。
最初と同じように伏した男たちにとどめを刺してから、少しそれを移動させた。
複数人が同時に入ってきてしまうと、流石に私一人では闘い難い。
いや正確には、私一人で皆を守るのは難しいのだ。
中々広い部屋だから、こそ。
別々に動かれてしまうと、どうしても対処が遅れる。
けれども扉のところであれば、部屋に入るのに敵が固まっていてくれるのだ。
それを利用しない手はない。
耳から入ってくる騒ぎは、徐々に大きくなっていた。
どうやら、別働隊が近づいているらしい。
そんなことを考えていたら、再び部屋に近づいてくる者の気配を感じた。
今度もまた、二人だ。
先ほどと同じ要領で、一人目を斬り裂く。
そしてそのまま二人目に剣を振るおうとしたところで……けれども私は。足に力を入れて一瞬踏ん張ると後ろに飛び下がった。
僅かに敵の切っ先が私を追い、服が破ける。
剣を持つその敵は、一瞬呆けた顔をして……けれども、笑った。
「斬ったと思ったんだけどなあ……お嬢様は中々どうして勘が良いらしい」
「ええ、そのようで」
私は冷や汗をかきつつ、男を見据えた。
……強い。それも、先ほどまでの三人の男たちとは段違いで。
こうして観察していても、隙らしい隙がすぐさま見えることはない。
先に、男が動いた。
早く的確な剣筋に内心舌打ちをしながら、それに一つずつ対応する。
カンカンカン、と剣を打ち合う音が響いた。
重心を僅かにズラす。その瞬間には、私の次の動きを予測して男が剣を振るう。
私はそれをかわしながら、少しだけ距離を置いた。
……何故だろうか。
敵が強いことはこの場において不利だというのに、喜んでいる自分がいるのは。
命がかかっているこの瞬間を、楽しいとすら思ってしまうのは。
「おいおい、何ていう気迫だよ……」
呆れたように呟く男の言葉は、私の耳には届かない。
……僅かな隙も、見逃すな。
……敵の動きから、未来を予測しろ。
私の中の私が、そう囁く。
次の瞬間、私が男に肉薄した。
男は私の動きに反応して、上から下へと剣を振るう。
それをいなし、更に攻勢すべく剣を振るった。
剣は避けられたものの、男の体制が僅かに崩れた。
その瞬間を、見逃さない。
一歩踏み込みつつ、剣を振るう。
確かな手応えと共に、紅が飛び散った。
そうして、男が倒れる。
「……貴方と同時にあと二人来られていたら、危なかったわね」
仮にそうだったとしたら、あの子たちのことを守りきることは難しかっただろう。
私は倒れた男にとどめを刺すと、息を整える。
剣がかすった横腹からは、僅かに血が出ていた。
とはいえ休むわけにもいかず、気配を感じ取るように集中する。
バタバタとした足音が、再び部屋に近づいてくるのを感じた。
そして扉から、彼らが入ってくる。
……それは、よく見知った国軍の面々だった。
「お待たせ、メルちゃん!無事かい!?」
「ええ、何とか。……この場所は、制圧されたということでしょうか?」
「はい。メルちゃんのおかげで、気兼ねなく戦うことができたよ。ありがとう!」
「それなら良かったです。……今から、アレを取り除くのを手伝って貰えませんか?」
そう言って簡易砦を指差せば、一瞬彼と彼の周りにいる面々は驚いたようにそれを見つめ、けれどもやがて苦笑いと共に片付けを手伝ってくれた。
同時に床に転がる私が手をかけた者たちを、彼女たちの目に映らせないように端に寄せる。
「皆さん、国軍の方々が助けに来てくださいましたよ。皆さんは大丈夫ですか?」
国軍の皆より前に、私は出つつ言った。
誘拐されていたことを考えると、同性かつ先ほど話した私が出る方が良いとの思ってのことだ。
私の問いかけに……否、私の姿を見てシャリアが泣きそうな顔をしていた。
「私たちは大丈夫よ。貴女が守ってくれたから。それよりも、貴女のその怪我……」
「このぐらい、大丈夫ですよ」
何だ、そんなことか……と思いつつも、心配してくれていたその事実に笑みが零れる。
「本当に、ありがとう。貴女が私たちを守ってくれたから……私は、私たちは無事なの。感謝してもしきれないわ」
そう言って、彼女は私に近づく。
「ダメです、汚れてしまいます」
私は自身が血まみれなことを思い出して、彼女のその動きを制した。
けれども彼女は首を横に振ると、私に抱きつく。
「……私たちのために被った泥を、どうして厭うことができるというの?本当に、ありがとう」
彼女のその言動に、何故だか私の両目から涙が溢れた。
「……皆さま、そろそろ……」
言いづらそうに、国軍の一人が皆に声をかける。
そっと、シャリアは離れて行った。
……それから、彼女たちが国軍の面々に保護され無事に帰って行くのを見送ったのだった。




