私の夢
本日10話目の投稿です
『まさか追いかけてくるとは……本当に、しょうがない妹だ。だが、助けてくれたこと、感謝しているぞ』
そう苦笑いされたお兄様と共に領地に足を踏み入れて、数日。
ついに、お父様がいらっしゃったとの報せがやってきた。
そしてそれと同時に、お父様に呼び出される。
……覚悟をしていたとはいえ、怖いものは怖い。
若干怯えつつ、私はお父様の書斎に向かった。
「馬鹿者!!」
案の定、開口一番に雷を落とされる。
「一体どれだけの者がお前を心配したと思っているのだ!?我儘もいい加減にしろ!」
「勝手な行動をして心配をおかけしたこと、申しひらき仕様がございません。申し訳ございませんでした、お父様……」
私が素直に頭を下げて謝ると、お父様は私を抱きしめた。
「お前が、無事で本当に良かった……っ!そして、よくぞ、パークスを守ってくれた……!」
そう言ったお父様の声は、震えていた。
それを聞いた瞬間……私も胸に熱いものがこみ上げてきて、思わず目から涙が溢れる。
「本当に、申し訳ありませんでした…!」
……そんな一幕がありつつも、お兄様が無事用事を済ませて、私たちは皆で王都に帰ることになった。
「……メリー。少しは落ち着きなさい」
王都に帰る間の馬車の中、ついそわそわしていた私にお兄様が声をかける。
「ですが、お兄様。久しぶりのドレスで、どうしても落ち着かなくって……それに、手元に剣がないというのはどうにも……」
メルリスとして王都に赴くことになった私の格好は、その言葉通り貴族の令嬢としてドレスを身に纏い馬車に揺られていたのだ。
慣れない服と環境に、どうしても心が騒ぐ。
私のそんな様子に、お兄様は苦笑いを浮かべていた。
「父上も一緒だ……そんなに心配しなくても、大丈夫だろう。お前は外の景色でもゆっくり見ていれば良い。どうせ行きは、そんな余裕がなかっただろう?」
「……はい」
肯定したとはいえ、その状況にすぐに慣れるでもなく……結局そのせいで、行きの時よりも疲労を感じての帰宅となった。
夜が明けて朝食を食べた後、すぐにメルの服に着替える。
いつも着ているそれに着替えて、ようやく人心地がついた。
これからは以前領地でしていたように、メルとメルリスの二重の生活だ。
訓練をする時はメル、それ以外はメルリスとして過ごす。
訓練を続けることにお父様は難色を示されるかと思ったけれども、案外あっさりとお許しくださった。
そのことに安堵しつつ、私は訓練場に向かう。
「……メル」
私を呼び止める声に足を止めると、そこにいたのはばあやだった。
「心配しましたよ。……本当に。貴女に何かあったら、私はどうすれば良いのです?お嬢様にも、ご当主様にも向ける顔がありません」
「……心配をかけてごめんなさい。ですが、この通り元気ですよ」
「……全く、少しは落ち着いてくれれば良いのに。今日帰って来たばかりでしょう?」
「はい。ですがアンダーソン侯爵家に行ってから、随分と休ませていただきましたので。身体が鈍らないように、なるべくなら本日の訓練から参加したいと思います」
「そうですか。……貴女のことだから心配いらないと思うけど、気をつけてくださいね。私は、お嬢様のご体調を確認して参りますから」
ばあやはメルがメルリスだということを知る数少ない使用人にして、協力者。
彼女がいなければ、この二重生活は成り立たないだろう。
今からだとて、誰もいない部屋で、あたかもメルリスと共に過ごすフリをしてくれるのだ。
「ありがとうございます。それでは、お嬢様によろしくお伝えください」
そう伝えて、訓練に出る。
身体を動かしたと実感できるのは、久しぶりだった。
アンダーソン侯爵領では、勝手をした罰として訓練の参加禁止を言い渡されていた上、帰りの道中もずっと馬車に揺られていたのみだからだ。
汗を流したおかげで、気持ちがクリアになった心地がする。
「……メル、久しぶりだな」
「クロイツさん!この前はありがとうございました」
私のお礼に、けれどもクロイツさんは何も反応をしない。
そのことを不思議に思って首を傾げていると、いきなりクロイツさんが笑い出した。
「いや、いつものお前だなと思って」
「どういう意味ですか?」
「いや、何でもない」
笑いを噛み締めながら言ったそれは、けれどもやっぱり意味が分からず私は首を傾げることしかできなかった。
「あーメルちゃん!」
「久しぶりだな。あの後どうだった?やっぱり、将軍にお褒めいただけたのか?」
クロイツさんと話していたら、他の国軍の面々も近寄ってきた。
「お久しぶりです、皆さん。この間はありがとうございました。それが、勝手をした咎で、随分怒られてしまって……。しばらく謹慎を言い渡されたんです。それが明けてから単騎で王都に帰りまして、今日、到着致しました」
「あー、じゃあ将軍ご一家とは別行動だったんだ」
「はい。とはいえ、護衛役がお嬢様からあまり離れる訳にはいかないので……早々に帰って来れましたけど」
「そういうことか。そういえば、お前、お嬢様を見たか?」
「おお、見た見た。チラリとしか見えなかったけど」
「そうなんだよなー。遠目だったからあんまりハッキリとは分からなかったけど、やっぱりメルちゃんに似ているなって思ったよな」
「確かになー」
その会話に、ドキリと胸が鳴った。
似ているも何も、本人だ……とは、口が裂けても言えない。
「影武者が似てなければ、そのお役目を果たすことはできませんからね」
私の言葉に、彼らは納得したように頷いた。
「そりゃ、そうだな。けど、外見が似ていても中身は全然違うんだから面白いよな」
「確かに。方や病弱な侯爵家令嬢、方や将軍の秘蔵っ子にして大の大人をバタバタ薙ぎ倒す猛者!……こう挙げてみると、正反対だな」
自分のことながら、確かにと納得してしまった。
まあ、病弱云々は設定なのだけれども。
「は、ははは……」
周りに合わせて笑う。
つい、乾いた笑みになってしまうのは仕方ないことだろう。
「……あ、それはそうとメルちゃん。訓練後暇?模擬戦付き合ってくれないか?」
「ええ、喜んで」
やっぱり、私にはこちらの方が性に合う。
いかんせん、ずっとこうして過ごしてきたのだから。
そしてこれからも、こんな日々が続けば良い……そう、思った。
その後訓練に参加し、約束通り模擬戦も何度か希望者に付き合って行った。
やっぱり汗をかくのは、気持ちが良い。
今まで感じていた心の疲れが取れたような気がする。
「……メル、やっぱお前すげえな」
「どうしたんですか、急に」
となりで汗を同じく拭うクロイツさんの言葉に、首を傾げた。
「いや、この前のパークス様護衛の時にも思ったけどよ。お前って、剣を持つ時は別人だよな。普段はどこにでもいる少女みたいなのに」
「……そうなんですか?自分では、意識していないので分かりません」
確かに、闘いの場となると言葉遣いが荒っぽくなる自覚はあるけれども。
けれどもそれは生き死にがかかった場のみのことで、普段の訓練の時はそんなことないと思うんだけどな。
「まあ、そうだよな……。そういや、お前。新しい目標って何なんだ?」
その問いの意味が分からず、再び首を傾げる。
「ほら、前に言っていただろう?敵討ちっていう目標が失くなって、けれども新たな目標ができたってさ。そのために、剣を磨いているって」
続けられたクロイツさんの言葉に、私は『ああ……』と呟いた。
「皆さんですよ」
「……は?」
「皆さんのように、誰かを守れるような人になりたい。皆さんのように、将軍が歩いた道の後を続いていきたい。そうして私の後にも誰かが続いてくれれば……誰かが誰かを守るその輪が広がっていけば、やがて国という大きな場においても、私のように喪う悲しみを味わう人がいなくなると思って。そのために、国軍に入りたいと思っています」
「……お前……」
私の言葉に、クロイツさんは何かを言いかけて止めた。
「そうか……」
その続きが気になったけれども、それを問う前にクロイツさんは複雑そうな笑みを浮かべつつ納得したように呟いて、それ以上問うことはできなかった。




