社交界の裏側
本日9話目の更新です
全ての方に挨拶が終わった後、私はその場を失礼して化粧を直すために控え室に向かう。
化粧を直し終え、夜風に当たろうとバルコニーに出た。
人が密集する室内にいて火照った体に、冷ややかな夜風が心地よい。
ふと、庭に妙な気配を感じた。
……今日の王城は、当然ながら厳戒態勢が敷かれている。
基本的な警備の配置はルイから聞いていて知っているし、王城の使用人も定められた場所以外立ち入ることは固く禁じられている筈だ。
だというのに、何故……。
気になった私は、即座に部屋を出ると庭に向かう。
途中、適当な空いている部屋にお邪魔させてもらうと、スカート部分のボリュームを出すためにつけてある、布を丸めて作られたクッションを取り、そしてペチコートと上着を脱いだ。
次に、取ったクッションの縫い目を切る。
そうして頭が入れられるような中央に穴の空いた一枚の大きな黒い布となったそれをすっぽり被って、クッションを身に付けるためのものだった紐を黒布の上から結びつけた。
その後、丁度部屋にあったテーブルクロスを失敬して頭からすっぽり被る。
それから、靴を脱いで部屋の隅に隠し、代わりにソファーにかけられていた布で足を覆った。
ついでに、足に取り付けた短剣を手に取る。
すっかり動き易くなった格好で、私は闇に紛れるように気配を消して走り、件の場所に到着した。
「……首尾は?」
「上々。AからD地点まで、計画通りの人数の配置が完了。順調ですね」
……国軍の服を着ているけれども、見覚えがない上に警備として配置される筈のない場所にいる彼ら。
オマケに、会話は不穏なそれ。
とはいえ間違っていたら困るから、一人を気絶させた上で、もう一人から聞き出そう。
いつもの剣とリーチが違うから使い勝手が悪くて嫌なのだけど、この際贅沢は言っていられない。
覚悟を決めて気配を絶ったまま近づくと、そのまま一人の腹を剣の柄で殴打して気絶させる。
そのまま、もう一人が驚いている内に後ろに回り込んで首に剣を添えた。
「動けば、切る。妙な素振りを見せても、切る」
まるで自分の声でないような、そんな低い声を耳にする。
「……お前は、何者だ?」
私の問いかけに、男はピクリと震えた。
「お前こそ、一体何者だ?!」
「騒ぐな、五月蝿い」
そっと、首に剣を寄せる。
ツウと赤い筋が首から流れた。
「それで、何者? まさか、国軍の者ではないでしょう? ここには警備が配置されていなかった筈」
「一体何を根拠に。自分は、国軍第一師団所属の者だ。昨日クロイツ様より、この場を守るように言われて……」
「……そう。ありがとう」
私は躊躇わず、その男を切った。
私がクロイツさんより警備の配置を聞いたのは、今日の今日。
お父様に警備の最終確認をしに来たクロイツさんに、お父様に了承をいただいた後にメルとしてその内容を聞き出したのだ。
つまり、昨日の指示でここにいる訳がないのだ。
そもそも、国軍の面々は決して王宮の敷地内で警護をすることはない。
何故なら王宮の警護は騎士の役目なのだから。
その騎士の警備体制についても、情報の共有の観点からクロイツさん経由でお父様に報告があった際に聞いているのだけれども。
オマケに第一師団……お父様が師団長を勤める者で、私が知らない者はいない。
何故なら第一師団の面々は、交代でアンダーソン侯爵家での訓練に参加している。
メルとして訓練に参加していた私が、第一師団に所属する者で知らぬ者はいないのだ。
それだけ、訓練を積み上げてきたということでもある。
男が倒れ込みつつ悲鳴をあげそうになったところを、口に手を当てて止めた。
「残念ながら、私も第一師団所属。……それで? お前たちの目的は?」
「誰が言うか……」
「そう、残念……。その虚勢、いつまで保つか試すか?」
どうしたら話して貰えるか……と頭の片隅で悩みつつ、倒れ込んだ男に剣を向ける。
生憎と、拷問は専門外。
如何に恐怖を与え質問に応えるようにするか……否、強烈な恐怖を与えた後に安心させた方が話し易くなるのだっけか。
次の言葉を探しつつ、男の視線に合わせるようにしゃがんで睨んだ。
先ほどもそうだったが、男はそれだけでびくりと震えた。
私を見上げる顔に、ハッキリと恐怖が写っている。
……何か、怖がられるようなことをしただろうか?
疑問を抱きつつも丁度良いと、私は口を開いた。
「……それで? 目的は?」
男は、迷っているようだった。
……ここで命は保障するとでも言えば、安心するのだろうか。
だが、私はここで偽りを言いたくはない。
助ける気など、初めからないのだから。
「もう一度だけ聞く。……目的は?」
男は、固く口を閉ざした。
敵ながら、天晴れ。
……やはり、私に情報収集は向いていないようだ。
私がその男の命を奪い取ったタイミングで、先に倒した男の当身が弱かったのか、男が僅かに反応を示す。
黙って様子を伺うと男は目を覚まし、すぐに現状を把握したのか、倒れたまま悲鳴をあげようとしていた。
それを先の男同様、手を当てて口を塞ぐ。
「貴方は、目的を話してくれる?」
その問いかけに、男は何度も頷いた。
「それで、標的は?」
「リ……リンメル公国から来た奴ら」
予想はしていたものの、怒りで頭が冷えた心地がする。
ロメル様とルイが、持てる力を注ぎ込んで今日この場を整えたというのに、それを邪魔する輩が現れるとは……何て不愉快なのだろう。
「ほう……全員か?」
「あ、ああ……」
「……それで、誰が雇い主だ?」
「わ、分からない……」
私が無言になったことで、男は慌てて口を開いた。
「ほ、本当だ!」
「……では、お前の仲間は何人いる?」
「三十人……」
多いな、と内心嘆息する。
これは恐らく、誰かこのパーティの参加者……かつ、国の中でも一定以上の者が関与している可能性が高い。
そんな考えに気を取られていたせいか、目の前の男が剣を手にして襲いかかってきていた。
油断が過ぎていたな、と反省しつつ私は即座に男を斬り捨てた。
深く息を吸って吐き、気持ちを落ち着けつつ倒れた二人を見る。
……許さない。
このパーティーは、リンメル公国とタスメリア王国の繋がりを強める第一歩。
それが平和に繋がると信じ行動してきた、ロメル様に対する侮辱だ。
計画をした者にどのような意図があったとしても……例えそれが国を思ってのことだとしても、このような武力で訴えた時点で、平和的な解決などできやしない。
戦いの火蓋は、切って落とされたと同じなのだから。
……せっかく気持ちを落ち着けようとしたというのに、男たちを見ていたら再び怒りが沸き上がってしまった。




