社交界の一幕 弐
本日8話目の更新です
まずは、モーリス・グリンドル公爵。
「今晩は、グリンドル公爵。本日はお楽しみいただけているでしょうか?」
既にルイはグリンドル公爵が王都に到着した際に挨拶を済ませているため、そのまま話しかけた。彼の挨拶に、モーリス様は爽やかな朝笑みを浮かべる。
「おお、ルイ殿。それは勿論。大変楽しませていただいておりますよ」
「そう仰っていただけて何よりです」
「それで、そちらの女性は?」
和かな笑顔を、モーリス様は私に向けた。
「ええ、ご紹介させていただきます。こちらは、私の婚約者のメルリス・レゼ・アンダーソンです」
「メルリス・レゼ・アンダーソンでございます。本日はモーリス様そして奥様のリネット様にお会いできて光栄ですわ」
「こちらこそ、お会いできて光栄です。流石かの有名なガゼル将軍のご息女。とても美しい」
「まあ、モーリス様ったら。……でも、本当に。まるでお人形さんのようですわ」
「お褒めに預かり、光栄ですわ」
二人の賛辞に、私は再度頭を下げる。
「ん? ああ、そういうことか……」
一瞬、モーリス様がリネット様の言葉に首を傾げたものの、すぐに納得したように頷いた。
「否、容姿もそうだが……メルリス殿の動きがとても美しいと思ったんだ」
ヒヤリ、内心冷や汗をかいた。
モーリス様は、リンメル公国でも武闘派な公爵として有名。
ということは、私の何気ない動きから察知したということか……。
私が武術を嗜んでいるということを。
「ああ! そういうことでしたか。確かにメルリス様の動きはとても洗練されていますわよね。……モーリス様が女性の方の容姿について言葉にされるのは、大変珍しいことですもの。尤も、それも納得なほどメルリス様はお美しいですけれども」
リネット様の言葉に、これ幸いと再び私は口を開く。
「恐縮です。ただ……父のおかげというよりも、ルイ様のお母様であるオーレリア様の教育の賜物でございますが」
「ほう……オーレリア殿の、ですか」
少々納得がいっていないようだったけれども、モーリス様はそれ以上言及することはなかった。
……最近は武術の動きというよりかは、オーレリア様の教え通りの動きとなるよう常日頃気をつけているから、私の力量を正しく感じ取ってはいないということを祈っておこう。
「リネット様。もしよろしければ、明後日ゆっくりとお話ししませんか? モーリス様がルイ様との約束があると伺っておりますので……」
「まあ、それは良いですわね! 殿方は殿方同士で難しい話をしている間に、私たちは女同士殿方の目を逃れて気楽に話しましょう。是非、私の宿泊先にお越しになって。後ほど、招待状をお渡しさせていただきますわ」
「ありがとうございます。……今からとても楽しみですわ」
私たちがそんな話をしている間に、モーリス様とルイは別に二人で会話をしていた。
場所が場所だけに、込み入った話はしていないようだが。
その後、私たちはグリンドル公爵夫妻に別れを告げて離れる。
そして次に向かったのは、カーティス・スリガー公爵。
ちなみにこの話しかけにいく順序は、ルイと既に打ち合わせしたことだ。
ロメル様とオーレリア様は先にスリガー公爵に話しかけに行った後に、グリンドル公爵に話しかけに行くという順のため、私たちは逆にグリンドル公爵夫妻に話しかけにいったという訳だ。
「ああ……君は確か、アルメリア公爵のご子息のルイ殿だったかね」
近づいて行くと、ルイの存在に気がついたカーティス様が声をかけてきた。
ルイはこのパーティーの前、彼等がタスメリア王国に到着した時に挨拶をしているため、既に皆と顔見知りなのだ。
「はい。ルイ・ド・アルメリアです。こちらは婚約者の、メルリス・レゼ・アンダーソンです」
「初めまして、お会いできて光栄に存じます」
「……アンダーソン? まさか、君の父上は……」
ギロリと鋭い視線が私に向く。
「はい。閣下のご明察の通り、私の父はガゼルです」
「ほう、そうですか……。まさかあの有名なガゼル将軍のご息女が、このような麗しい女性とは思わず……。つい、不躾に見てしまって申し訳ない」
「とんでもないことですわ。私は母似で父にそれほど似ておりませんので、驚かれるのも無理ないことかと」
「そう言っていただけて、何よりです。……そういえば息子はこの場におりませんが、先ほど踊っていらしましたね?」
「ええ。マイルズ様とは先ほど踊った際に、ご挨拶させていただきましたわ」
どうやらカーティス様は私の父がガゼルということで、興味を抱いたらしい。
……先ほどまでカーティス様に話しかけていた面々は、カーティス様の反応が芳しくなかったために二言・三言で会話が途切れてしまっていたようだったが……何故か随分とカーティス様のお時間をいただいた。
「貴国からタスメリア王国までの旅程はいかができたか?」
「それなりに快適でしたよ。……まあ、貴女がリンメル公国に来て自分で体感してみればよい。無事に条約を締結した後に、でも。そしてその際には、是非我が領地に寄って来ていただきたいものですな」
「まあ、ありがたいお誘いですわ」
まさかのお誘いに、一瞬呆けたけれどもすぐに笑みを浮かべた。
そうして和やかに会話を繰り広げ、少しした後にスリガー公爵とも別れた。
その後、フィリング公爵、バスカル公爵そしてクロウ公爵の順に次々と挨拶をしていった。




