スイートラディッシュ〜大人気アイドルVTuberの正体は高山の高校に通う陰キャのJKだった件
高校では目立たない存在。
だけどネットの世界では、何万人ものファンに愛される人気VTuber。
そんな二つの顔を持つ女子高生・ナヴィが主人公の物語です。
現代ならではのVTuber文化と、飛騨高山の日常、そして青春ならではの葛藤や成長を描いてみました。
最後まで楽しんでいただけたら嬉しいです。
【ペルソナ】※ナヴィはフランス語で「赤かぶ」
・ナヴィ(17歳JK)=高山市内の高校2年生。陰キャでコミュ症。対人恐怖症。だが裏の顔は・・
・スウィートラディッシュ=全国的に大人気のVtuber。通称『スイラジ』すべてが謎
・ジン(17歳)=高山市内の高校2年生。祭り屋台に命をかける祭り男子。だが裏の顔は・・
・フェニックス=スウィートラディッシュと人気を二分するイケメンVTuber。通称『ホウ』
・イチゴ(17歳/CV=岩波あこ)=スイラジガチ推しの同級生。陽キャ一軍メンバー
・ナヴィのママ(CV=山﨑るい)=Vtuberのことはよくわからないけど薄々気づいている
【プロローグ:LIVE配信】
◾️SE:アニソンのアウトロ〜
「みんな〜!おつラディ〜!
スイートラディッシュの”歌ってみたライブ”、最後の曲は
『アイニキテ』でした〜!
アンコールのコメントもたくさんありがとう〜!
ア〜シの想い、”ラジ部”のみんなに届いたかな?っ。
次の配信は来週!
スケジュールはXに載せるから、ちゃんとチェックして待っててね?
遅刻は厳禁だよ〜!
忘れたらおこだからね〜
ハッシュタグはいつもの『スイラジ』〜
そしゃ、バイバイ!」
「あれ・・、いまアタシ、なんてった?
あ〜、まいっか」
◾️SE:LIVE終了の音「ピ」
ア〜シはスイートラディッシュ。
通称”スイラジ”。
みんな知ってる、人気ナンバーワンのアイドルVtuber。
今夜のライブ配信も、10,000人以上のファンが参加してくれた。
バーチャルスタジオをレンタルして、
3曲もうたっちゃったからねー。
スイラジのビジュは、王道のアイドル系。
ゆるふわに巻いた高めのツインテール。
赤かぶをモチーフにしたリボン付きの結び目。
ラディッシュのしずくをイメージしたチョーカー。
トップスは赤白のギンガムチェックのビスチェ。
デコルテがきれいに見えるハートネック。
肩口はシースルー素材のパフスリーブ。
ボトムスはボリュームたっぷりの3段フリルミニスカート。
腰の後ろには、赤かぶの葉をイメージしたオーガンジーリボン。
ダンスするたびにひらひらと揺れる。
スイラジは、大手事務所に所属せず、フリーで活動中。
ゲーム実況とかはやらずに、フリートークと歌がメイン。
アイドルVtuberの世界では、イケメンVのフェニックスと人気を二分してる。
・・・っと
あ、あか〜ん。もうこんな時間やん。
勉強やんなきゃ。
明日期末なのに〜
そう。
スイートラディッシュの中の人は、
ア・タ・シ・・現役JKのナヴィ。
市街地の高校に通う二年生なんだ。
仮想世界ではバリバリのアイドル。
1万人の前でも余裕で歌えんのに、リアル出ると・・・
マジ無理。詰む。
だってアタシ、陰キャ、コミュ症なんだも〜ん!
【シーン1:期末1日目】
◾️SE:教室のチャイム
やっぱりだめだったぁ。終わった〜。
英語も歴史も数学も全滅。まじで1ミリも分かんなかった〜。
余裕で赤点だ〜。
期末前日にライブ配信やるなんて・・・
バカじゃん、アタシ。
「ねえ、昨日のスイラジ見た?」
え?
「そうそう、あの最後の・・」
昨日のアタシのライブのこと?
「だよね!言ったよね。
『そしゃ』って」
あ・・・
「うんうん。やっぱそうじゃない。
スイラジってさ・・」
やばっ。
「高山住み〜!?」
やらかした〜。
やっぱバレてたか〜。
「ひょっとして私たちの周りにいたりして〜?
きゃ〜!」
期末1日目終わったあと、みんな教室に残ってだべってる。
ってか、みんな昨日ライブ見てたの?
期末前日に。
でもでも。
どうする?
「ほ〜んとにいるかもよ〜」
さっきからずっとマウントとってるイチゴと・・
目が合った・・・
え?
一瞬の沈黙。
そして・・・
「ないない!」
はぁ〜っ。
よかった、アタシ。陰キャで。
と思ったそのとき・・・
「ちげーよ」
ジン・・・
「スイラジがこんなとこにいるわけないだろ」
いるけど・・・
「それに『そしゃ』なんて言ってない。
『そいじゃ』の聞き間違いだよ」
「え〜そうかな〜。
『そしゃ』って言ったじゃん」
うん。言った。たぶん・・・
「なコトより、明日の試験、いいのかよ。
早く帰らなくても・・」
「あ、やばっ。
帰るわ。
ばいちゃ」
「昭和かよ。ったく。
じゃ、オレも帰るわ。
お前も早く帰れよ、ナヴィ」
「あ・・・うん・・・」
「じゃあな」
アニメの主人公みたく爽やかに、ジンが教室を出ていった。
そういえば、子どもの頃はよくジンと遊んだな・・・
コミュ症のアタシをいつも外に連れ出してくれたジン。
毎日のように遊んでたのに・・・
中学の門をくぐり、高校に入ると、まったく会話はなくなった。
みんな慌てて帰り、たった一人残った教室。
(白山に沈む)夕陽がアタシを赤く染めていった。
【シーン3:期末が終わって】
◾️SE:教室のチャイム
「終わったぁ〜。期末ぅ〜。
おつラディ〜!」
教室のあちこちから『おつラディ』という通称『ラジ語』が飛び交う。
結局、アタシの高2・二学期の期末は、史上最悪の点数で幕を閉じた。
「ねえちょっと、みんな。知ってる?」
アタシに背中を向けたイチゴが、陽キャ一軍界隈のメンツを集める。
なんで、いつもアタシのすぐ横なの?
知らんけど。
「スイラジの中の人・・梨柿らしいよ」
▪️クラス中にどよめきがおこる「ええ〜っ」
リカ、というのはクラスでいっちゃん可愛い、って自分で言ってる女子。
今までも、原宿行ったらスカウトされた、とか、
人気インフルエンサーとつながってる、とか、アピってたっけ。
「この前もリカ、帰るとき『そしゃバイバイ』って言うからさ。
こっちが『えっ?』ってなったら、
『やばいやばい!』ってガチ焦りで帰ってったわ」
ふう〜ん。
ま、いいんじゃない。
これで、誰もアタシに疑惑の目は向けないだろうし。
ん?
なことしなくても、そもそも誰もアタシのことなんて気にもしてないか。
へへっ。
ニヤけた顔で黒板の方を向くと、怖〜い顔でジンがアタシを睨んでた。
え?なんで?アタシ、なんか、悪いことした?
アタシが悲しそうな顔になると、ジンは無視して教室を出ていく。
なんかアイツ、最近やなやつ。
【シーン4:食卓にて】
◾️SE:食事中のガヤ
「ちょっと〜、ナヴィ。
食事中にスマホさわんないで」
「え〜。だってママ〜。
この前のライブの再生数、あんまし伸びないんだもん」
「くだらないこと言ってないで、ちゃんと味わって食べなさい。
あげづけの冷や奴と、あげづけの挟み焼きよ。
あんたの大好物でしょ」
「え?
やった!いっただきま〜す!」
「はぁ〜。さっきから目の前に置いてあるのに・・・っとにもう」
さっと炙って細かく切ったあげづけに、旬のみょうがをどっさりのせた冷や奴。
醤油ベースの旨味と、みょうがの爽やかさが絶妙。喉越しもう神!って感じ。
あげづけの間に大葉ととろけるチーズを挟んだ、挟み焼き。
トースターでカリッと焼いたこの食感。
もうマジ、やばみ〜!
「あんた、ライバーだかワイパーとか知んないけど、
次のテストで赤点とったら、パソコン没収するからねー」
「え〜〜〜〜!?」
「ったりまえじゃない。
学生の本分は、勉強なのよ、わかってる」
「わかってま〜す」
「じゃ、しっかりやんなさい」
やっぱり、今回の期末で過去最低スコアだったからな〜。
ママもパパも相当ビビってたし。
配信の回数、少し減らそうかな・・・
そんな後ろ向きのことを真剣に考えているとき・・・
◾️SE:DMの着信音
SNSのDMが届いた。
『よぉ、スイラジ。
最近配信が止まってるやん。(止まってて草)
ひょっとして俺にビビり散らかして逃げた説ある?』
フェ、フェニックスぅ〜!?
『そうじゃないなら、
今週末”タイマン・コラボ生配信”で白黒つけようぜ』
この〜!
クソイケVが〜
『今週の日曜、21時。
枠はこっちのチャンネル。
内容は”歌とセリフ対決”。
リスナーのリアルタイム投票で勝敗を決める。
言い訳なし。
負けた方は、次回の配信から、ずうっと飛騨弁で雑談すること」
な、なんだとぉ〜!?
こいつ、なにか知ってるのか〜!
『ま、スイラジがガチでビビってんなら、そのままバックれてもいいけど?笑
逃げないなら、日曜の夜、画面の裏で待ってる。そしゃ』
くっそ〜。
はん。面白いわ。受けてやろうじゃないの。
でも、なんで飛騨弁?
ってか、フェニックス、飛騨弁喋れるの?
まさか、高山の人?
そんな・・・いやいやいや。ありえんし。
一人でスマホ見てブツブツ呟きながら、鋭い視線を感じて顔を上げる。
もっのすごい怖い顔でママがアタシを睨んでた。
【シーン5:コラボ対決】
◾️SE:オープニングTM
『みんな〜!お待たせ〜!
フェニックスことホウです!
今夜は予告通り、スイラジとタイマンコラボやってくぜ〜。
あいつ、9時5分になったら Discord入ってくると思うから、
みんなでコメ欄見ながらのんびり待とうぜ!』
『おっ!ももちゃん、今日もありがとー!一番乗りじゃん、さすが!』
『イチゴも元気〜?
え?なに?ホウの”飛騨弁聴きたい”?
いやいや、残念でしたー。オレ負けねえし』
『リカもありがとね!
って、”クマに注意して”、ってなにそれ?笑
オレどこに住んでると思ってんの?』
ついにライブ配信が始まった。
『そしゃタイマンバトル!ホウvsスイラジ!』
フェニックスのやつ、な〜んかド派手な枠タイ作っちゃって。
画面の向こうで、相変わらずのイケメンボイスがヘラヘラと笑っている。
ん?
コメ欄にいるの、イチゴにリカ・・・
ってうちのクラスの一軍界隈じゃん。
ちょ、リカ。
あんた、スイラジじゃなかったの?
ま、いっけど。
21時4分。1分前。
どうしよっかなー、ちょっとフライングで凸してやるか・・・
そう思って勢いよく立ち上がった瞬間・・・
「えっ!?」
アタシはネットの配線を踏んづけてしまった。
LANケーブルが足に引っ掛かってブチッと抜ける。
画面はブラックアウト。
金属端子がPC基盤のポートを巻き込んで斜めに引きちぎられる。
中の8本の銅線がバラバラに露出。
だめだぁ〜!何をやってもネットにつながらない!
アタシの頭の中はもうパニックで真っ白。
「詰んだぁ〜!!
終わった・・・」(泣)
と、そのとき。
ドタドタと階段を上ってママが部屋へ入ってきた。
「どうした?ナヴィ」
私は泣きながらママに説明する。
もう隠しておくことなんてできない。
スイートラディッシュのことも、フェニックスのことも。
ママに言ったってどうしようもないのに。
ママは私の話を黙って聞いたあと、すぐに部屋を出ていった。
1分もしないうちに大きな工具箱を持ってくると、
「どきな」
「えっ?」
「うん。マザーボードまでは、いっとらんか・・
でもいまはカシメ工具がないからな。
応急処置でいくぞ」
そう言って、ちぎれたケーブルの先端をニッパーで切り落とす。
カッターとハサミで、ビニールを2cmくらい剥くと、
中の導線をほぐしてまっすぐにした。
素早い手つきで、工具箱の中から透明なコネクタを取り出す。
8本の導線を並べ替えて、コネクタの奥まで差し込む。
コネクタについているのは小さな金属のブレード。
それを1本ずつ、精密ドライバーで力技で押し込んで、
中の銅線に直接ぶっ刺した。
「ツメが割れとるで、結束バンドでガチガチに固定するからな」
「ママ、なんでこんなことできるの?」
「しゃあないなあ。
黒歴史やからだまっとこうと思っとったんやけど」
ママは、ニっと笑って話し出した。
「20年前、ママは『ねとらじ』で毎週配信してたんや」
「え?ねとらじ?なにそれ?」
「ネットラジオサービスやよ」
「えええええええええ!?」
「パソコンも秋葉原でパーツを買って自作しとったわ」
アタシはコラボライブのことも忘れて、思考停止。
頭の中に二十歳のママが配信する映像がぐるぐる流れていた。
「よし、作業完了」
そう言って、ママは電源を再起動。
起動音が希望の声を上げる。
「ナヴィ、お客さんはええのか?」
「あっ!そうだった!」
慌ててブラウザを立ち上げた。
フェニックス、きっと激おこだろうな・・・
だが、そのあと画面に流れてきたのは・・・
▪️フェニックスがスイラジの曲を歌い繋いでいる
アタシの歌だ・・・
「アイニキテ」。
なんて・・・エモい。
コメ欄には賞賛の言葉がものすごいスピードで流れていく。
同接数は・・・・・
やばい!もうすぐ5万人じゃん!!
アタシは、ゆっくりとヘッドセットを装着。
マイクの位置を調整する。
マウスを握る手が、少しだけ震えた。
1コーラス終わるのを待って、アタシはDiscordのミュートを解除した。
【エピローグ:リヴェンジコラボ】
◾️SE:小鳥のさえずり
コラボ対決は大差でフェニックス、ホウの勝利。
でも、ぜんぜん悔しくなかった。
学校では、昨夜の配信のことで教室中が大盛り上がり。
私は他人事のように聞き流し、
放課後は誰よりも早く教室を出た。
後ろから誰かの足音がついてくる。
振り返ると・・・
『今日、リヴェンジコラボの配信だろ』
「うん・・・え?・ジン!?」
『がんばって』
「え・・・」
『今日はそっちがホストだもんな・・・オンタイムで凸するわ』
「えええええ!」
『ふだん通りに・・・飛騨弁で』
そんな・・・そんな・・・
ジンがフェニックスだったのぉ〜っ!?
ジン、いやフェニックス・ホウは
言いたいことだけ言うと、走って去っていった。
◾️SE:オープニングTM
『みんな〜!おまラジ〜!
スイートラディッシュ〜スイラジです!
今日のコラボはア〜シが主催だから。
一緒に凸待ちしてねー。
あ、そうそう。
もうひとりすてきなゲストを紹介せんと。
スイートゴッド、こと、スイゴッドちゃんです〜!』
「ハーイ!みなさん!
スイゴッドです!
よろゴッド〜!」
ちょっとぉ〜!ママ、ノリノリじゃん。
スイゴッドのモチーフは飛騨の匠。
現代風にアレンジした、ショート丈のサイバー法被。
背中には大きく『匠』の文字。
インナーはサラシを巻いて、漆黒のワークパンツ。
トサカかんざしを刺した赤髪のポニーテールがてぇてぇ!
このあと凸してくるフェニックスもビジュ爆発してっからねー。
てか、祭り屋台の鳳凰台がモチーフだったなんて、
あとから聞いてマジでビビったんだけど。
『みんな〜!おつラジ〜!
フェニックスことホウです!
スイラジ、スイゴッド、よろしく!』
『オッケー、みんな揃ったねー。
そしゃ〜!!やるんやさぁ〜!!!』
コメ欄はもうパンク寸前。
同接数はあっという間に10万人を越えていった。
最後までお読みいただきありがとうございました。
「スイートラディッシュ」は、ネットの世界と現実の世界、その両方で生きる若者たちの姿を描いた物語です。
誰にも見せられない自分。
誰かに認めてほしい自分。
そして、ありのままの自分。
そんな思いを抱えながら成長していくナヴィたちを応援していただけたら嬉しいです。
また、この物語はボイスドラマになっています。
『ヒダテン』で検索して公式チャンネルから聴くか、Spotify、apple、amazon、YouTubeなどのPodcastで『ヒダテン』と検索してください。
ここまでお付き合いいただき、本当にありがとうございました。
また次の物語でお会いしましょう。




