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黒き獅子は天使に愛を乞う  作者: 一ノ瀬葵
番外編・後日談

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後日談③ 未来への灯火㊦

 お茶会終了後ジークフリードは王宮の幾つかあるうちの一つの応接室でアレンディスへ二つ名の事、クリストファーの事をまだ幼い息子にわかりやすいように伝えていった。

 その場には、フィーリアと、レオン、サイラス、ルーク、ユーゴが同席していた。


「今のお前に伝えるのはここまでだ。まだ伝えていない事もあるがそれはもう少し年齢が高くなってから伝える。

 アレンディス。この話を聞いてどう思った?」


「どうって…

 今までも僕のこの瞳を何か物言いたげに見てくる者達は多かったけど…この瞳が初代国王陛下と同じ色だからって…それだけで?

 二つ名って…

 それに…僕の…もう一人の伯父上になるんだよね…?

 その…クリストファー殿下という方は…」


「そうだ。今は王都から離れた地にある『白の館』と呼ばれている場所で過ごしている。表向きは王族の保養地とされているが、極刑にならなかった重罪を犯した王族が生涯過ごす場所だ。」


(僕の…もう一人の伯父上……どんな方なんだろう…?)


「会う事はできないの…?」


「会ってみたいのか?」


「うん…父上の兄君で…僕のもう一人の伯父上なんだよね?」


「…………………。」


「父上?」


「それは無理なんだよアレン。」


「伯父上…無理って…?」


 アレンディスの言葉に黙ってしまったジークフリードの代わりにレオンが話し始める。


「先ず、『白の館』に幽閉されたら生涯そこからは出る事は出来ないんだ。それから、その地は王都から馬車で二週間以上かかる程の離れた土地にある。

 そして、何より王位継承権を持つ王族の人間はその地へ行く事を禁じられている。」


「どうして…?」


「うん…ジーク、ここまで話したならアレンに教えてもいいよね?

 何れは知る事になるし、教えない方が不自然だよ。」


 レオンの言葉にジークフリードは一つ息を吐いた。


「俺から話す。

 アレンディス、お前の年齢にはまだ早いと思って先程の説明では濁したが…お前には話さなければいけないのはわかっていたんだ…

『白の館』に幽閉される者は皆、理由はそれぞれでも同じ過ちを犯した王族の人間に限られるんだ。

 国王や王太子、上位の王位継承権を持つ者を殺害したり、殺害未遂の者が極刑にならなかった時に入る場所なんだ…」


「殺…害…?」


「殺して自分がその地位につくと画策するということ…謀反を犯した者という事だ。」


「でも…クリストファー殿下は父上が王太子になる前に王太子だったのだよね?次の国王になる事が決まっている方なのに謀反を犯したの?お祖父様に剣を向けたという事?」


「いや…俺に対しての殺意…だろう…それと、国を危機的状況に陥らせるような事を画策した罪だな…

 だが、実際は俺に対しては刃は向けてはいない。本来はあの地ではなく、廃太子と王位継承権の剥奪、王族からの追放が課せられる刑であったのだろうが、兄上があの地へ行く事を望んだ。自分の罪の償いと、自分の為に手を汚した者への謝罪の為に──…」



 ……───あの御前会議で様々な事が明るみになりジークフリードがクリストファーの利き腕を使えなくした数日後ジークフリードは『白の塔』に居るクリストファーのもとを訪れていた。

 正式な刑が出る前に決まった刑の内容を伝えにいったのだ。しかし、ジークフリードが口を開く前にクリストファーが口を開いた。


『私に処罰を伝えにきたのかい?それなのだが…罪人の私が求める事は立場を理解していないようにも思えるが…出来る事なら私とセフィーヌを『白の館』へ幽閉してくれないか?』


『え……』


『お前と父上の事だ、私やセフィーヌの極刑はないのであろう?

 恐らく私は王位継承権剥奪の上での臣下への降下、セフィーヌは王家が所有している修道院への移送が妥当であろう?』


『………………。』


 クリストファーは言葉を詰まらせたジークフリードの様子に穏やかな表情を浮かべた。


『大方は合っていたようだね?

 それならば、我々夫婦二人を同じ地で共にする事は心配であろうが…私に償いをさせてはくれないだろうか?セフィーヌへの償いを…』


『兄上…『白の館』へ入れば生涯外へは出ることは出来ません。そして、父上や王妃陛下、俺とは二度と会う事が…出来ません。その事は兄上も知らない訳ではないでしょう?

 兄上は俺には会いたくはないかもしれませんが…それでも…こんな事になっても俺達は血の繋がった家族であったのですよ?』


『ああ…それはわかっている。だが、それならばセフィーヌとこれから生まれてくる子も私にとっては家族なのであろう…?

 ジーク、お前は私に言ったではないか?『これから生まれる兄上の子どもが笑顔で過ごせるような…兄上がずっと求めていた家族を築く事が貴方の罪に対する罰であり、貴方が罪を償う為の試練です……』と……、それならばその家族を築くのに離れ離れではいけないとは思わないか?時々私が修道院を訪れる形を取れるようにお前なら取り計らう予定であろうが…それならば私は近くで見守る立場を選びたい。

 セフィーヌと私が共にいる事で謀反の心配はしなくていい。臣下へ降下しても処置をする予定であったかもしれないが、もう二度と私の子孫を残すことがないよう私の子種を絶やす処置は必ず行って欲しい。こちらに、その意がなくとも画策するものはいくらでも出てくる。そして、セフィーヌの身籠っている子が生まれたら赤子のうちに男女に関わらず同じ処置をしろ。』


『そんな事はっ──』


『火種になるものは全て取り除く事が賢いやり方であるぞ?ジークは、その辺りが非情になれないのがこの国の王になる者としての弱みであるのだ…万が一私の血をひく子どもが存在する事となったらお前の足下は確実に掬われるだろう。

 それに、私達の次の世代にまで、このような我々の汚く濁った周囲の思惑など残してはならないと思わないか?』


 ジークフリードはやはり目の前にいる人間は能のない人間ではなく、王の素質を持った人間であったと改めて思う。

 そして、静かに穏やかな表情を浮かべている目の前の兄であるクリストファーは本物のクリストファーなのであろうか?と、ジークフリードは思った。自分が幼い頃から慕っていた兄のクリストファーと同じ表情であるように感じたからだ。


『兄上は…その処罰が実現したとして後悔はないのですか?』


『後悔するのであれば、初めから望まない。

 お前の手腕に期待しているよ。ジークフリード王太子殿下。』


 ジークフリードはクリストファーの最後の言葉は自分へのどんな気持ちからだったのであろうかと思った。


 恨み…?怒り…?嘆き…?それとも………


『………父上とも再度相談をしてなるべく兄上の希望に近付けられるよう処罰の再検討を行っていきたいと思います…』───……





 クリストファーが最後にジークフリードへ頼んだ自分の罪への償いをしたいという願いは反対意見も出るなか執行された。


「それでは…僕や…父上は……」


「そうだ。兄上には会う事は出来ない。」


「………あの…クリストファー伯父上は…どんな方だったの…?」


「………色々な言われ方はしているが…少なくともお前が今日聞いたような能力が乏しかったり、愚かな人ではない。

 良くも悪くも…王族の見本のような人であったと俺は思っている。」


「そう…」


「アレンにいいことを教えてあげるよ。」


「伯父上?」


「クリストファー様方の様子はウェストン家の者が責任を持って『白の館』で見守って定期的に僕へ知らせるようにしていて、それをジークへも伝えているんだ。

 最近のクリストファー様方の様子を知りたい?」


 アレンディスはレオンへ頷いてみせる。その返事を見てレオンはジークフリードへ『いいだろう?──』と、クリストファーの近況をアレンディスへ語る了承を欲しいと目で合図をおくった。


 ジークフリードはアレンディスの頭を優しく撫でると言葉を発する。


「レオンに聞いたらいい。お前の伯父上の事を──…」



 ◇*◇*◇*◇*◇


 通称『白の館』と呼ばれる建物の庭には小さなガゼボに座る銀色の髪色の女性の傍らに片腕を上衣の袖に通さないで着用している男性が立ち、ガゼボの前に広がる花畑で夢中に花を摘む少女を見守っている姿が見られた。


 少女は振り返りガゼボの中にいる二人へ大きく手を振る。

 その少女の見目は女性によく似ており瞳の色だけ男性と同じ緑色の瞳であった。


「お父様、お母様見て?こんなに綺麗に咲いていたの!」


「ああ、綺麗な花であるねソフィア」


 また花畑へ走っていく娘のソフィアを目で追いながら隣に居る存在に声を掛けるのはクリストファーであった。


「セフィーヌ寒くはないか?」


「…………………。」


 クリストファーは表情も浮かべず言葉も発することのないセフィーヌに自分の上衣を動く利き手でない方の片手で脱ぎセフィーヌの肩に羽織らせる。

 利き腕が使えなくなって数年、片腕での生活には大分慣れてきた。


 現在六歳になるソフィアは表情をコロコロと変える感情豊かな子に育っていた。いつも眩しい程の笑顔をクリストファーとセフィーヌへ向けてくれる。


「………あの子はこんな境遇でありながら真っ直ぐに育ってくれたな。人として何が大切なのかあの子から何時も教えてもらっている…ソフィアは見目だけでなく幼い頃のそなたに似ているのかもしれない…私が覚えているそなたの幼い頃の姿はわずかではあるが…」


 そんなクリストファーの言葉にセフィーヌの脳裏には幼い頃にレトリアル王国へ訪れた頃の思い出が甦ってくる。

 感情豊かであった頃の自分の姿を思い出していた。


「今までも何度も伝えたこの言葉はそなたをここまで狂わした私が言うべき言葉ではないが…

 それでも…

 ソフィアを私に会わせてくれてありがとう…セフィーヌ…」


「…………ク…リス…さ…ま……」


「え……」


 セフィーヌが呟いたクリストファーの愛称は幼い頃の交流の時にクリストファーがセフィーヌへそう呼んで構わないと言った愛称であった。

 数日間の交流であったが、セフィーヌはその時の優しげな表情のクリストファーに幼い恋心を抱いた。


 クリストファーはセフィーヌの言葉に複雑な表情を浮かべる。


「そなたは、こんな私をずっと…慕ってくれていたのだな…」


 政略結婚ではあったが、婚姻を結んだ時に少しでも向き合う気持ちがあればこのような事にはなっていなかったのかもしれない…少なくともセフィーヌの心が壊れる事はなかったのかもしれないとクリストファーは感じた。


 ──相手を思いやる気持ちが少しでもあれば……


 クリストファーは跪きセフィーヌの手を取ると指先に唇を寄せる。

 セフィーヌの手がぴくっと震えた。


 ──やり直すなんて事は出来ないが…今日から始める事が出来るのなら…

 この気持ちはなんというのだろうか…?

 家族への情?



 それとも……




 温かい季節の一時(ひととき)の小さな出来事であった…



 ◇*◇*◇*◇*◇



 王太子妃主催のお茶会から暫く経ったある日、王宮の庭園の端で珍しく国王のウォルターとジークフリードが共に過ごしていた。


「父上?城内でなくこんな庭園の端で話しとは何なのですか?」


「ああ……ここは…私がアリアと初めて会った場所なのだよ。」


「父上…?」


「……ジーク…私はフィーリアが今身籠っているお前の子が生まれたらお前に国王の座を譲位しようと考えている。」


「え……」


 ウォルターはジークフリードへ穏やかな笑みを浮かべる。


「崩御など待たなくとも、お前は既に私よりも国王に相応しい。」


「そんな事はっ!」


「いや…そうなのだよ…

 お前が王太子に成らざるをえなかった時のあの騒動は元を辿れば私の不徳の致す所が根元だ…

 そして、私は誰も幸せにする事が出来なかった。アリアを側妃にした事で…いや…この場でアリアの事を見初めた事があの人間の憎悪が絡み合う狂っていった時の流れの始まりだったのかもしれない。

 今さらかもしれないが…私がもっとエリーゼの気持ちを汲んでいたら…アリアは死なずに済みお前を苦しませる事もなく、エリーゼが悪行に手を染める事もなく、クリスに歪んだ期待をエリーゼが向ける事もなかったのかもしれないと…何度も思った。

 エリーゼが自害した事を知った時に私はお前にすぐ国王の座を渡そうと思ったが、それをジョゼフに止められた。

 王太子に急遽立太子する事でさえ多大な重責を持つ事になったお前にもっと苦行を強いる気なのかと…

 私が罪の意識を感じる事は自由だが、今国王の座から降りる事は無責任でただの逃げだと…な

 今のお前ならば国王の重責にも迎え撃つ事が出来るとこの数年のお前の手腕をみていて思った。だから…そろそろ頃合いであると思ったのだよ。」


「……………………。

 母上は…父上と出会った事も、側妃に望まれた事も不幸とは思ってはいないと思います。」


「ジーク?」


「俺の願望が見せた幻だったのかもしれませんが、俺が刺されて死の淵を彷徨っていた時に母上に会いました。母上は以前と変わらない穏やかな笑みを向けてくれて、後宮で過ごしていた日々は幸せだったと…俺を授かって嬉しかったと答えてくれたのです…

 だから、父上は少なくとも母上の事を不幸にしてはおりません…俺はそう思っています。」


 ジークフリードの言葉に頷いたウォルターは背を向け一言ジークフリードへ言葉を伝えるとその場を去っていった。僅かに肩を揺らしながら…


「そうか…

 ジーク、お前の即位後の手腕に期待している。」


 残されたジークフリードは穏やかな空を見上げる。


 ジークフリードは自分が国王になる事など昔から想像すらしていなかった。

 それどころか、母が毒殺された時に生きるという事すら放棄しようとしていた。そんなジークフリードに生きる強さを感じさせてくれ、それからも様々な辛い時に自分を癒し奮い立たせてくれた存在…


「ジーク…」


 ジークフリードが物思いに耽っていた時にその考えていた存在の声が耳に届く。


「フィー…」


「陛下がジークがここに居るから傍に付いていて欲しいと仰有られて…

 何かあったの…?陛下の目も少し赤くなっていらっしゃって…」


 ジークフリードは目の前の愛しい存在を優しく抱き締める。


「ジーク…?」


 ───俺だけの天使……俺に幸福という意味を教えてくれたかけがえのない君…


「愛してる…」


「え…?」


 ───君へ永久(とわ)の愛を捧げる…だから…


「フィーは?」


「えっ!?な、何っ!??急に…」


「フィーは俺の事をどう思っている?」


「そ、そんなの…聞かなくたって…」


「わからない…言葉にして教えて欲しい。」


「………………。」


「フィー?」


「…………好きよ…

 愛しているわ。ジークの事をずっと…」


 ──きっと、俺はこの先も何度も君へこの言葉を貰う為に乞うだろう…






ここまで読んで頂きありがとうございます!


一先ずこれで今回の番外編を区切りとして、この『黒き獅子は天使に愛を乞う』のお話を完結扱いにしたいと思います。ここまで、沢山のブックマークや評価、ご感想を頂き感謝しております!

初めての『小説家になろう』様での投稿にも関わらず多くの方にお話を読んで頂く事ができ感謝しかありません。

このお話も拙い部分は多々ありますがとても愛着のあるお話になりました。


最後の番外編は詰め込みすぎた部分もあるかと反省しておりますが…数話になるお話を一話に纏めてしまい。。。

それでも、素敵なリクエストを頂き精一杯取り入れてみました!

本当に誤字脱字報告も含めて皆様に支えられたお話になりました。ありがとうございます!


次回作も少しずつ作り上げている途中でございます。まだまだ先になりそうですが、連載開始の際は活動報告でお知らせ致しますので宜しければ覗いてみてください。

本当にありがとうございました!


令和元年9月25日 一ノ瀬葵


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