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黒き獅子は天使に愛を乞う  作者: 一ノ瀬葵
番外編・後日談

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後日談① 王太子のある1日

後日談になります。

最終話から少し経ったある日のお話…

 レトリアル王国の立太子任命式と王太子の成婚式から数週間経ったある日、王宮の王太子執務室では、いつものように王太子となったジークフリードと王太子付執務補佐官であるレオンとのもう何度目かわからない言い合いが今日も始まっていた。


「だから、こっち案件の方が急ぎだって言ってるだろう!?」


「そっちは遅れても問題ないが、こっちは早急に話し合わなければ駄目だ!」


 急な王太子の交代があり、その本当の事情を知る者は貴族の中でも重役である者達だけで、その者達には箝口令がしかれた。他の貴族も含めた国民達へは大きな怪我で公務につけない為に様々な議論からクリストファーの弟である第二王子のジークフリードが王族へ戻り王太子として任命される事となったとの国王からのお触れがあり、今に至る。

 そして、ガラッと変わった王太子執務室の現状やジークフリードの執務への取り組み方や公務の姿勢と今までのクリストファーの執務や公務への姿のギャップにオロオロとする者達が多くいた。

 クリストファーが執務や公務を行っていた時は、自分の意見はあまり述べず、手元にある執務を淡々とこなしているような姿ばかりであり、執務補佐官であるレオンが王太子に向かってこんなにたてつく事もなく一線を引いているような様子であったのが、ジークフリードが王太子に立太子されてからは毎日のように二人で言い合いをする姿が多く見られていた。

 そして、そんな二人を毎回止める人物の姿も毎日見られていた。


「レオンに殿下も、他の者がまた戸惑っていますから少し落ち着いてください。」


 レオンの補佐をしているルーク・マーヴェスが冷静に二人の間に入る。


「で、殿下っ!ここでウェストン様と言い合いをしている方が時間の無駄です!」


 第二師団から今回急遽第一師団へ配置替えとなり近衛騎士として王太子の専属護衛となったユーゴ・ワズワールも間に入る。


 そんな二人に間に入られ少し冷静になったジークフリードとレオンは一度小さく息を吐いた。


「こっちの案件を早急に話し合わなければいけないのはわかっているけど、他の重役達の頭の出来はジークとは違うのだからそんな難しい内容をその場で言われただけじゃどうして早急に取り掛からないといけないのか理解なんか出来ないよ。こっちの重要性をもっと簡単に僕が纏めるから、その間にそっちの案件の指示と承認をしてくれないと困るんだよ。急ぎでなくても隣国も関わっている案件で先伸ばしには出来ないんだ。」


「だったら初めからそう言えば良いだろう…」


 そう言いながら執務を再開するジークフリードとレオンの様子にため息を吐くルークとユーゴがいる。と、いうような様子が執務室で毎日繰り広げられていた。


 それからしばらく執務を進めた時、レオンが懐中時計を開き時間を確認すると王太子執務室にいる面々に言葉を掛けた。


「少し遅くなったけど、昼休憩にしよう?

 こうして時間を区切っていかないと平気で食事も取らないで執務に何時間ものめり込む奴がいるからさ…」


「………………。」


 ジークフリードは一つ息を吐くと立ち上がる。


「休憩するなら俺は少し出てくる。

 ユーゴ、護衛は他の者に頼むからお前も少し休め。」


 そう言って執務室を出ていくジークフリードの背中を見送る三人は苦笑いを浮かべた。


「少し出てくるって…本当に少しですむんだろうかね?」


「未だに、殿下へ自分の娘を側妃へ宛がおうと欲深い人間達が画策しているみたいですけど…

 あの殿下の姿を見たらそんな馬鹿な事をしようとする方が愚かだとわかるかと思うのですけどね?」


「殿下へ令嬢方を紹介している場に居合わせた時、その場の空気が恐ろしいですよ…」


 ユーゴが顔をひきつらせながら言った言葉にその場にいた面々は苦笑しながら頷いた。そして、レオンが呟く。


「あいつが甘い顔を見せるのは一人だけだからね。」





 王宮の鍛練場は普段は屈強な体格の騎士達が使用しているが、今日は小柄な体格のプラチナブロンドを纏めた少女が弓に手をかけていた。


 少女が弓から慣れた手付きで矢を放つ。

 的の中心より少しだけずれた場所に矢が当たった時、自分の後ろから声を掛けられ少女は振り向いた。


「さすがなだな、フィー。しっかり的の中心寄りに当たっている。

 だが、もう少しこう構えたら中心からずれない…」


 王太子妃であるフィーリアへ声を掛けてきたのはジークフリードで、フィーリアの後ろから抱き締めるようにフィーリアの手に自分の手を重ねて弓矢を構えた。その事にフィーリアの心臓は大きく音をたてる。ジークフリードはフィーリアの手を取ったまま矢を放ちその矢は的の中心へ当たった。

 そして、そのままジークフリードはフィーリアの耳元で囁く。


「な?当たっただろう?」


 ───チュッ……


 ジークフリードは囁いたままフィーリアの耳朶を啄むように自分の唇を押し当てた事にフィーリアは身体を大きく揺らした。


「ちょっ…ジーク…」


「もう少しこのまま…最近忙しくてフィーが足りなかった…」


「や…そこで話さないで……ここ…外…で…他に護衛とか人がいるから…」


 耳元で直接話される事で感じるジークフリードの熱と吐息にフィーリアの身体が揺れる。

 そんなフィーリアをぎゅっと再度ジークフリードは抱き締めた。


「ああ…知ってる。だけど、フィーの姿を見たら止まらなくなった。」


「なっ!?そっ、それになんでここにジークがいるの?今、執務中なんじゃ…?」


「今は少し遅い昼休憩中なんだ。俺の奥さんは俺と昼食を共にしてくれますか?」


 柔らかい笑みを浮かべながらフィーリアへ手を差し出すジークフリードにフィーリアは熱くなった顔へ手をあてながらもう片方の自分の手をジークフリードの差し出している手へのせる。


「ええ…それは勿論よ。」


「フィーは俺が忙しくてなかなか二人の時間が取れなかった事は平気だったのか?」


「私も…ジークが忙しい事はわかっていたわ…

 寂しかったのは…私もだもの…………っ!

 あっ…い、今のは……なんでもないのっ!

 は、早く食事をしないと休憩が終わってしまうでしょう?早く行きましょう?」


 そんな自分の気持ちをつい溢してしまい慌てて手を離して出口へ向かおうとするフィーリアの手をジークフリードは指を絡め強く握った。

 その表情(かお)は嬉しそうでその事にフィーリアはさらに恥ずかしく顔を赤く染めた。



 他愛もない話をジークフリードと交わしながら自分達の私室へ王宮の回廊を通り向かっている途中で、ジークフリードが通るのを待っていたかのような貴族の親子がジークフリードへ声を掛けてくる。


「これはこれは、王太子殿下と妃殿下ご機嫌麗しく存じ上げます。

 王太子殿下、少しお話を宜しいでしょうか?」


「………トキソン侯爵であるな。何であろうか…?」


 声を掛けてきたトキソン侯爵の傍らには美しい二人の姉妹の令嬢方が、これはまた綺麗に着飾り微笑んでいた。

 ジークフリードと侯爵が話そうとしているのでフィーリアは咄嗟にジークフリードと繋がれていた手を離し距離をとる。その事にジークフリードは訝しげな表情を浮かべたが、フィーリアは目で侯爵(そちら)を優先してと合図を送った。


 この今の状況は説明されなくともフィーリアはどういう状況なのかわかっていた。ジークフリードとフィーリアが婚姻を結んだ後すぐから、貴族達の一部でジークフリードに自分の娘を紹介しに面会の希望を出したり、今日のように偶然を装って自分の娘をジークフリードに会わせるような様子が多々あったからだ。

 直接言葉に出さなくてもわかる。王族だけに認められている現在空席の側妃の席へ自分の娘を宛がおうとしているのだと…


 綺麗に着飾った令嬢方の横でフィーリアは今の自分の姿に気が付く。

 鍛練場にいたからドレスでなく動きやすい格好をしており化粧も殆どしていなかった。そんなフィーリアへ姉妹の令嬢方は嘲笑を浮かべている事がわかった。

 そして、ジークフリードと侯爵が話している場所から少し離れている事もあり、フィーリアへあえて聴こえるように姉妹で話し出した。


「これなら、思っていたよりも簡単にお選びになさってくださるかもしれないわね。」


「ええ。噂は本当でしたのね王宮内を男装でよく歩かれているって…

 美しいと評判だけれど、この程度であるなら、ねぇ…」


「それに、傷物なのでしょう?」


 フィーリアはぐっと握っている手に力を込める。

 そして、顔を上げるとジークフリードへ声を掛けた。


「殿下。お話し中申し訳ありません。

 (わたくし)先に戻ってご用意をしておりますので、トキソン卿とゆっくりとお話なさってください。」


「ああ、これは妃殿下、お心遣い感謝申し上げます。

 それでは殿下…あちらで──」


「それは許さない。」


「え…?」


 ジークフリードはトキソン侯爵の前を横切るとゆっくりとフィーリアへ近付きフィーリアの頬に指先で触れた。


「何故、そんな他人行儀に俺の事を呼ぶ?

 その呼び方は俺は嫌だと言ったはずだ。それに、この時間はお前の為に作った時間だ。

 くだらない者のくだらない話に付き合う為ではない。」


「え…ジーク…?」


 思わずフィーリアは何時ものようにジークフリードを呼んでしまうと、ジークフリードは表情を少し緩めた。

 しかし、すぐに表情を消して言葉を発する。


「フィーリアは自分の正妃であるのだが、そこに居る者は王太子妃に向かって不敬罪と捉えかねない発言をした事に対してどう考えているのだ?

 俺が聞こえていないとでも思ったのか?」


「で、殿下…?あのっ…も、申し訳ありませんっ!!」


「王太子妃へ向けてのそなた達の言葉をよく覚えておこう。」


 目の笑っていない笑みを侯爵親子へジークフリードは向ける。


「それと、俺は正妃しか娶らないと陛下へ進言している。

 俺へ側妃を宛がおうと考えている者が多いがその行動には虫酸が走っているのだ。

 侯爵…それで?そなたの今日の要件をここで聞こうか?自分も忙しい身でね?その時間をわざわざ割こうとしているだから、余程大事な話なのであろう?」


 ジークフリードの怒りが含まれている言葉にトキソン侯爵は慌てる。


「いえっ!ご挨拶をと思っただけにございますので!

 娘達が大変失礼な言葉を発したようで申し訳ありません!よく言い聞かせておきますゆえ、何卒お許しください。」


「二度目はないと肝に銘じておけ。」


「はいっ!御前失礼致します!」


 慌てて二人の前から侯爵親子が立ち去る様子を呆然と見ていたフィーリアの手をジークフリード握ると足早にフィーリアの私室へ向かった。

 私室の扉を開けてフィーリアを先に部屋の中へ入れると傍に控えていたフィーリア付きの侍女として王宮へ上がったミアへ言葉を掛ける。


「ミア、今から俺の執務室へ行ってレオンに執務室へ戻るのが少し遅くなると伝えておいてくれ。

 後、俺が良いというまでこの部屋へ誰も近付けさせるな。」


「はい。畏まりました。」


 部屋には扉が閉まった音が大きく響いた。


「え…ジーク…?昼食は…?それに、兄様に遅くなると伝えてって…執務は大丈夫なの?」


「そんな事より、やはりフィーにはしっかり教え込まないと駄目なのだと理解した。」


「教え込むって…?」


(ひと)に対しての悪意ある言葉には強く反応して反論するくせに、何故自分に対しての悪意ある言葉にはそうやって我慢する?」


「我慢なんて…事実だし…

 王太子妃なのに、ジークや陛下のお言葉に甘えて結婚前と変わらず男装で鍛練場へ通ったり…それに傷だって…」


「俺がいつその事を嫌だと言った?俺がそれでいいと言っているのだから問題ない。父上だってそれを認めているんだ。国のトップが認めている事を臣下が蔑む事なんて認められない。

 そもそも、その鍛練の時間だってお前の私用の時間でしかやっていないだろう?

 求められている公務もしっかりとやって、その他の茶会などもしっかりと主催している。それなのにあんな言葉を掛けられる事はあってはならないんだ。」


「……そうだけど…」


「それに、さっきの状況がどんな状況なのかお前自身もわかっていながら、俺に対してああやって距離をとる事は俺は酷く傷付く。

 フィーにとって俺の存在などその程度なのかと突き付けられたように感じるんだ。」


「それは、違うっ!私だってあんなの何度も見せられるの嫌よ!

 私以外の女性(ひと)を側妃になんて…」


 壁際へフィーリアを追い詰めたジークフリードは壁に手を付きフィーリアを見下ろす。


「だから逃げたのか?」


「だって…これ以上惨めな気持ちになりたくなかったの…

 綺麗に着飾っているご令嬢方の横で私はこんな格好で…」


「格好なんてどうでもいい。

 俺はお前以外の女に対してなんの感情も湧かない。

 俺の前から逃げるな。堂々としていろ。俺が望んでいるのはフィー…お前だけなのだからな…」


 ジークフリードはフィーリアの俯いている顔に手を添えると顎にかけた指先で上を向かせそのままジークフリードの唇がフィーリアのそれに重なる。

 いつもより荒々しい口付けにフィーリアはジークフリードが怒っている事がわかった。

 だんだん呼吸が苦しくなってきた頃少し唇が離れるとジークフリードはフィーリアへ言葉を発する。


「今からよく教えてやる。俺がどれだけお前しか考えられないのか…

 だから、俺へああやって距離を取らないでくれ…

 不安にさせて…悪かった…」


 そんなジークフリードの言葉に胸が苦しくなるような感覚を覚えとっさにフィーリアはジークフリードの首へ腕をまわした。


「……教えて…?ずっと…不安でいっぱいだったの…」


 それは、意地っ張りのフィーリアの溢した素直な言葉であった。

 その言葉にジークフリードは笑みを溢し、フィーリアを抱き上げる。


「嫌っていうほど教えてやるよ…」


 そんなジークフリードの熱を灯した瞳に見詰められ、フィーリアは甘えるようにジークフリードの首もとに顔を埋めた。

 沢山のジークフリードの甘い口付けが落ちてくる中、フィーリアはジークフリードが与える熱に何度も包まれていく事で少しずつ不安な気持ちが消えていくのを感じた。

 王太子妃となって自分がその立場に相応しいのかずっとフィーリアは不安を募らせていた。そして、一部の貴族達がジークフリードへ娘を宛がおうと画策している事にジークフリードの事を信じようと思うものの、ジークフリードの隣に居る事まで誰かから否定されたらと…ジークフリードが別な令嬢を見初めてしまったらとフィーリアの悪い癖で自分の中で思い悩んでいたのだ。

 このままずっとジークフリードに包まれたままでいられたならどんなに安心するのだろうかとフィーリアは思いジークフリードへ全てを委ねていった。



 ◇*◇*◇*◇*◇


 数時間後の王太子執務室には私室から戻ったジークフリードが黙々と執務を行っていた。

 その傍らではレオンがジークフリードへ言葉を並べていた。


「で?ジークは昼休憩は何時間休憩していたのかな?」


「………………。」


「夫婦仲がいい事はいいんだよ…王国の未来も明るくなるってね?」


「ぶつぶつと煩いぞ…」


「ったく…戻ってくるのが遅くなる事は計算済みだったけどさ…

 ってか、今日はトキソン侯爵?何でわからないんだろうね?

 王太子殿下は妃殿下しか眼中にないって…

 ジークの姿を公務の時や舞踏会の時に見ていたら嫌でもわかるっていうのにね?あのフィーへ向けるジークの甘ったるい表情(かお)を見たらさ?」


「頭が悪いんでしょう?そういう事をする事で殿下の心証が悪くなるっていうことも気が付いていないのですからね?」


「殿下…あまり僕が傍にいない時に無理をされるのはやめてください…何処かで狙われないか心配がつきませんから…」


「それで?ジークはこのままにしておくの?側妃問題とか…

 と、いうよりまだ第二王子が王太子になった事に不満を持っている者がそれなりにいるというのもこちらまで伝わっているけど?」


「……俺の事に関してはこれからの俺の姿を見せて納得させればいい問題だが…

 正妃に対して軽んじる者がいる事は早めに手をうつ。」


「本当に…ジークを怒らせたら後が恐ろしいのにね?」


「それはお前もだろ?レオン。」


 そんなジークフリードとレオンの不穏な会話に表情を崩さないルークと顔をひきつらせるユーゴの姿が、今日も執務室では見られていた。







ここまで読んで頂きありがとうございます。

本編で足りなかった糖度を増してみようとチャレンジしましたが…執務室内での男達の関わりの様子がメインになってやいないか?と…

まだまだ糖度が足りなければすみません。。。


こんな、後日談を数話に分けて少しずつ更新していきたいと思います。

なるべく明るい内容で!を、心掛けます…

その中に頂いたリクエストのエピソードも絡められればと思っております!

リクエストありがとうございました!

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