第69話 三度目の誓い
白の塔の一室にある窓はどの窓も中にいる人間が逃亡出来ないように小さな作りになっている為部屋の中は昼間でも薄暗かった。そんな小さな窓から入る光の下でレオンから差し入れられた本を読むクリストファーの姿があった。
部屋の出入口が開く音がしてそちらへクリストファーが目を向ける。
「殿下…突然のご訪問のご無礼をお許しください。殿下に折り入ってお話が…」
「話し…だと?お前は…」
◇*◇*◇*◇*◇
負傷したジークフリードの為に王宮に用意された一室ではジークフリードを囲み話し合いが行われていた。
部屋にはフィーリア、レオン、ルークの他にヴィクターとジョゼフに止められながらもジークフリードの状態が見たいと無理を通して国王のウォルターも来ていた。
宰相のジョゼフがジークフリードの意識がない間に決まった事をジークフリードへ伝えていく。
「ジークフリード様がお目覚めになられてすぐにこのような場を設けなければならない事は非常に申し訳ありませんが、ジークフリード様の意識が混濁されていた一週間近く水面下で我々も動いておりましたが、それも限界にございます。クリストファー殿下が会議へ出られていない事への疑惑が貴族間で広まっている現状であり、これ以上事を起こす事に猶予はありません。
クリストファー殿下の廃太子を進めるにあたって、次の王太子にはジークフリード様を任命する事までは決まっております。ヴィクター様は陛下の実子であるジークフリード様が一番の適任だと継承権を放棄されております。ジークフリード様が放棄される事がない事を我々は願っておりますが…放棄されるとなればそれ相応の理由が必要となりますゆえ…」
「………だが…兄上の廃太子の理由が謀反を企てただけでは納得しない者が多いのではないですか?証拠がほぼない状況では特に…第一王子派の者達は頷かないだろう…と思います。兄上が自分の行いが謀反を起こす為の行動だったと兄上自身の口から証言したならば納得するだろうが、そんな事をすれば皇国への兄上の行いが我が国の貴族に知れ皇国側へも知れてしまう。
それに、兄上は謀反を起こしたくてあのような事をしたわけではない。理由は俺の戦場での死とフィーリアを手にする事だった。」
「………ジークフリード様、もう誤魔化すのはやめましょう。」
「…………………。」
「陛下とヴィクター様から聞いております。全てこちらの内輪揉めである事に皇国を巻き込んでしまったとあちらの皇帝へ貴方が頭を下げられたと…そして、皇帝から今回の件を水に流すかわりに貴方が将来レトリアル王国の玉座に座る事を望むと言われている事を…」
「それは、イーサン皇帝と俺と義父上だけの口約束です。
向こうの重役方は表向きの理由しか知らない。」
そんなジークフリードの言葉にウォルターは口を開いた。
「イーサン皇帝は昔から幼いお前の才能を認めていたからな…
お前が臣下へ降下する事を知った皇帝から、しきりに手離すくらいであれば、皇国へ欲しいと言われていた。」
「こちらの非である事を偽る事は事を大きくするだけであると思ったからです。ただ、事実を受け入れられない者も多くいると思ったので、拝謁の時は我が国で反乱を考えている者が愚策を考え皇国に被害を与えてしまったと陛下方と決めたギリギリの偽りではない理由を伝えました。こちらで捕えた反乱者の首という形で差し出したウェストン家が捕えた殿下の手の者の首と、こちらの支援の話で、皇国側の重役方から多くの不満も言われましたがなんとかその場は納得して頂きました。皇帝が俺と義父上と公的だけではなく私的に話したいと場を作ってくださったので、その時に真実の事を伝えました。陛下がそう皇帝へ伝えてくれたのでしょう?俺が真実を伝えたいと考えている事に気が付いていて皇帝へ私的に会談する場を設けてくれないかと…」
「お前がどう動くのか見極める為だ。ヴィクターには伝えてはあった。お前がこの事を隠すようであればヴィクターから伝えて欲しいと…」
「俺の初めに出した案に不安を持たれたのですね」
「恐らく、あの案はクリスを守る為であろうとは思ってはいた。
お前は幼い頃からクリスを慕っていたからな。
しかし、クリスを廃太子しお前を立太子するならばお前の資質も見極めなければならないと思ったのだ。兄を庇う為に判断を誤るようである人間では王太子は務まらない。
国の重役達には偽らずクリスのありのままの行動を伝えるつもりだ。イーサン皇帝からの書状を付けてな。それならば、納得せざる得ないだろう。」
「本気ですか?」
「本気だ。それだけの事を自分の欲の為にクリスはやったのだ。」
「そういう事でありますので、ジークフリード様が継承権を放棄する事は難しい事はおわかりでありますよね?」
「……………………。」
ジークフリードは少し考え込むと口を開いた。
「少し…フィーリアと二人で話をさせてもらってもいいですか?」
「わかりました。私達は少し席を外しましょう。」
部屋の中にはジークフリードとフィーリアが二人きりとなり、ジークフリードはフィーリアへ顔を向ける。
そして、自分の横を叩きフィーリアを呼んだ。
「フィー、こちらへ来てくれるか?」
「え…うん……」
フィーリアがジークフリードがいる寝台の横に立つとジークフリードはフィーリアの手を握り引っ張る。
「違う。そこではなくてここだ。」
「えっ!?きゃっ!!?」
フィーリアは急に引っ張られた事で体勢を崩してジークフリードの胸に抱き付くようなかたちになってしまった。
「ちょっ!?ジ、ジークっ!?傷口が開いちゃうっ!!」
「これくらいで開かないから大丈夫だ。
今、俺は寝台の上から動けないからこうでもしないとフィーの事を抱き締める事ができない。少しだけでもフィーの温もりを感じさせてくれないか?」
「えっ…で、でも…こんな…姿は…はしたないわ…」
「誰も見ていない…」
そうジークフリードは言うとフィーリアの事をぎゅっと抱き締める。こんな格好でと慌てていたフィーリアも傍で感じるジークフリードの温もりと鼓動に、ジークフリードが自分の傍にいる奇跡を実感し安堵した。
「俺は今のこの状況では王太子になる事をもう拒否する事は出来ない。フィー…俺が王太子になる事で、フィーを娶るという事はフィーをこの王室の中へ入れなくてはいけないということだ。
公爵家へ嫁ぐのとは訳が違う。沢山の重責という苦労をフィーへかけさせてしまうかもしれない。
だが、俺の中ではフィーと添い遂げる事しか考えられない。
何があっても俺がフィーの盾になる。だから…俺のもとへ嫁いでくれるだろうか?」
ジークフリードのフィーリアを抱き締める力が強まったようにフィーリアは感じた。フィーリアもジークフリードの背中に回していた手に力を入れる。
「私には…ジークだけなの…
ジークの意識が戻っていない時に兄様からもその事を聞かれたわ。その時はジークの事しか考えられなくてきちんと考えようとしない自分がいた…
こんな、自分の事でいっぱいになってしまう私が王家へ入ってジークを支えて民の為に尽くす事が出来るのか不安でいっぱいだけれど…
でも、ジークが傍に居てくれるなら頑張っていきたいと思うし、なにより…
ジークとは離れたくないから…
ジークとずっと一緒に歩んでいきたい…」
「フィー…」
ジークフリードはフィーリアの言葉にさらに抱き締める力を強めた。
「ジーク…もう…私を一人にしないでね…」
「もう二度としないよ。フィーもずっと離れないで傍に居てくれ…」
ジークフリードの手がフィーリアの頬に触れフィーリアの瞳を見詰めると二人の距離が少しずつ近付いていき唇が重なり合う。
お互いの存在を確かめ合うように。口付けは深く深くなっていった。離れてもまたすぐ合わさる唇。フィーリアが乱れていく呼吸を無意識に整えようとして唇を離すとそうはさせないとジークフリードの唇が追い掛けていった。息がきれたフィーリアの額、瞼、頬…と顔中に口付けをジークフリードは落としまた強くフィーリアの事を抱き締める。
フィーリアのジークフリードがどんな立場でも共に生涯を歩んでくれるという決意を聞くことができた事にジークフリードは強く安堵し嬉しさを隠すことが出来なかった。
ここまで読んで頂きありがとうございます。
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今回のタイトルの三度目とは……
幼少期の領地の丘での求婚、婚約後すれ違っていた時の夜会での求婚、そして今回王太子任命前での求婚で、三度目という事でタイトルにしました。




