第68話 感謝の想い
熱く焼けるような痛みから解放されたような感覚をジークフリードは感じた。
辺りは何の音もせず、暗闇が広がり静まり返っていた。
自分の足音すら聴こえる事がない世界…
「どこだ…?ここは…?」
(先程まで俺は痛みを感じていたはず…なのに……
痛み……とはなんだ…?俺は…今まで何を…していた…?
何か大切な事を忘れているような気がする…)
ジークフリードは何処を目指したら良いのかも分からず、しかし立ち止まる事もせず宛もない暗闇を歩いていた。
(俺は…何処へ向かえばいい?
だが、このまま進んでもいいのか?
もっと…何か…俺にはしなければならない事があったような…
何か大切な事を忘れているような気がする…)
「ジーク…貴方は…その先へ進んでも構わないの?」
突然聴こえてきた声に振り向くとそこには懐かしくそしてずっとまた会えたならと願っていたひとが立っていた。
そして、いつの間にか周りは明るくなり緑の葉が一面に生い茂り白い花が咲き乱れ甘い花の香りと温かな空気を纏っていた。
「母上…?」
「その先へ進めばもう引き返す事は出来ないわ…それでも構わないの?」
「それは……」
その時、ジークフリードはアリアへ伝えたいと思っていた事を思い出す。
「母上にお伝えしたい事が…漸く母上を亡き者にした黒幕である人物に辿り着き捕える事が出来たのです…」
「ええ…
ジークが抱える一つの呪縛が漸く解けたわね…
ジークはその事に辿り着いて貴方の役目は終わったのかしら?
もう…何も心残りはない?それならば貴方がこの先へ進む事を止めることはしないわ。」
「心…残り…?」
「ジーク貴方が何よりも大切にしたいと思っている事は忘れてはいない?」
「忘れている…事…?」
───ジーク…目を開けて……
(泣いている………誰が?)
───ずっと…私の傍を離れないって…約束してくれたでしょう…
(戻らなければ………何処へ?)
───ジーク…私を置いていかないで……
(俺の……唯一無二の存在……)
───ジーク……
「フィー……が…泣いている……」
ジークフリードの言葉にアリアはフワッと笑みを浮かべる…
「幸せを…見付けられたのね……」
ジークフリードはアリアへずっと聞きたかった事を問い掛けた。
ずっと…自分の中で渦巻いていた重く感じていた不安…
「……母上は…俺の事を産んで後悔はしませんでしたか?
俺の変わりに毒殺された事を恨みはしませんでしたか?
母上は…俺という存在が居て…幸せでしたか…?」
ジークフリードの言葉にアリアは笑みを深める…
「貴方を授かって一緒に過ごすことが出来た時間は…掛け替えのない幸福な時間であったわ…
だから…貴方にも同じような幸福な時間を過ごして欲しいの…」
そのアリアの言葉がジークフリードの心を軽くしていく。
「母上…まだ…俺は…そちらへは行けません…母上と共にいくことが出来ず申し訳ありません…
俺にはまだやり残した事と、俺の事を必要としてくれている大切な存在が俺の事を待っているのです…
だから…
俺は自分の幸せを掴みに戻ります…」
アリアの姿が少しずつ薄れていく事がジークフリードはわかった。
これは…ただの夢や幻想なのかもしれないともジークフリードは思う。
しかし…自分の願望が見せた夢や幻想なのだとしても、ジークフリードはこの言葉をアリアに伝えたかった。
「母上…俺を産んでくれて…愛し慈しんでくれて…
ありがとうございました…
俺は…貴女の子どもに生まれて良かった。」
「ジーク…貴方の運命に捕らわれないで幸せになるのよ…
ずっと貴方の事を見守っているわ……」
アリアが温かな笑みを浮かべた後、アリアの姿は見えなくなった。
「戻らなくては……フィーのもとへ…」
そうジークフリードが呟いた瞬間、視界が変わり何処かの天井がぼんやりと見えた。
それから手を握りしめる温かな感触も感じ、目線をずらすと大きな藍色の瞳から幾つもの涙を溢しているフィーリアの顔が見えた。
ジークフリードはゆっくりと手を伸ばし指先でフィーリアの涙を拭う。
「…フィー……どう…し…た…?…泣かな…いで…くれ……」
「ジー……ク……」
「不…安…に…させて…悪…かった…
もう…不安…に…させな…い…から……」
フィーリアの瞳から決壊したかのように涙が溢れ落ちる。
「ジークっ……」
フィーリアが泣き出してしまった事に困ったような表情を浮かべながらフィーリアの頭をジークフリードは何度も優しく撫でていった。
そんな二人の様子をレオンとルークもホッとしたような表情で見守る。
「ジーク、怪我が回復したら色々と言いたい事が山積みだから覚悟しておいてよ。可愛いフィーをこんなに泣かせた責任はとってもらうからね。
………本当に…心配をかけるのだから…目覚めるのが遅いんだよ…」
「レオン……悪い……」
「本当にですよ…子爵の目覚めがあと少し遅かったならばフィーリアの事を僕が浚ってしまおうかと思っていましたよ…」
「お前にも…誰にも……絶対に渡さない…
その為に…死の淵から…戻ってきたんだ…」
(そうだ。幼い頃から誓ったのだ。この子を自分の手で守るのだと…)
「フィー……顔をよく…見せてくれ…」
「ジーク…?」
「まだ…皇国から…戻って…言ってなかったな…」
ジークフリードはフィーリアが握りしめていた手を絡めるように握り返す。
「フィー…ただいま……」
ジークフリードのその言葉にフィーリアの胸はいっぱいになった。
自分のもとへジークフリードがこうして戻ってきた事にも、ジークフリードの温もりを近くで感じジークフリードが自分の傍に居るのだという実感も、そしてジークフリードが帰りたいと思ってくれたのが自分のもとだという事にも、様々な想いが溢れた。
「ジーク…おかえりなさい……」
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