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黒き獅子は天使に愛を乞う  作者: 一ノ瀬葵
本編

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第67話 悪夢のような現実

 ───今、目の前で起きている事が悪夢であったのならどんなにいいのかと何度も思った。

 目が覚めたら優しい貴方の声で「どうした?」って言ってもらって、瞳を開けると目の前には穏やかな笑みを浮かべた貴方がいて、大好きな優しい大きな掌で私の頭をいつものように撫でてもらうの──……




 青白い顔で寝台に横たわるジークフリードの意識は未だに戻っておらず、そんなジークフリードの傍らにはずっとジークフリードの手を握りしめるフィーリアが居た。


「ねぇ…ジーク…どうして…目を開けてくれないの…?」


 フィーリアの真っ赤に晴れた瞳からまた涙がいくつも零れ落ちていく。

 そんなフィーリアの傍についていたルークが声をかける。そんな光景がジークフリードが倒れてから何度も繰り返されていた。


「フィーリア…そろそろ少し休んだ方がいい。」


 ルークの言葉にフィーリアは弱々しく顔を横に振る。


「ずっと…ジークの傍に付いていなければいけないの…

 だって…ジークが目を覚ました時に誰も傍に居なかったらジークが不安になるでしょう?

 もし、悪夢に魘されていたなら目を覚まさせてあげなければ悪夢に囚われてしまうわ?」


「フィーリアっ!こんな事をしていたら君が壊れてしまう!

 そんな事は子爵だって望んではいないと思うから…」


「駄目よ…

 だって……約束したのよジークと…ずっとジークの傍にいるって…ジークの傍から離れないって…

 ジークも約束してくれたの…私の傍にずっと居てくれるって…

 約束してくれたじゃない…ねぇ…ジーク…目を開けてよ…私の名前を呼んで…?」


「フィーリア…」


 ルークは悲しみの底にいるフィーリアを抱き締めたい気持ちが胸中に溢れるがその気持ちをぐっと押さえた。

 その時、ルークは隣に人の気配がした事に気が付き顔をそちらへ向ける。


「ルーク、フィーの傍に付いていてくれてありがとう。」


「レオン…殿下との話しは終わったのですか?」


「うん。概ねはね…

 ルーク、少しフィーと話したいんだ。人払いをしてもらってもいいかな?僕が入ってもいいと言うまで誰も中には入れないで欲しい。」


「わかり…ました……」


 ルークは、レオンからそう言われて部屋で控えていた侍医や侍女にメイド、護衛騎士を伴って部屋を出ていった。

 その様子を確認してレオンはフィーリアへ目を向ける。


「フィー…ジークがこのような状態の時だけれど、フィーに確認しなければならない事があるから僕の話をしっかりと聞いてくれる?そして、この話しはまだ公にできない内容も含まれている事が多いからルークに人払いをしてもらった。」


「…………………。」


 フィーリアはジークフリードから目線を外す事はなかったが、レオンの言葉に小さく頷いた。


「陛下とヴィクター様と父上は今、クリストファー殿下の廃太子を行う方向に動いている。だが、皇国との事は公に出来ない内容もあって、それなりの理由付けをしなければならない状態だ。

 そして、その理由に第一王子派の者達が異を唱え反乱を起こすかもしれない。

 ………あとクリストファー殿下の廃太子が決定されたら、次の王太子を決めなければならない。継承順位からいくとヴィクター様とジークが上がるだろう。セフィーヌ妃がクリストファー殿下のお子を身籠られてはいるが、この国の王位継承権が与えられるのは誕生してからだから今回の立太子には名前が上がる事はない。ヴィクター様は恐らく辞退されるかと思うから、そうなれば余程の辞退理由がなければ次の王太子はジークに任命されるだろう。

 フィー、ジークとこのまま婚姻を結べばフィーは王太子妃になることになる。

 フィーはどうしたい?」


「……どうしたいって…?」


「今までフィーはそんな事を考えた事もなかっただろう?

 フィーは急にそのような立場になってフィーの気持ちが追い付いていくのか?という事が僕は心配なんだ。

 ジークの意識が戻ったら事は急速に動いていくだろうからそんな事を考えている暇もないかと思う。」


「………わからないわ…私は王妃教育だって受けた事はないし、そんな立場は…自分には分不相応のように感じる…

 だけど、私はジークと生涯を共に過ごしていきたい…」


「王妃教育に関してはあまり心配する事はない。元々ウェストン家は国王の手足となり時にはその変わりとなるような責務を持っている一族で、ウェストン家の学びを終えていればある程度は王家へ妃として嫁いでも困る事はない。

 家柄も侯爵家令嬢であれば王家へ嫁ぐ事は問題はないし、血筋に至っては母方のお婆様は王家から降嫁された方で僕達は王家の血筋をひいている事からも何も問題はないんだ。

 あるとすれば、後はフィーの気持ちだけだ。王族というのはジークを見ていてもわかるように重責はかなりのものだ。僕は辛い思いをして苦しむくらいならフィーをそんな場所へ嫁がせたくはない。それは、父上も母上も同じ気持ちだと思う。」


「そんな事…今はわからないっ!

 今はジークの目が覚める事だけしか考えられないのっ!

 どうして、ジークがこんな事になっている時に兄様はそんな話をするの!?

 ジークに何かあったら…私は…」


「フィーはジークが目を覚まさないと思っているのかい?」


「兄様…?」


「こんな事でジークは死神に連れていかれる事なんて絶対にないと僕は思っているし、ジークの生きる力を信じている。

 それに、ジークがフィーをこんなにも悲しませたまま置いていくと思うのかい?希望は捨てたらそれまでだよフィー。

 フィーが一番ジークの意識が戻る事を信じなければいけないのじゃないか?」


(そうだ…こんなにフィーを泣かせてジークへ何かを言ってやらなければ僕の気持ちがおさまらない…

 ジークはこのまま死へ引きずられるような人間じゃないだろ?

 だから、早く目を覚ましてくれよ…)


 フィーリアはレオンの言葉に苦しくなる。

 フィーリアもジークフリードの意識が戻る事を信じているし、願っていた。しかし、それよりも今のジークフリードの状態が不安でたまらなかった。ジークフリードの居ない世界などフィーリアにはもう考える事すら出来なくなっていたのだ。ジークフリードの存在はフィーリアの心に深く刻み込まれていて、もしジークフリードが自分を一人残していってしまう事があったならばフィーリアは立ち上がれなくなってしまうと感じた。


 フィーリアは自分はなんて弱いのだろうかと思う。そして握っていたジークフリードの手にまた涙が一粒零れ落ちていった。




ここまで呼んで頂きありがとうございます。

そして、ブックマークや評価を頂き感謝です。

初めて日間異世界[恋愛]ランキングに入っており、驚きと嬉しさと感謝でいっぱいです。

これからも、精進していき皆様が楽しめるお話を綴っていきたいと思います!

これからも、どうぞ宜しくお願い致します。



そんな明るい話題と反対にお話の内容は暗い雰囲気ですが…もうしばらく見守って頂ければと…

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