第5話 デビュタント
レトリアル王国では、十六歳になると成人とみなされ社交界へデビューする事ができる。十六歳になる年に行われる王宮での舞踏会で、貴族の子息や令嬢は王と王妃と初めて拝謁し祝福を受けると社交界へのデビューを許されるのだ。
十六歳になれば結婚する事もでき、婚約者が居ない貴族の子ども達は、デビュー後から出席する事が許される様々な夜会などの社交場でより良い相手を見つける為に勤しむ事になる。特に貴族の令嬢にとって、結婚適齢期と暗黙的に言われている十六~十八歳の間までにはより高い条件の相手を探す為に本人は勿論家族も力を入れている。そしてそれは、デビュー前でも子ども達の参加が許されている昼間に行われる子どもを主体とした茶会などに子ども達を連れていきデビュー前から社交性を学ばせ、あわよくばその茶会で婚約に漕ぎ着けられればと考えている親達も多かった。
しかしウェストン侯爵そして侯爵夫人は、フィーリアをデビュー前にはそのような茶会には連れて行く事は殆どなかった。
その事に、世間の間では天使のような美しい娘を変な虫が付かないよう大切に囲っていると捉えられている一方、フィーリアが馬術や武術を嗜むという話を聞いた者が世間にも出せないくらいの、男勝りな淑女らしからぬ令嬢の為家から出せないのだと揶揄する者達もいた。
ウェストン侯爵に何故、御息女を茶会などへ連れていかぬのかと聞いた者もいたが、侯爵はデビューまでは家で様々な事を学ばさせているとだけ言い答えを濁していた。
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フィーリアは夜の舞踏会の為に早い時間から侍女達から身体中を磨き上げられ仕度を調えられていた。デビュタントの令嬢は真っ白なドレスを纏う事がレトリアル王国での習わしだ。
フィーリアは真っ白なオフショルダーでベルラインのシフォンやレースが幾重にも重なりパールやメレダイヤが散りばめられている可愛らしいドレスを纏っていた。
髪型は、王と王妃からの祝福を受ける時に王妃からデビュタントの令嬢には頭へ白い花を飾られる。その為花を飾りやすいように結い上げた。
「フィーリア様とてもお綺麗でございますわよ。」
侍女のミアがフィーリアに声を掛ける。
「淑女の仕度って…本当に大変なのね…母様やジェシカを尊敬するわ。」
「奥様方がいつも参加される夜会よりもさらに気合いを入れるようにと奥様から言われておりますからね。なんせ、今夜はフィーリア様はデビュタントでありますから。本当に妖精か天使が降臨されたかのようですわ。」
「褒めすぎよ。でも、変…ではないかしら?」
「そんな訳はありませんっ!必ず、リトラル子爵様も大変お喜びになられますよ。」
「そんな事は…ないわよ…」
(だって…今日の舞踏会は…ジークにとって…辛い一日になるのだから…私との婚約が世間に知られてしまうのだもの…)
ミアの言葉を聞きながらフィーリアはそんな事を考えていた。
その時、部屋の扉をノックする音がしてレオンの声が聞こえた。
「フィー?仕度は整った?入っても大丈夫かな?」
「ええ。もう、終わりましたので大丈夫です。」
フィーリアの返事を聞いてレオンがフィーリアの私室の扉を開けた。
「フィー。今、ジークが……」
「兄様、ジェシカのお屋敷にまだ向かわなくて大丈夫ですの?時間に遅れるんじゃ……?兄様?どうかした?」
「いや、天使が降臨したのかと思ってね。ジークにエスコート役を取られたのが悔しいよ。」
「もうっ!兄様まで…天使だなんて…でも、本当に似合っているかしら?変…じゃない?」
「勿論だよ。フィーリアもやっぱり女の子だね。自分の装いが気になるなんて。今年のデビュタントでフィーに敵う令嬢はいないんじゃないのかな?
こんな可愛い天使が今日から社交界の悪魔共の巣窟に入って醜悪な眼に晒されるなんて…毎日気が気じゃないな。
父上や母上が話した通り周囲の人間には気を付けるんだよ。」
「社交界って…そんなに怖い所なの?」
「表面上は華やかな場所だけど、純粋無垢な人間には優しい場所ではないかもね。
でも、父上や母上に僕やジェシカ。それにジークが傍に着いているからあまり不安にならなくても大丈夫だよ。」
そう、レオンは言うと優しくフィーリアの背中を撫でた。
「さぁ、そろそろジークも待ちくたびれた頃かな?
僕もジェシカを迎えに早く行かないと機嫌を損ねてしまうな。ジークが一階で待っているから向かおうか。王宮では父上も、先に王宮へ向かった母上もフィーのこの可愛らしい姿を見る事を首を長くして待っていると思うよ。
それじゃあお姫様、兄様にも可憐なレディを一階までエスコートさせてくださいますか?」
そう、レオンはおどけたように言うとフィーリアに手を差し出した。
「もう…兄様ったら…
喜んでお受け致しますわ。」
フィーリアも顔を綻ばせながらレオンの手に自分の手を重ねた。
フィーリアがレオンにエスコートされながら階段を降りるとエントランスホールではジークフリードが舞踏会用の黒のフロックコート姿で待っていた。背の高く脚の長いジークフリードにはその装いはとても似合っており、目を惹く姿であった。
「ジーク待たせたね。君のお姫様を連れてきたから今日は頼むよ。社交界の悪魔共から守ってくれよ?騎士殿?」
レオンの声に振り向いたジークはそのまま動きを止める。そんなジークフリードにどこかおかしな所があるのかとフィーリアは自分の装いが気になってしまった。
「ジーク?あの…どこか、おかしいかしら?変な所がある?」
「いや…おかしな所はない…」
「え…?じゃあ、どうしてそんな難しそうな表情をしているの?」
「フィー。ジークはフィーの今日の姿を見て改めて見惚れたんじゃないかな?そうだよね?ジーク。」
「…………馬子にも衣装だな…」
「なっ!??」
「ほらほら、ジークせっかくの今日の主役を怒らせないで素直に褒めなよ?」
「兄様…べつに擁護しなくてもいいわよ…
私だって似合っているなんて思っていないから…外見だけ着飾ったって中身が伴わなければいけない事は言われなくともわかっているし…」
「……似合ってる」
「えっ…?なに…?」
「似合っていると言ったんだよ」
「…っ!」
フィーリアはジークフリードの言葉に腹をたてていたが、次のジークフリードの言葉に嬉しいのと恥ずかしいとの色々な感情が綯交ぜになりどう言葉を返して良いのかわからなくなってしまった。
「フィー。少し後ろを向いてくれ。」
「えっ?後ろ?どうして?」
ジークフリードは後ろを向いたフィーリアの纏めている髪の毛に触れる。
「ジーク?」
「王妃陛下からデビュタントの祝いの花が飾られるから本物は飾れないが…デビュタントおめでとう。」
フィーリアはジークフリードが触れた場所に指を添えると小さな飾りが指先に触れた。
傍に控えていたミアがエントランスホールに飾られている大きな鏡までフィーリアを連れて手鏡を合せ鏡にしてくれた。
そこにあったのはパールとダイヤモンドで作られた花の形の髪飾りであった。
婚約してからジークからの初めての贈り物である。
フィーリアは嬉しさで胸が苦しくなった。
「ジーク。じゃあ、本当にフィーの事を頼むよ。同じ会場にはいるけど今夜フィーの一番近くに居られるのはジークだからね?
それに、今夜の舞踏会は陛下と王妃陛下の他にクリストファー殿下も出席なさると話していたから…」
「………わかっている。」
フィーリアは、レオンの言葉にそこまで過保護に言わなくても大丈夫なのにと思いながら念を押すような様子に不思議に感じていた。
それとも、自分の所作を心配しているのだろうかとも思った。今日まで礼儀作法やダンスのレッスンは頑張ったが周りから見たらまだまだなのかもしれないと心配になってきた。
そんな事をフィーリアが考えている時、レオンはフィーリアにも言葉を掛ける。
「それと、フィーもジークの事を頼むね?」
「え…?ジークの事?」
「今日は王宮での舞踏会だからね?だからジークの事を頼むよ。」
「レオン。」
レオンの強調した言葉にフィーリアは、ドクンと心臓に嫌な重さを感じた。
そしてジークフリードは、その言葉を発したレオンを咎めるように名前を呼んだ。
「だって、王宮で行われる舞踏会に出席するのはジークは本当に久しぶりだろ?きっと、いつもより余計に周囲が煩くなるはずだからさ?」
「いつもの事だ。気になどならない。」
「そんな事を言って…今までだって色々な理由をつけて王宮での舞踏会はもちろん、他の夜会だって殆んど避けてきていたのだから、久しぶりに社交界に出てきた君を周囲は放っておく訳がない。」
「そんな事は初めから承知済みだ。言わせたい奴には言わせておけばいいんだ。かわし方など昔に修得済みだから余計な気を回さなくていい。」
「そう?ジークがそう言うならいいけどね。フィー?どうかした?」
「え?あ…、ううん。なんでもない…」
フィーリアはレオンの言葉に再会してから今までずっとジークフリードの過去を忘れていた自分に対して苦しくなっていた。
ここまで読んで頂きありがとうございます!
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余談ですが…
キャラクターの背の高さのイメージ的に…
フィーリア 158㎝
ジークフリード 182㎝
レオン 178㎝
ぐらいなイメージです。




