第4話 エスコート
フィーリアは複雑な想いを胸の中に隠しテッドをそっと撫でた。
テッドはそんなフィーリアの心情が伝わったのか「ぶるるっ」鼻を鳴らしてフィーリアにすり寄る。そんなテッドの仕草に心が癒され、少し体の力が抜けてふとフィーリアは表情を緩めた。
そんなフィーリアを見つめていたジークフリードは口を開く。
「もうじきお前も社交界デビューだと聞いた。エスコートは誰が?」
「え…?あ…デビューは王宮でのデビュタントを祝う舞踏会で…父様は宰相として陛下のお側にいなければならないと思うからエスコートをしてもらうのは難しいと思うの。だから、きっと兄様がエスコートをして下さると思うけれど…
それが、どうかしたの?」
「俺がエスコートすると、宰相とレオンには伝えておく。」
「えっ!?」
ジークの言葉にフィーリアは戸惑ってしまう。
それに、ジークフリードは騎士団に所属している。近衛騎士ではないが、王宮での舞踏会なら王宮周りの警備だとか色々忙しいのではないだろうかとも思った。
「何だ?俺のエスコートだと不満なのか?」
「不満?そうじゃなくて、ジークは騎士団に所属しているのでしょう?舞踏会当日は忙しいのではなくて?」
「王宮での舞踏会は、成人の貴族の嫡男は余程の理由がなければ暗黙の了解で出席する事となっている。騎士団に所属しているほとんどの嫡男は当日の任務を免除されているから問題はない。」
「そうなの?でも…突然私のエスコートなんてしたら私達の関係を周りから何か言われるんじゃ…?」
(……舞踏会に想い人が来ている可能性だって大きいでしょう?ジークにとってそれは都合が悪いはず…)
「陛下にはこの婚約の件はすでに耳に入れてあるし、了承のお言葉も貰っている。後はお前のサインの入った婚約誓約書を貴族院へ提出すれば成立する事柄だ。他の貴族へ婚約したとのお披露目の意味合いでも王宮の舞踏会でのエスコートは丁度良いだろう。
それなら婚約者をエスコートする事に誰も文句など言わないだろう?」
「陛下の了承って…そんな所まで話が進んでいるの?」
(……結婚に私の意思なんて貴族の娘に生まれた時からない事はわかってはいたけれど…こんな外堀を埋められて、嫌だなんて言える訳がない。
ジークもそうだったの?ジークの意思など関係なしに想い人がいるなか、家の事情で断る事も出来ないで…
それは…どんなに辛い事なんだろう…それなのに、求婚もないなんてそんな私の我が儘なんて言えない…)
「フィー?どうした?」
「…っ……」
フィーリアが色々と考えている時にジークフリードから呼ばれた。
それは、幼い頃から家族以外ではジークフリードだけがフィーリアの事を呼んでくれる愛称で今日再会して初めてその名で呼ばれた事に幼い頃の思い出が甦ってくるのと、フィーリアが心の中で押し込めていたジークフリードへの想いがフィーリアの胸の中に溢れてきた。ジークフリードに想い人がいると噂を耳にした時からずっと押し込めていた想い…
その想いを素直に出せるのならこの婚約の話はどんなに嬉しい事だったのだろうとフィーリアは思った。
だけど、ジークフリードには辛い婚約の話なのだと思うと胸が苦しくなるばかりだった。
(……ジーク…ごめんなさい…)
「ううん…エスコート…ジークが大丈夫なら…宜しくお願いします…」
「……………ああ……。」
そんな時、後ろから声を掛けられる。
「庭に居ないと思ったら、厩舎にいたんだね。ジークとフィーらしいけど?
昔話は弾んだ?そろそろ戻らないとさ、父上の精神状態的に悪いんだよ、君達二人にしているのをイライラしながら待っていてこっちへの被害が大きくてさ。だから、もう邸へ戻っても大丈夫かな?」
「兄様…父様がイライラって?二人で話してきなさいって言ったのは母様よ?それに、この婚約は父様が進めたのでしょう?」
そんなフィーリアの言葉にレオンは笑みを浮かべながら答えた。
「母上は、それはそれはこの婚約話を喜んでいるからね。
だけど、父上は自分が進めた話とはいえ男親的には複雑なんじゃない?何せ今まで他の貴族の子息達と関わらせないように大事にしてきた溺愛のフィーを幼馴染で婚約者とはいえ、男と二人きりにするなんてね?
ね、ジーク?」
「………もう、戻ろうと思っていた所だ。
後、宰相にエスコートの件の了承も貰わなければならないしな。」
「エスコート?」
「ああ。フィーのデビュタントの舞踏会…いや、これからの夜会などの社交では俺がエスコートすると…な。」
「えぇ~!?フィーのデビューのエスコートは僕に決まっていたんだけど?」
「レオン、お前には婚約者のジェシカ嬢がいるだろう?
それに、婚約が決まったのなら婚約者がエスコートする事が通例だ。」
「ジェシカには、今回の舞踏会はフィーのエスコートをする事の了承を貰っていたんだよ。デビュタントのエスコートは一度きりしかないから、それはフィーの兄の特権だったんだけど!
フィーは、僕じゃなくてジークのエスコートでいいの?」
「えっ…わ、私は…ジークがいいのであれば…構わないから…」
「構わない…ねぇ。ま、二人は婚約したんだし、父上が了承するなら僕は何も言えないけどね。
それとさ、ジークさ…婚約した事に満足していたら痛い目をみるよ?」
「どういう意味だ?」
「いや?女心を理解した方が良いと思うだけ。」
フィーリアは、友人同士でもあるジークフリードと兄のレオンのやり取りをぼんやりと見ていた。
(婚約に満足って…まるでジークが進んでこの話を受けたようじゃない。兄様ならジークに想い人がいる事知らない訳じゃないでしょ?どうして、そんな事言うの?)
そんなフィーリアに柔らかい笑みを浮かべた兄のレオンは口を開いた。
「フィー?どうしたの?何か不満でもあった?」
「えっ!?不満なんて…そんな事は…ただ…今回のお話があまりに突然で…驚いてしまって…」
レオンはフィーリアの頭をポンポンと撫でる。
「嫌だった?嫌なら僕が父上に伝えようか?」
(嫌?驚いたけど…嫌ではない…
だけど…好きな方がいるのに家の為に無理矢理婚約したジークの事を考えると…苦しいだけ…)
「嫌…では……ないわ…」
「そう?それならいいんだけどね。」
複雑な表情でレオンと話すフィーリアをジークフリードが眉間に皺を寄せて見つめていた事をフィーリアは気が付かなかった。
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