第48話 妃殿下とのお茶会
……──王宮の端にある古びた塔の横にある古い石造りの小さな建物の前には二人の幼い王子が護衛を伴わないで立っていた。
『兄上…近衛騎士達を置いてきてしまって大丈夫ですか…?』
『少しの時間くらい構わないさ…ここは誰にも知られてはいけない場所だから護衛達も伴えないんだ。
ジークは特別に中へ入れてあげるよ。ジークは私の大切な弟だからね。さあ、中へ入っていいよ。』
『兄上…これは……』
クリストファーがジークを招き入れたのはクリストファーの隠れ家としている所であった。その中へ足を踏み入れたジークフリードの足は中の様子に固まる。
『綺麗だろ?美しい模様や色の虫の標本は私が作ったんだ。他にも珍しい宝石や布に女神像…綺麗なものを部屋中に飾っているんだ。』
壁一面に飾られている様々なもの達が異様な光景のようにジークフリードには見えた。
『これらは、私に理想を押し付ける事もなく静かに私を見守ってくれるんだ。そしてね…このコレクションの中にずっと加えたかったものが私にはある。』
『加えたかったもの…?』
『ジークのその瞳は綺麗だよね…獅子王から引き継いだ珍しく美しいものだ。』
ジークフリードはクリストファーが何を言っているのか始め理解が出来なかった。
そして、クリストファーの笑顔に怖さを感じる。
『兄上…?』
『ジークのその瞳を私にくれないか?』
──────………
「……っ!?」
ジークフリードが目を開けた時の周囲の景色は自分の執務室であり、背中と額に嫌な汗をじっとりとかいていた。
(執務室で寝ていたのか?今のは夢…か…)
ジークフリードは休憩時間に執務室の椅子に座りながらうとうととしていたようであった。
今でもジークフリードはあの異様な部屋を鮮明に覚えていた。
そして、クリストファーから言われた言葉もずっと耳に残っている。
幼い頃クリストファーから自分のこの瞳を欲しいと言われた……
あの時のクリストファーの作り物のような笑顔のしたに隠れていた眼差しは本気のようにジークフリードは感じた。
そしてジークフリードはあの時のクリストファーがまともな精神状態ではないのではとも感じた。
この頃からジークフリードはどのクリストファーが本当のクリストファーなのかがわからなくなっていた。臣下達や両親の前での聡明で優しいジークフリード自身も慕っているクリストファーが本来の姿なのか…あの日のジークフリードに見せたクリストファーの姿が本来の姿なのか…
そして、あの時の姿はクリストファーが壊れてしまったのではないだろうかとも思った。
……──自分のせいで兄は壊れてしまったのではないだろうかと……
ジークフリードは窓の外へ目を向ける。
今日はフィーリアがセフィーヌからお茶会へ招待を受けた日であった。
王宮の庭園では小さなお茶会が開かれていた。
セフィーヌが王太子妃となってから貴族が招かれるお茶会は開かれてはいなかった。
近々王妃主催のお茶会が開催予定であるので、クリストファーはセフィーヌがお茶会の雰囲気に慣れるようにという考えがあってフィーリアは自分に声をかけてきたのかもしれないと思った。
しかし、セフィーヌは話す事が苦手なのかフィーリアが話を振っても話がなかなか広がらなかった。フィーリア自身もお茶会へ訪れるのは数少ない為どんな事を話せばよいのかがわからない事もあったからかもしれない。
そんな時、セフィーヌから聞かれた言葉にフィーリアの心臓はドキンという大きな音が鳴った。
「リトラル子爵とはどのような経緯で婚約されたの?」
「え…経緯でございますか?」
「ええ…噂では幼馴染みの貴女ををリトラル子爵が見初めて婚約されたと聞いたのだけれど…」
フィーリア自身自分達の婚約はどんな経緯だったのか色々とあった中で悩む所だが、確かな事だと思った事を伝えた。
「あの…幼い頃に二人で結婚の約束をしまして、その約束をジークが…リトラル子爵様が守ってくださり求婚してくださったのです。」
「まるで、恋物語のような経緯なのね…
本当に同じ兄弟でも違うのね…」
「妃殿下…?」
「リトラル子爵は、終戦の後私にとても親身になってくださったの。周りにいる団員に慕われ率いる姿は本物の統率者に相応しい姿だとも感じたわ。それに比べてあのお方は作り物の統率者のようにしか思えない…」
「……………。」
「私達が、貴女方のように愛し合っているような関係ではないことはよくご存知でしょう?」
「あの…」
フィーリアはセフィーヌの言葉に周りを見渡す。
そんなフィーリアの姿にセフィーヌは美しい笑みを浮かべた。
「心配なさらなくても大丈夫よ。皆、下がらせているから大声を出さない限り聞こえる事はないわ。」
「妃殿下は…殿下の事を…」
「政略結婚とはそういうものでしょう?貴女方のような関係は珍しいものだと思うわ。特に王族の婚姻に愛が伴うなんて事は殆んどあり得ない…
それでも…彼のような方がお相手であれば気持ちも違ったのかもしれないわね…
それに、殿下も私よりも貴女と話されている時の方が楽しそうでいらっしゃるし、本当に世の中上手くいかないものね…」
フィーリアは目の前の相手が何を考えているのかわからなかった。それでも、自分に対してあまり良くない気持ちを抱いているのではないかと感じた。
その時、他の人間の気配を感じてそちらのへフィーリアが目を向けるとクリストファーがこちらへ歩いてきていた。
フィーリアは立ち上がり淑女の礼をとる。
「フィーリア、今日はよく来てくれたね。
それで、二人とも楽しい時間は過ごせたのかな?」
「え…ええ…この度は妃殿下の貴重なお時間を共にでき、ありがたく思っております。」
セフィーヌはクリストファーが茶会の場に来てから一言も話す事はなかった。
クリストファーはフィーリアに向けてばかりにこやかに話し続け、この異様な空気感に複雑な思いをフィーリアは抱いた。
夕刻になり茶会を後にしたフィーリアは先程までの事を思い出しながら…王宮の馬車停めへ向かっていた。
自分の乗ってきたウェストン家の馬車の前にジークフリードが立って待っている姿を見付ける。
「フィー、共に帰ろうかと待っていたんだ。」
「ジーク…」
「どうした?何かあったのか?」
フィーリアはジークフリードの顔を見て様々な思いが綯交ぜになったような気持ちを感じた。
「ううん。ジークの顔を見てほっとしたの…」
フィーリアは今のこのジークフリードとの関係が壊れない事だけを願った。
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