第47話 嫉妬
騎士団全師団による模擬試合の次の日の第二師団副団長執務室では珍しく椅子に背中を預け天井を仰いでいるジークフリードの姿があった。
『ジーク…ごめん僕もだけど父上でもどうにも出来なかった…
殿下からフィーへ妃殿下の話し相手として登城の沙汰が正式に出た。』
ジークフリードは午前中その話をレオンから聞いた。
そして、昨日フィーリアの様子がおかしかったのはこの事が原因だったのかとも理解した。
ずっと危惧していた事であったのにと…
フィーリアを王宮の中へ入れる事を止める事が出来なかった自分に怒りが湧き固く目を閉じ拳を握り締めた。
◇*◇*◇*◇*◇
ウェストン家の邸ではフィーリアが何度もため息を吐いていた。
フィーリアが気になって仕方がない事…それは、ジークフリードとセフィーヌの繋がりであった。昨日の模擬試合の時セフィーヌはジークフリードの姿を他の騎士よりもじっくりと見ていたようにフィーリアは感じた。ジークフリードは剣の腕もたつし目立つからだと何度も自分に言い聞かせていたが、不安が拭えなかった。
クリストファーとも殆ど関わる事のないジークフリードがセフィーヌとの接点などあるわけがないし、そもそもセフィーヌはクリストファーの妃であってそんな二人がフィーリアが不安に思うような関係になるわけがないとフィーリアは何度も思い納得しようとしていた。
(カトレア様の件から日がたっていないのに、またこんなに不安になるなんて…そんな自分が嫌になる…
自分の中にある黒い気持ちがジークは嬉しいと言ってくれて嫌いになどならないとも言ってくれたけれど、それでもやっぱりこんな気持ちを持つなんて自分が嫌だ。)
何度目になるかわからない大きなため息を吐いた後、気持ちを切り替える為にテッドのいる厩舎へ向かった。
テッドにブラッシングしている時、厩舎の外に誰かの気配を感じて振り返るとそこに居たのはジークフリードであった。騎士服のままの姿という事は王宮から真っ直ぐこちらへ来た事がわかる。
「ジーク…?急にどうしたの?」
「何故、昨日俺が聞いた時に言わなかった?」
「え…?」
「妃殿下の元へ話し相手として来て欲しいと言われた事を何故黙っていたんだ?お前の様子がおかしかったのもこの事が原因なんだろう!?」
突然来訪したジークフリードの口調が怒り気味な事にフィーリアはどうして?と不安に思う。
「隠していた訳でないのよ?たまたま話の流れでそういう話になっただけだし…様子がおかしかったのかは、どうかわからないけれど、その事が原因ではないわ。」
「……昨日…王太子殿下に何を言われた?」
「ジーク…?」
「いや…もういい…」
フィーリアはジークフリードが浮かべている焦りのような表情にさらに不安を覚える。
そして、その場を離れようとするジークフリードの服を思わず掴んでしまった。
「フィー?」
「だって…ジークは殿下の事を昔から慕っているでしょう?
だけど…」
「……………。」
「まるで…ジークの事を…」
「言わなくていい…知っているから…」
「え…?」
「俺が王宮にいた頃からそんな様子はあった。それでも慕う気持ちは変わらないものであったから俺は何ともない。」
「ジークの力はジークが沢山努力したから手にした力よ!
黒獅子だから持っている力なんかじゃないわ!それは、私がよく知っているの…」
ジークフリードはそんなフィーリアの言葉に柔らかい笑みを浮かべると自分の服を掴んでいるフィーリアの手を握る。
「その事であんな顔をしていたのか?」
「……………違う…」
「フィー?」
「違うの…やっぱり私、嫌な人間なの…自分の事ばっかりで…」
「どうして?」
「……ジークは妃殿下と…何か関わりがあるの?」
「妃殿下?」
「やっぱり私…おかしいの…ただ試合中のジークを妃殿下は見ていただけなのに…こんな…もう嫌だ…」
フィーリアは自分の嫉妬する気持ちに戸惑うばかりであった。
そして、そんな自分に嫌悪感を感じる。
「妃殿下とは戦の時に少し関わった。彼女は敗戦国となったルーヴァンヌ王国の王女であり、クリストファー殿下との婚姻の話も出ていて何事もなくレトリアル王国へお連れしなければいけなかったから、その役を任されていたんだ。ただ、護衛として付いていただけでそれ以外は何もない。」
「……………………。」
フィーリアは俯いたまま顔をあげられないでいた。セフィーヌとジークの関係なんて聞かなくても何もない事などわかっていたのに止められない自分がいて、そして自分がこんなにも嫉妬深い人間であったのかと嫌気がさす。
そんなフィーリアの顎に指を添えたジークフリードは俯いていたフィーリアの顔を無理矢理自分へ向かせた。
「その顔…」
「見ないで!離してよ…こんな顔ジークに見られたくない…」
「その頼みは聞けないな…」
「え…」
「そんな顔をしたお前が悪い…」
「ジー……っ!」
ジークフリードとの距離が縮まったかと思ったら唇を塞がれる。
その口付けは今までのゆっくりな口付けとは違った。
荒々しい口付けにフィーリアはすぐ呼吸が苦しくなり、そんなフィーリアに少し唇を離したジークフリードは教え込むように囁いた。
「呼吸は鼻でするんだ…」
そしてまたジークフリードは自身の唇でフィーリアのそれを塞ぐ。
フィーリアがジークフリードに教えられたようにすることで呼吸が楽になり身体の力が少し抜けた事にジークフリードは気が付くと、フィーリアを味わうかのように自分の舌をフィーリアの口腔に差し入れてきた。その思ってもいなかったジークフリードの行為にフィーリアの身体はまたビクッと強張る。
「んっ……っ……」
フィーリアはジークフリードの行為にどうしていいかわからず、ただジークフリードの服をぎゅっと握り締める事しか出来なかった。それと同時にジークフリードの指先がフィーリアのうなじから頭を支えるように髪の間から差し入れた事にフィーリアの身体はさらにぞくっと身体の奥が熱くなるような感覚覚えた。
フィーリアはジークフリードの動きにただついていくだけで必死であり、ジークフリードの身体と密着しながらの深い口付けにフィーリアはフワリと身体の力が抜けそうになる。そんなフィーリアの身体を支えるようにジークフリードの手がフィーリアの腰にあてられ身体はより密着した事にフィーリアの心臓はより大きな音をたてた。
口付けを交わしてからどれくらいの時間がたったのだろうか?二人の唇が離れたがフィーリアの息は上がったままであり、熱くなった顔でジークフリードを見つめた。
「その顔…他の男に絶対見せるなよ。」
「え…その顔…?」
「ずっと…俺だけを見ていてくれ。俺もお前しか見えていないから不安にならなくていいんだ。」
そんなジークフリードの言葉がフィーリアの心の中にすとんと落ちるとフィーリアは物凄く安心感を覚えた。
「ジーク…」
フィーリアの頬へジークフリードの大きな掌が触れる。その温かな温もりもフィーリアの心を安心させてくれ、ジークフリードの掌にフィーリアは頬を擦り寄せた。
「人の家の厩で何をしている訳?」
突然聞こえた声にフィーリアは身体を揺らし厩舎の入り口を見るとレオンが身体を預けて立っていた。
ジークフリードは舌打ちをし、フィーリアは思いきり腕を伸ばしてジークフリードとの距離を取る。
「兄様っ!?い、いつからそこに!?」
「さあ、いつからだろうね?」
レオンの返しにフィーリアは穴があったら隠れたいと思った。
そんなフィーリアにレオンは一通の封書を見せた。
「フィー、登城の沙汰が来たよ。」
そのレオンの言葉にジークフリードの眉間に皺が寄る。
「セフィーヌ妃殿下からのお茶会の招待状だ。」
そうレオンから差し出された封書には王家の紋がはいっていた。
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