第43話 報われない思慕
夜会へ出席したフィーリアとジークフリードはダンスを踊った後、壁際で休んでいる時二人に声をかける人物が居た。
「ジークフリード様、フィーリア様こんばんは。」
「カトレア様…」
「……………。」
ジークフリードは声をかけてきたカトレアを見ると眉根を寄せフィーリアを自分の背に隠す。
そんなジークフリードの行動に一瞬僅かに口元を歪めたカトレアはすぐ表情を戻すと深く頭を下げた。そんなカトレアの行動に夜会の出席者達からはざわめきが起こった。
「先日は、大変兄が失礼致しました。まさか、あのような事が起こるとは思ってもおらず、兄がフィーリア様とお話をしたいという言葉そのままにフィーリア様にお声をお掛けしてしまったのです。」
「カトレア嬢。貴女は貴女の兄君の所行を認めるのですか?」
カトレアはジークフリードの言葉へは何も返さず笑みだけを向けた。
そして、一礼すると二人の前から去っていった。
「カトレア様、本当に何も知らなかったのかしら…?」
「…………さあ…」
夜会から帰る為にエントランスへ続く廊下をフィーリアとジークフリードが歩いている時であった。
廊下の影で男と女の言い争う声が聞こえてきた。
声の方向へ目を向けるとカトレアが一人の男に手首を掴まれ壁に押し付けられていた。
「やめ…て……ください……」
「リトラル子爵に見放されたのだろう?婚約者のいる男に色目を使うあんたの方が良くないし惨めだよな。だから、俺が慰めてやろうかと言って──……イッテッ!」
その時、カトレアを掴んでいた男の手首を掴み捻り上げたのはジークフリードであった。
「どんな理由があるのか知らないがレディに対しての接し方ではないのではないか?」
「何だ!?お前は…リトラル子爵?」
「貴族ではないな?商人か?」
「それがどうした?商人が夜会へ出入りしては駄目だなんていう制約なんてないだろう!?れっきとした招待客だ!
離せっ!」
そう言った男はジークフリードの手を振り払いその場から立ち去っていった。
「お手を煩わしてしまい申し訳ありません…」
「カトレア嬢…貴女がこのような事柄に巻き込まれるなんて珍しいですね。いつも貴女の側にいる令嬢方はどうされたのですか?」
「私の周りにはもうどなたもおりませんわ…」
「あのっ!ここでこのようなお話を続ける事もよろしくないと思います。それに、カトレア様髪型が少し乱れております…
出席者の為に用意されている別室へ移動されませんか?」
フィーリアの提案で、別室へ三人で移動する。
「カトレア様、今日はどなたとご一緒にご出席されたのですか?」
「今日は家の者が誰も都合がつきませんでしたので、一人で出席しましたの。付き添いに侍女を伴いその侍女は侍女用の控え室におります。」
フィーリアは扉前で控えていたこの館の二人のメイドのうちの一人にカトレアの侍女を呼んできて欲しいと伝えた。
そして、カトレアへ目を向ける。以前までのカトレアは自信に満ち溢れていて凛とした姿であったが、今日のカトレアはまるで違い弱々しく見えた。そして気が付く事が一つあった。カトレアのジークフリードへ向ける瞳にはジークフリードの事を慕っている熱を感じた。
(カトレア様はジークの事を本気で慕っているのね…)
胸がざわつくような嫌な感覚をフィーリアは覚えた。
カトレアをジークフリードの傍に居させたくないと強く思い、そんな自分にはっとする。自分の独占欲という気持ちを改めて深く感じたのだ。そしてこんな気持ちをジークフリードには知られたくないとも感じた。
「あの…ジーク…少し喉が渇いてしまって隣の食事の用意してある別室へ行っても構わないかしら?」
「何を言っている?一人でなど行かせられる訳がないだろう!?」
「あの…こちらのメイドの方に伴ってもらうから大丈夫よ。それに、隣だし…他の方に兄様とジェシカを呼んで貰うようにもお願いするわ。」
ジークフリードは一つ溜め息を吐くと言葉を発する。
「余計な事をしないという事だけは約束してくれ、カトレア嬢の侍女がここへ来たら俺もそちらへ向かう。」
「約束するわ。カトレア様…失礼させて頂きます…」
メイドを伴って部屋を離れたフィーリアは廊下に出ると溜め息を溢した。本当ならジークフリードとカトレアを二人きりになどしたくはなかった。しかし、嫉妬を浮かべた表情をジークフリードに見られたくもなかった。ジークフリードとカトレアが二人きりという事もあり扉を開けている部屋を見詰める。ジークフリードの気持ちはこれまでの事で心配はしていないが複雑な気持ちになった。
フィーリアの退出した部屋ではカトレアと二人きりになったジークフリードがフィーリアの様子を気にしていた。そんなジークフリードへ、カトレアは声を掛ける。
「ジークフリード様はそのようにずっとフィーリア様を見詰めていらしたのですね…」
「カトレア嬢?」
その時、カトレアは部屋の隅に置いてあった香炉を自分の前にあるテーブルに置いた。
「フィーリア様にどう伝えて部屋を一人で出ていってもらおうかと考えておりましたが…フィーリア様自身で離れて頂けて感謝致しますわ。
ジークフリード様は私の事を少しでも傍に置きたいとは思われた事はきっとないのでしょうね?
ですが…そのように思わせる事はいくらでも出来る事をこれから身をもってお伝え致しますわ。」
そう言うとカトレアは結っていた髪を自ら崩す。
そんなカトレアへ訝しげな表情をジークフリードは向けた。
「私へ見惚れない殿方はいませんの…
もう気が付かれました?この香りに…
この香は媚薬でも用いられる効能がありますのよ…
身体を熱くさせる為の…」
「くくくっ………」
ジークフリードは笑いを噛み殺したような声を上げた、、
「ジークフリード様…?」
「そして、そのような状況になっている場面を貴女の侍女が他の者も連れて戻り目撃させるという企みという訳か?」
「え…?」
「俺には効かない。」
「な…」
「この事前にあんたが用意していた香は俺には効かないと言ったんだ。」
「何故…?」
「何故?香が効かない事がか?それとも、あんたの策略に俺が気が付いている事がか?
リントン家の令嬢という者が、随分とお粗末な穴だらけの計画を練ったものだな。調べればすぐ行き着くという策略など策略とも言わないだろう?
いいのか?汗が出てきているが、中和剤が少なかったのではないか?この香だが、効能的に身体の小柄で華奢な女の方が効き目が強いんだ。それも知っていて使おうと考えたのか?」
「計画を…知っ…てい…たとでも…いうの…ですか?」
「ああ。廊下で男に絡まれていたのも全て計画だとな。あの男はあんたが雇ったのだろう。そして、この部屋に居たメイドもそうなのであろう?」
「フィー…リ…ア様…も全てを知って…いたと?」
「知っている。あいつもこの手の薬に耐性はあるが、念のため中和剤も飲んでもらっている。
あいつが、廊下へ一人で出ると言い出した事は予定外であったがな…
この香も証拠となるだろう。あんたが雇ったあの男とメイドも既に捕獲されている筈だ。さあ、どうする?それでもまたあんたの父親が裏から手を回すか?」
ジークフリードの言葉にカトレアは荒い息をしながら身体を押さえ何も言葉が出なかった。
カトレアは自分の企てた計画を知られていたうえに上手く手のひらで転がされていたような失態に悔しさと、カトレアに対して一つも情のない様子へカトレアの心の中にあったジークフリードへの思慕は悲しみを感じた。
そして涙が一粒零れ落ちる。
「今度は泣き落としか?そのような手に乗ると思っているのか?」
「その涙はそうではないですよね?」
「フィー!」
後ろから聞こえたフィーリアの声にジークフリードは振り返る。
いつの間にかフィーリアは部屋に戻ってきていた。
「その涙はジークの事をずっと真っ直ぐ見詰めていたことからの想いからですよね?」
「……言わないで…」
「え…?」
「わかった…ような言葉を…言わないで!
愛している人か…ら…愛されて…いる人が、愛さ…れない人間に…向かって…そんな事を言っても…見下しているようにしか思えないのよ!」
「カトレア様…」
「幼い頃から…ずっと貴女の事が…目障りだったわ!」
カトレアがフィーリアを睨み付けそう言い終わると同時にフィーリアをジークフリードは自分の背に隠した。
「フィーリアにこれ以上敵意を向けるな。
そして、金輪際フィーリアと俺の前に現れるな。」
「ジーク…」
その後、ジークフリードが前以て配置していた者達へカトレアを託し、リントン家へ今回あったカトレアの行動を記し処遇をリントン公爵の判断に委ねるが、その処遇によってはレイサレル家として貴族院と王宮へも通達する。と伝えた。
ここまで読んで頂きありがとうございます。
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そしてそして評価ポイントを付けて頂き感謝です!!これからも頑張ります!
この回のお話の言い訳ですが…
今回のこのエピソードのお話はもっと引っ張る予定でしたが、この一話で終わらせました。
お話の組み立てがまだまだで、長くなると纏められなくなりそうでこうなりました。入れたかったエピソードも沢山あったのですがお月様の方でなければ難しい内容もあり…断念したのも一つの理由です…
カトレア…昔からジークフリードの事を想っていたのに結局かませ犬のような扱いにして申し訳ありません…
もっと、深みのある内容に出来るよう精進します!
そして、これから少しずつジークフリードの抱えているフィーリアが絡む過去についてのお話へ入っていきたいと思います。
そんな言い訳で申し訳ありません。




