第39話 力
「フィー!?その顔どうしたんだ!?」
「ジークフリード様、どういう事か説明して頂きましょうか?」
「あのっ!私の責任でもあるから私から説明します。」
フィーリアは夜会であった事をレオンとジョゼフに説明していったが、二人の表情は良くなるどころか、より怒りを含ませた表情になった。
「だから、僕はあいつは信用できないし嫌だったんだ。親に命令されて一番卑怯な手を使うなんて…」
「フィーリア、お前の事をデビューまで他の貴族達との交流を絶っていた私達の責任でもあるが、もう少し人間を視る目を養わなければならないな。世の中にはこのような姑息な手を使うものも多いという事がわかったであろう。」
「はい…すみませんでした。」
「ジーク、それでフェルナンデスの処遇はどうなりそうなの?」
「先程、こちらの邸にレイサレル家の鷹で報せが届いた。現在は王宮預かりになってはいるが解放されるのも時間の問題であると思う。この後、俺も王宮へ行こうと思っているが、恐らくその前にリントン公爵が何らかの手を使うだろう。」
「ジークフリード様、話はわかりました。王宮へは私も同行致しましょう。リントン公爵の動きは私も注視してはおりました。」
「お疲れのところ申し訳ありません。宜しくお願いします。」
「父様…ごめんなさい…私は…」
「フィーリアお前は今日はもう休んでいなさい。後日話を聞かれるかもしれないが、その時に落ち着いて答えられるよう話を纏めておきなさい。」
「フィーには悪いようにならないよう話をつけてくるから安心していていい。」
そう、ジークフリードはフィーリアに伝えるとジョゼフと共に王宮へ向かっていった。
そんな様子を心配そうに見送ったフィーリアの頭をレオンが優しく撫でる。
「後はジークと父上に任せよう。それよりもこれ以上顔の腫れが酷くならないよう冷やさなければ、僕の可愛いフィーを打つなんて本当に許さない。ジークが痛めつけても足りないよ。」
「兄様…」
「ところでさ、服を着替えた事はわかるけど、どうして髪型まで変えている訳?急いで話をしなければいけないのに…」
「わからないけれど…ジークが髪型を変えるようミアに頼んで…ミアもその方がいいって…」
「…………ちょっとフィー後ろ向いて?そして下に首を向けてくれる?」
「え?何?」
フィーリアはレオンの指示に首を傾げながらも下へ首を向けた。
「…あいつ……
フィー首ってさフェルナンデスでなくてジークがやった?」
「首?後ろだから見えなくて…ジークが何か言っていたけれど…俺の印だとか……なんなの?」
「あいつ…どんだけ執着しているんだよ…気持ちはわからないでもないけどさ…それを兄である僕が見付けるって……ったく…」
「兄様?」
「フィーも、じきにわかるよジークの独占欲が…」
「?」
◇*◇*◇*◇*◇
その頃レイサレル家の馬車でジークフリードと、同乗したジョゼフは王宮へ向かっていた。
「自分の配慮不足でフィーリアを危険な目に合わせてしまい申し訳ありません。」
「いや…何でも信じて着いていってしまうフィーリアにも責任はありますからな。」
「宰相…フィーをある時から邸から出さなくなったのはウェストン家の技術を教えるだけではないですよね?」
「………あの子はウェストン家に女として誕生して、今のウェストン家の現状から政治利用に使われる可能性は危惧していましたからな。それに、貴方から婚約の予約もされていましたし…」
「宰相…本当にそれだけなのですか?」
「…………貴方には黙っていましたが、何度か忠告文が我が家に投げ入れられたのです。
『ウェストン家令嬢を狙っている者がいる』と…」
ジークフリードはジョゼフの明かした事にヒュッと息が詰まった。
「忠告文が投げ入れられた時、フィーリアはまだ8歳でそれほど多くの者との交流はさせていなかったので、その忠告で何者がフィーリアの何が気にくわないのかどんな敵意を持っているのかもわからず、ただの悪戯なのか何かはわかりませんでした。どれも投げ入れた者は浮浪児であり、そのいずれも覆面の被った者から金を渡されやったと言っておりました。字体は書いた者がわからないよう細工をした字体で、ただ上質な紙を使用していた事だけがわかりました。
以前の王宮での一件もありどんな理由があっての忠告文かわからず、カトリーヌも不安がっている事もあって敢えてフィーリアの貴族との交流を絶ったのです。ただ、ジッとしていられない子ではありましたので護衛を伴ってのわが家が管理している土地への乗馬だけは許してはいましたが…」
「………フィーリアは昔の王宮での一件についてはどう感じているのでしょうか?」
「いえ…特に…貴方がフォローしてくれた事もあってか変に捉える事もなく、幼かった事もあり今じゃあまり覚えてもいないのではないでしょうか?」
「しかし、忠告文だけではないですよね…フィーを外へ出さなかったのは…」
「……それは、貴方が危惧していた事の一つですからね…
ただ、貴方が危惧していたからというだけの理由ではありませんが…最終的には私の判断であります。あの子に選択肢は与えたかった…それには理由が必要で外へ出さずウェストン家の技術を学ばせる事へ集中させる為という半分真実で半分偽りの言葉を理解して頂いたのです。親馬鹿な偽りの理由ですな…」
「……………そうですか…
……それと、レオンから少し聞きました。殿下と妃殿下の仲が芳しくないと…」
「政略的な事が多い婚姻ではありましたからね。公務の時以外は話す事も殆んど無いようです。表向きは仲の良いようなお姿は見せておられますが…」
「宰相には様々な重荷を背負わせてしまい申し訳ありません。」
「今更ではありませんか?貴方が王宮で決められた時の決断が一番の重荷でございましたからな…
………ジークフリード様…」
「何か…?」
「本当にお戻りになられる気はないのですか?」
「宰相」
「陛下はまだ希望をお捨てにはなっておりませんよ。」
「宰相!それこそ、今更です。貴方は内乱を起こしたいのですか?」
ジークフリードはジョゼフを鋭い視線で見据えた。
「貴方が内乱を避ける為に王族の位を手放された覚悟はわかっております。ただ、覚えておいてください、貴方のその力はこの国に必要不可欠なものであると…本来であれば玉座に着かなくともそのお力を次代の国王を支える事で国の安泰が約束される事であったと…」
「宰相らしからぬ言葉ですね。俺はそんなに素晴らしい人間ではないですから…
宰相も俺の二つ名に惑わされているのですか?貴方はそんな馬鹿な人ではないでしょう?」
「私は他の貴族が言うような貴方の二つ名には興味はありません。貴方の実力を知っているだけです。生まれ持った能力に合わせて努力で培ったその実力を…
貴方が昔、私に手に入れたいと言われたお力ではないですか?それを国の安泰の為に使えない事が残念でもあると私は思っているのです…」
なんとも言えない空気が馬車内に流れていた。
ジークフリードは、やはり目の前にいる宰相でもある男の考えは自分でも計り知れないと感じた。
敵ではないが、『国の為ならどんな事も利用するのも厭わない人物』と巷で言われているのも頷けるとも思った。
馬車は王宮に着こうとしており、暗闇の中でもその存在感を感じられる大きさにジークフリードは複雑な気持ちになった。
そして思い出す昔ここで暮らしていた日々を───……
『ジークには教えてあげるよ…私の秘密の場所を…』
『兄上…何処まで行かれるのですか…?』
『ジークは自分の立場をどう思っている?』
『え…』
『私はね……嫌気がさすことがあるよ…理想を押し付けられて…
だから、ここが私の安らげる場所なんだ…
ねぇ…ジーク…ジークのその───……』
「……──様…」
「…──フリード様…」
「ジークフリード様」
「え……」
「どうされました?着きましたよ?」
「いや…なんでもありません…考え事をしていました。」
(随分と昔の事を思い出したな…兄上…殿下の話をしていたからか…)
ジークフリードは気持ちを切り替え馬車を降りた。
この王宮はジークフリードにとって様々な思いを重ねた場所であり、行きなれた騎士団の軍部でなく国王の居る場所へ近付く度に様々な事を思い出していた。
ここまで読んで頂きありがとうございます。
ブックマークもありがとうございます!
今回の話は含みが多くわかりにくいかと思いますが、徐々に明らかになる予定であります。
少しネタバレですが…
解説として…
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ジークフリードがフィーリアへ語った過去の話は触りだけで、もっと根深い事が隠れております。




