第40話 隣
ジークフリード達が王宮へ着き用件を伝えると通された場所にはジークフリードの義父であるヴィクターが居た。
「義父上…義父上自ら足を運んでいただき申し訳ありません。」
「いや、それは問題ないのだが…」
「……何かあったのですね。」
「俺が来た時にはもうリントン公爵が息子を連れて王宮を出た所であった。
息子のフェルナンデスは酔っていた為、何が起きていたのかわからないと…かなり無理矢理で苦しい言い分であったが、裏から手を回していた事もあって対応した士官では手が出せなかったようだ。王宮がそのような状況下であることは、貴族の罪を見極める事としても由々しき事態なのだがな…
フィーリアの状況を訴えれば事情聴取ぐらいにはリントン子息を引っ張ってくる事は出来るとは思うが、そうなればリントン公爵が黙ってはいないだろう。お前が子息へ危害を加えた事も引き合いに出されるだろうし、フィーリアがリントン子息と二人きりで居たというような不名誉な話を流されるかもしれない。
どうする?」
「何処までも汚い奴等め…」
「今の状況ならお前の所行は咎められないしフィーリアの事も表立っては言えないだろう。
お前を咎めればリントン子息も理由を問われ様々な事が明るみに出るというハンデを持っているからな。
お前が冷静さを欠くなんて珍しい事だな。フィーリアがそのような目にあわされたから感情を抑えられなかった事はわからないでもないが、先に手を出せばどうなるかわかっていただろうに…」
「それは…わかっていましたが…」
「とはいえ、俺がお前の立場であったらもっと酷い状態にしたとは思うから何も言わないがな?」
「義父上…」
「ジークフリード様今回は納得いかないかと思いますが、行動にでない方が得策かもしれません…リントン家を正攻法で問い詰めるのは、リントン家が裏から様々な人間に手を回している今の状況では難しいでしょう。」
ジョゼフの言葉にジークフリードは舌打ちをする。
「私も納得はいっておりません。
ただ、今回このように逃げられて暫くはフィーリアへの接触はないかと思いますが、何か策は考えないといけませんな。」
「ああ…」
(王太子派筆頭のリントン家に近付けば何かわかるかと思った…
しかし、わかるどころかなんの収穫もなく逃げられ、しかも未だにフィーへの危険は何も回避出来ていない…
自分の無力さに反吐が出る…)
「ジーク…お前の気持ちもわかるがあまり焦るな。焦りは良い結果を生むことはないぞ。」
「わかっています…」
◇*◇*◇*◇*◇
リントン家の地下にある隠し部屋に怒声が響き渡る。
「この愚か者めがっ!ウェストン家の娘にいいようにやられおって!あれほどウェストン家の力を甘く見るなと言ったではないか!さらに、レイサレル家にまで目をつけられた事どうするつもりだ!?
この私に尻拭いまでさせおって…」
「父上…申し訳ありませんでした。」
「カトレア!お前も第二王子はどうなっておる!あんなに自分を選ぶと豪語しておったではないか。このままウェストン家の娘と婚姻を結べば私達一族は衰退し表舞台から消え去る運命だ!
それは、王妃陛下や王太子殿下へも繋がるのだぞ!
我々が第二王子である黒獅子の手綱を握っていなければならぬのだ!」
「お父様…ご安心を…私を選ばぬ男性などおりませぬ…今までは様子を伺っておりましたが…近く良い知らせをお伝え出来るかと思っておりますわ。」───……
◇*◇*◇*◇*◇
次の日の早朝、テッドの世話の為フィーリアは厩舎にいた。
「フィーおはよう。」
フィーリアは名前を呼ばれ振り返るとジークフリードが騎士服を着て立っていた。これから騎士団へ出仕するのだろうと思われた。
「ジーク、おはよう!」
「邸を訪れたらフィーが厩舎に居ると聞いたんだ。先触れを出さずに訪れてすまないな。気になって様子を見に来た。
頬はどうだ…?」
「あ…昨日よりは腫れもひいたから大丈夫よ。」
フィーリアはそう言ったがジークフリードはフィーリアの頬の状態を見て険しい表情を浮かべる。
「こんなに…青くなって……」
ジークフリードはフィーリアの滑らかな頬に出来た青あざに指先で触れた。
「ジーク、本当に大丈夫よ。昨日は王宮ではどうだったの?
父様は昨夜は戻られなかったようでお話を聞く事が出来なかったの。」
「ああ、その件はリントン公爵が裏で手を回していてリントン子息には問いただす事は出来なさそうだ。
こちらの事を変に吹聴される事の危惧もあるから深追いする事を宰相と相談してやめる事にしたんだ。」
「そうなの…」
「フィーの事は俺が守るから心配しなくていい。」
フィーリアはジークフリードの言葉を聞いてずっと思っていた事を伝えた。
「ジーク…ありがとう…ジークが私の事を守りたいと思ってくれることはとても嬉しい。
だけど…私は守られるだけじゃ嫌なの…
ジークの背中に守られているだけじゃなくて、隣を歩かせて?
まだまだ私じゃ足手まといだけど…ジークが辛かったり困っている時は私もジークの事を守りたいの…」
「フィー…」
フィーリアの真っ直ぐな言葉はジークフリードの心をギュッと掴んだ。
これ迄ずっと殆んど一人で努力してここまで進んできたジークフリードにとってこの言葉はとても嬉しい事であった。
ふわりとジークフリードはフィーリアを抱きしめる。
ジークフリードの腕の中にすっぽりとおさまってしまう小さな身体のこの存在はジークフリードにとって掛け替えがなくてジークフリードの事を癒してくれる力は昔からとても大きかった。
大切な存在であるフィーリアを絶対に手放せないとジークフリードは思う。
万が一フィーリアがジークフリードの傍から居なくなってしまえばジークフリードは、自分という人間は生きる事も放棄してしまうのかもしれないとも思った。
そして、フェルナンデスに傷つけられたフィーリアを見た時、ジークフリードは自分の行動をコントロールする事が出来なかった。コントロールしていれば、もっと上手くやれたのだとも思う。ジークフリードは次に同じようにフィーリアが傷付くような事があったのなら、自分はどうなってしまうのかとも思った。
その時、ジークフリードが抱きしめているフィーリアが身じろぎすると口を開く。
「ジーク…」
「どうした?」
「こんな時に言う事ではないと思うけれど、ジークに言わなければいけない事があるの…」
「何だ?」
「何だじゃないの…昨日…馬車の中で…首に…何で……その…」
「………ああ…」
「ああ、じゃないわ!私…何だかわからなくて…昨夜は兄様にも見られて…
今朝、合せ鏡で見てこの痕の事をミアに聞いてしまったわ…なかなかミアからも教えてもらえなかったけど…教えてもらって、恥ずかしすぎて何処かに埋まってしまいたいと思ったの!どうしてあんな事したの?」
「どうしてって…それを俺に言わすのか?」
ジークフリードはフィーリアの言葉に口端を上げてからかうような笑みを浮かべた。
「なっ!??」
「フィーの事は誰にも渡すつもりはないという他の人間への周知を含んでいることと自分への戒めの為だな…」
「……っ!?」
そんなジークフリードの言葉にフィーリアは恥ずかしくて何も言えなくなった。
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