第34話 包容
ここからまた現在のお話に戻ります。
ウェストン家の応接室には時計の音の響きしか暫く聞こえなかった。
「フィー……これが、俺の公にされていない過去の話だ。
もし…俺と生涯共に過ごす事に抵抗感があるのなら、婚約解消も覚悟はしている…」
──パチンッ……
フィーリアは両手でジークフリードの両頬を叩く。
「フィー…?」
「ジークは、話をする前私が逃げられないように外堀を埋めたって話していたけど、でも、私が嫌がったら私の事を諦めるの?ジークの気持ちはそれぐらいなの?
それに、ジークの昔の話や未だに背負っている事を聞いて私がジークの事を拒絶するような人間だと思っているの?」
「諦めたくなどないっ!しかし、俺を取り巻く環境は普通じゃない…それをお前に強要する事が心苦しい…」
「強要って何!?違うでしょう?結婚するって事はお互いの事を受け入れ、手を取り合うって事じゃないの?
私はもう何も知らない子どもじゃないわ。大切な相手の事を支えていきたいとも思っている。
一人で何でも抱えないでよ!ジークの抱えている事…私にも分けて?」
「フィー…」
「話を聞いて、私が思っていたよりもジークがもっと沢山の事を抱えているという事はわかったわ。だけど、そんな事で私の想いは変わらない。それに沢山の事を乗り越えて今のジークが居るのでしょう?そんなジークの事を拒絶なんて出来る訳がないわ。ジークへの気持ちはそんな事で揺るがないの。私はジークの事が好き。ずっとずっと好きだったの。
だから…婚約解消だなんて…そんな事を言わないで…」
フィーリアがその言葉を言い終わった瞬間、ジークフリードはフィーリアを抱き締めた。
「もう…逃げたいと言っても手離す事なんて無理だからな。」
「離さないで…私はジークがいいの…」
ジークフリードの大きな手がフィーリアの頬へ触れる。
「ジーク…?」
ジークフリードの顔が近付いたかとフィーリアが思った瞬間ジークフリードの唇とフィーリアの唇が触れた。
突然の事にフィーリアは大きく瞳を見開いたままであった。
触れただけの唇が少し離れたと思ったら角度を変えてまた合わさる。ジークフリードの唇がフィーリアの唇を啄むように何度も触れる。
「んっ……っ………」
フィーリアの心臓はドキドキと痛いぐらい大きな音が鳴っていて、初めての事にどうしたらいいのかわからず身体に力が入る。
唇が何度か合わさった後、少し唇が離れたかと思ったらジークフリードの強い眼差しに見詰められ、いつの間にか握られた手は指が絡むように握り直されていた。
「ジー……ク…」
そしてまた唇が触れそうになった時に応接室の扉を叩く音が響いた。
「ジークフリード様、フィーリアお嬢様、旦那様とレオン様がお帰りになられましたが、お話は終わりましたでしょうか?」
イアンの声に二人の動きが止まる。
フィーリアは思いっきり両腕でジークフリードの身体を押し距離をとった。
「だ、大丈夫よ。話は終わったわ。」
そんなフィーリアの様子にジークフリードはフィーリアの手を握るとフィーリアの耳許で囁く。
「勝手に話を終わらせるなよ。」
「おっ、終わったでしょう?」
そんなジークフリードの行動にフィーリアの鼓動はさらに高くなっていく。
(きっと…もう…顔は真っ赤だ……)
「そういう表情をされるともっと苛めたくなるな…」
「なっ!?苛め…って……」
───チュッ……
「ひやっ!??」
ジークフリードが耳許で囁いている途中フィーリアの耳を啄んだ。
「この続きはまた後で…」
「ジッ、ジークっ!貴方のその、人が変わったような態度は何よ!?」
「変わってなどいない。これでもずっとフィーに触れる事を昔から我慢していたんだ。フィーから『離さないで』など言われたら箍が外れるさ。だから、覚悟しておいてくれ。」
「かっ、覚悟っ!?
っ!~~~~~……
そ、それより…ジークの話を聞いても一つだけわからない事があったの…」
「わからない事?」
「ジークは…私の一体どこに惹かれたの?妹みたいに思っていたのでしょう?」
「妹だなんて初めから思えなかった。フィーは俺にとって掛け替えのない一人の大切な女の子だったよ。」
「だっ、だって…私は特にジークにとって何もしていないし、ジークが私のお願いをいつも聞いてくれていただけでしょう?」
「何もしていないどころか、フィーの存在自体が俺の事を支えてくれたから今の俺はこうして居るのだと思う。これからゆっくり教えてあげるよ俺がどれくらいフィーの事を必要としているのか…」
「ジーク…」
「お楽しみ中悪いけど入らせて貰うよ。」
「にっ、兄様っ!?」
レオンがノックも無しに応接室の扉を開け扉の前でニヤリと笑いながら立っていた。レオンの現れ方にジークフリードは舌打ちする。
「ジーク、それで全部フィーに話せたの?」
「俺が臣下へ降下するまでの事はな。」
「そんなに二人の距離が縮まっているところを見られるという事はフィーに受け入れてもらえたんだよね?だけど、もうそろそろ父上がここへ来るから少し距離を取っておかないと、父上の機嫌が悪くなるよ。」
レオンの言葉に先程のジークフリードとの口付けを思い出し恥ずかしく居たたまれない気持ちにフィーリアはなった。
ジークフリードはそんなフィーリアの指を絡め持ち上げると指先にキスを落とす。
「もう、変な勘違いをして逃げるなよ。」
「にっ、逃げたりなんかしないわよ…」
「ねぇ、ジーク。フィーの兄である僕の前でそういう事しないでくれる?」
「そういう事って?」
「へぇ?それを僕に言わせるつもり?」
「二人ともっ!もう、いい加減にしてっ!!」
ジークフリードとレオンの言い合いにフィーリアは恥ずかしさの限界を超えてしまい怒り出すのをジークフリードもレオンも笑って返した。
◇*◇*◇*◇*◇
「それで、フィーリアは今幸せ一杯なのね?」
「幸せ一杯というか…」
ジークフリードから過去の話を聞かせてもらった次の日にレオンの婚約者のジェシカがフィーリアを訪ねてきて、フィーリアの私室でお茶を飲みながら話をしていた。
「先ずは…私は少しは素直にならないといけないな…と、思って…」
「まぁ、色々とすれ違っていたら意地を張ってしまうのもわかるわ。」
「それよりも、ジークのスキンシップにこれからも同じように接してくるのかと思ったら…どうして良いのかわからなくて…」
そんなフィーリアの言葉にふふと笑みをこぼすジェシカにフィーリアは問いかけた。
「ジェシカも…その…どうなの…?」
「………フィーリア、聞きたい?」
「えっ!?聞きたいような聞きたくないような…私はそういう免疫がないからどう反応したらよいかわからないの。」
「結婚前のレディがそういう免疫がある方が問題だと思うけど…そういうのは少しずつ育っていく物だからしばらくはジークフリード様に任せておいたら良いのじゃないかしら?さすがにジークフリード様なら節度は守ってくださるでしょうし、心配していてもなるようにしかならないわよ。」
フィーリアはジェシカの言葉にその通りなのかもと思った。
「フィーリア今日はねそれとは別にもう一つフィーリアに聞きたい事があったの。」
「もう一つ?」
「弟のルークの事なんだけど…先日の夜会の時に変な事を言っていなかった?」
「変な事?」
「あの子、昔からあまり他人に興味を持たない子だったのだけれど…珍しくフィーリアの事をとても気にいっていた様子で、本人は友達って言うけれど、フィーリアとジークフリード様の関係に水を差しやしないか心配になって…」
「それは…私は冗談だとは思っているけれど…
ジークも気にはしていたけれど、まだ気がおける友人としての関係だけれど私は友人として見ているから、心配するような事にはならないと思うわ。」
「それならいいんだけどね…もう一度ルークには忠告をしておくわ。」
「そんな、大袈裟な…
私にとってもジェシカの次に出来たお友達だからあまり大事にしないでね。」
漸くジークフリードとのすれ違いがなくなり、婚姻を結ぶまで穏やかな日々が過ぎていくと思っていたフィーリアであったが、少しずつ色々な歯車が動き始めている事にまだ何も気が付いてはいなかった。
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