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黒き獅子は天使に愛を乞う  作者: 一ノ瀬葵
本編

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第29話 追憶④ ー忍び寄る影ー

本文中に残酷な表現がありますので、苦手な方はお気をつけください。

 ジークフリードが鍛錬を終え王宮の庭園を歩いていると自分を呼ぶ声が聞こえてきた。


「ジーク!」


「フィー?」


 その声は三歳になったばかりのフィーリアの声であった。フィーリアはジークフリードの所まで来るとギュッと抱きついた。

 そんなフィーリアにジークフリードは穏やかな笑みを浮かべ頭を優しく撫でる。


「今日は王宮へ来ていたんだな。王妃様とのお茶会か?」


「うん!母様と王妃様は向こうでお話をしているわ。私はジークを探していたの。」


「俺を?」


「うん!ジークに会いたかったの。後、このご本読んで?」


「フィー、またその絵本持って来たの?ジークは今鍛錬の後で疲れているんじゃない?」


「レオン、お前も今日は来ていたんだな。」


「ジーク…疲れてる?」


「フィー大丈夫だよ。その絵本は向こうの四阿(あずまや)で一緒に読もうか。

 でも、その前に姿が見えなくなってしまったらカトリーヌ様に心配をかけてしまうからフィーリアのお母様に俺と一緒に四阿に行く事を言伝てからにしよう。」


「うん!」


「ジークはフィーに甘いね。」


レオン(お前)程じゃあないさ。」


「否定はしないけどね。フィーは可愛いからね。」


 三人で庭園にいるエリーゼとカトリーヌの元へ行くと、フィーリアはカトリーヌに満面の笑みで駆け寄った。


「母様っ!あちらの四阿でねジークがご本読んでくれるの。だからジークと一緒に四阿へ行ってもいいでしょう?」


「王妃様、カトリーヌ様御歓談中失礼して申し訳ありません。」


「ジークフリード殿下。もう武術の鍛錬は終わりましたの?」


「はい。今日の鍛錬は終わりました。戻る時にレオンとフィーリアに会いまして、少しの時間二人と共に過ごしても構わないでしょうか?」


「ええ。殿下が宜しければ、まだ(わたくし)達もお話の途中であるし構わないわ。カトリーヌも宜しいわよね?」


「勿論、構いませんわ。それよりも鍛錬後のお疲れの時にフィーリアが無理にお願いしたのではないですか?」


「自分は二人と一緒に過ごせる事が嬉しいですので大丈夫です。」


「ありがとうございます。フィーリアはジークフリード殿下の事を本当に慕っておりますから。

 フィーリア、殿下にご迷惑をお掛けしてはいけませんよ。」


「うん!わかっていますわ!」


「フィーリア、お返事は『うん』ではなくて『はい』よ。」


「ふふ。カトリーヌは作法には厳しいわね。」


「フィーリアはお転婆が過ぎて手を焼いております。」


 そんな和やかなエリーゼとカトリーヌのいる場所から離れ三人で王宮の広い庭園にある四阿へ向かう途中フィーリアがジークフリードの手をキュッと握った。その事にジークフリードは心が温かくなる気持ちを感じた。

 ジークフリードは時々会えるフィーリアが全身で表してくれる裏のない好意という感情に荒んでいく自分の感情をいつも癒されていた。


 四阿でフィーリアへ絵本を読んでいると視線を感じ視線を向けているフィーリアへ顔を向けるとフィーリアが嬉しそうに微笑む。


「フィーどうした?」


「ジーク大好き」


 その言葉にジークフリードも笑みを溢しフィーリアの頭を撫でる。


「俺もフィーの事を好きだよ。」


『好き』という気持ち。フィーリアが生まれたばかりの頃から知っていて成長する姿を近くでジークフリードは見てきた。

 フィーリアに対する感情は初めはレオンと同じように妹のような感覚の愛おしさだとジークフリードは思っていた。しかし、最近はこの『愛おしい』という感覚はどういう感覚なのだろうかと感じる事がある。

 まだ三歳のフィーリアであるが、この偽りのない瞳に癒される自分の気持ちがどこから来るのだろうかとその都度思っていた。



 その日の夕方ジークフリードは私室で、現在学んでいる事を復習しながら、自分なりにさらに掘り下げ学んでいた。少し一息つこうと顔を上げ休んでいると部屋の中で護衛として控えていたジェストが声をかけてきた。


「本日はご機嫌が宜しいですね。」


「機嫌?」


「ええ。いつもより表情が明るいようにお見受けします。」


「自分ではわからないけど…」


「先程、ウェストン家のご兄妹様方がいらしておいででしたからでしょうか。」


「まぁ、久しぶりに楽しくはあったかな。

 だけど、鍛錬では今日もロッソに勝てなかった事は悔しかった。」


「それでも、ロッソの指導は殿下に合っているようですね。力をつけるスピードが早いとのお噂を聞きますから。」


「ジェストはロッソと寄宿学院(パブリックスクール)からの同期だと言っていたな。」


「はい。ですから、彼の実力も知っております。ロッソは才能も身分もしっかりとしているので未だに役職に着いていないのが不思議なくらいです。たぶん彼の性格が災いしているのでしょうが…それでも、将来を約束された人間でありますから…羨ましくはありますね。」


「羨ましいって、ジェストも公爵家の息子で近衛騎士でも信頼されている立場だろ?」


「ええ。しかし、ロッソは侯爵家嫡男であって、自分は公爵家三男でありいくら公爵家出とはいえ跡目の継げない子息には貴族社会は厳しいものです。ですから立場はかなり違いますからね、殿下のように…」


「え…?」


「クリストファー殿下とジークフリード殿下は同じ王子でも立場はかなり違うでしょう?殿下と自分を重ねる事は不敬であると思いますが、それでも気にかかります。

 最近、ずっと悩まれていましたでしょう?クリストファー殿下とご自分のお噂に…」


「ジェストには敵わないな…でも、父上はその事は間違える事はないと思っているから、まだ安心できるんだよ。この国の王太子に相応しいのは兄上だとね。」


 そんな話をしていた時、ジークフリードの私室の扉がノックされた。


「殿下、お食事にございます。」


「入ってきて構わない。」


 扉から夕食を運んできて給仕するメイドの様子を見ながらジークフリードは広げていた教本や資料を片付ける。


「準備が整いましたので、これからお毒味をさせて頂きます。」


 夕食を運んできたメイドと共に入ってきていた女官がそう話しジークフリードに用意されていた食事を一口ずつ毒味を始めた。

 アリアの死から王族への毒味の工程は徹底された。どこに毒が仕込まれているのかわからない為、食器に食事を盛ってから直接毒味係が毒味をするようになったのだ。

 今日のジークフリードへ用意されていた食事も担当の女官が毒味を行っていく。そして最後のスープを口に運んだ時、その異変は起こった。

 女官が苦しみ出したのだ。


「……っ……グッ……」


「おい?どうした…?」


 女官は苦しみながら膝を付きそして仰向けに倒れた。喉を掻きむしるような仕種をした後、全身が痙攣を起こし口から泡を吹き出し動かなくなった。



 ◇*◇*◇*◇*◇


 国王の執務室には重い空気が流れていた。


「それで?ジークは無事なのであろうな?」


「はい。殿下が食事を口にする前でしたので変わりはありません。殿下の私室でそのような事が起きましたので別室で休んで頂いており護衛の数も増やしております。」


「そうか…後で様子を私も見に行くと伝えておいてくれ。下がっていい。」


「はい。畏まりました。」


 執務室には国王と宰相の二人きりになった所でジョゼフが口を開いた。


「今回は確実にジークフリード殿下を狙ったものですね…

 あれから三年以上経ち何故また今と思いますが…

 前回も毒を混入されたのは殿下が気に入っていたという果実水でした…黒幕が本当に狙っていたのは前回も殿下であったのかもしれません。」


「誰を狙ったにしろ許しはせぬ…」


 ウォルターは怒りを滲ませた声を発した。




ここまで読んで頂きありがとうございます。

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