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黒き獅子は天使に愛を乞う  作者: 一ノ瀬葵
本編

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第30話 追憶⑤ ー決意ー

 最近、漸くアリアの息絶える姿を思い出す事が減ってきていたジークフリードであったが、悪夢がまた蘇る。

 目の前で自分の食事を口にした毒味係の女官が死んだ。

 まだ八歳であるジークフリードの目の前でだ。

 女官が死んだ部屋を使う事は駄目だと言われ、ジークフリードの私室は移動された。

 新しい部屋でジークフリードは最悪の気分が晴れないまま数日がたった。

 今回の事件ではっきりした事。それはジークフリードにもすぐわかる事であった。


『自分の死を望んでいる者がいるという事』


 ジークフリードは自分のせいでもう目の前で人が死ぬ姿を見たくないと願っていたが、また悪夢が起こってしまった。


 自分が何をしたのだろうかと思った。自分の存在の何が犯人は気に入らないのだろうかとも思った。


 また同じ事が起こってしまったら自分は堪えられないかもしれないと感じ、そして一つの考えが思い浮かんだ。



 父である国王に話がしたいと願いを出す。

 その返事はすぐにジークフリードの手元に届き、ジークフリードは国王の執務室へ向かった。

 執務室前にいる護衛騎士に来訪を伝える。


「陛下。ジークフリード殿下がお越しになりました。」


「構わない。通せ。」


 国王の声に重い扉が開かれ、ジークフリードは正式な礼をとる。


「陛下、忙しい中時間をとって頂きありがとうございます。」


「構わない。ジーク頭を上げなさい。今は公務の時間ではないからいつも通りで構わない。

 それと、宰相以外の者は下がりなさい。」


 ウォルターはそう臣下達に伝えると臣下達は次々と部屋を出ていき、執務室の中にはウォルターとジョゼフにジークフリードの三人だけとなった。


「それで、ジークから時間をとって欲しいだなんて珍しいな。

 どうした?」


「なるべく早めに相談をしたかったので、急すぎるかとは思ったのですが…忙しい中申し訳ありません。」


「いいんだよ。普段からお前はあまり周りの人間に頼むという事をしないから、私は嬉しいんだよ。

 それで、相談とはなんであろうか?」


「毒の耐性を付ける為の訓練をしたいのです。」


「毒の耐性だと!?」


「はい。王家の者は程度の差はあれ毒の耐性を皆、付ける事になっていますよね?」


「そうではあるが、それはもう少し成長してからの事であって、そなたはまだ幼すぎる。」


「それもわかっています。しかし、もう嫌なのです。自分が原因で周囲の人間の命が奪われるのは…

 毒の耐性を付けたら、自分には毒味係はいりません。自分の身は自分で守ります。

 だから、父上お願いします。毒の耐性を付けさせてください!」


 ジークフリードの強い願い出にウォルターは言葉を詰まらせた。その時、横から言葉を発したのはジョゼフであった。


「殿下。毒の耐性を付けるとして殿下はどの程度まで付けようとお思いなのですか?」


「耐性が付けられる限界まで付けたい。」


「ジーク!何を言っておるっ!!」


「毒の耐性を付けるには苦痛は必ず付きます。しかも、殿下がお望みの限界までという事であれば命を落とすかもしれません。

 それでも、お望みですか?殿下にそのお覚悟はおありでしょうか?」


「ジョゼフっ!お前まで何を!?」


「陛下。殿下の考えは的を得ています。恐らく、今後も殿下は何者かに命を狙われるでしょう。それが、毒であるのかまた別の形であるのかはわかりませんが…

 毒の耐性を付ける事は王族の責務であることは陛下もご存知のはずです。その開始年齢が早い事は確かでありますが、無理ではありません。そして、殿下が望む限界までという程度も今の殿下が置かれている現状を考えれば妥当ではあるのでしょう。

 殿下。これは遊びではありません。他の学問を学ぶ事や武術の鍛錬とも全く違う域の訓練であります。軽い覚悟では絶対に耐えられるものではない事と死と隣り合わせの訓練である事もご理解の上でのお言葉でしょうか?」


 ジョゼフの言葉にジークフリードはグッと拳を握る力を強めた。


「覚悟なら出来ている。俺はもうこれ以上自分の目の前で自分が原因で他の人間が死ぬ姿は見たくはない!そして、母上を死に追いやった人間の思い通りにだってしたくはない。」


「殿下のお覚悟はわかりました。

 毒の耐性の訓練はウェストン家(我が家)で行いましょう。

 陛下宜しいですか?」


 ジョゼフの問いにウォルターは複雑な表情を浮かべる。


「……………。」


「陛下のお気持ちはわかります。アリア様を毒で亡くされジークフリード殿下が毒に関わる事に抵抗感がある事も理解は出来ますが…

 国王としては甘い考えではないでしょうか?ジークフリード殿下の今のお立場を国中の貴族達がどう見ているのかもわかっておいででしょう?それならば…答えは一つかと…」


「私の考えが甘い事はわかっておる。

 ジーク。これは国王命令として聞け。毒の耐性を付ける事は許す。だが、途中で生きる事を放棄する考えを持つ事は許さぬ。そして、完了したら必ずここへ報告に戻ってきなさい。」


「はい。わかりました。ありがとうございます。

 しかし…何故宰相の家で行うのでしょうか?」


「本来は王族の方の毒の耐性を付ける訓練は侍医を掛かり付けにしてどんな事態にも対応出来るように王宮で行いますが、殿下が今置かれている状況は誰に狙われているかわからない状況であります。それが、どういう意味かわかりますか?」


「え…?」


「訓練中に貴方の命を奪う事も簡単に出来るという事です。貴方がその毒に合わなかったという事故と見せ掛けて…」


「だから…ウェストン家?でも…何故…?」


「ジークにはまだ伝えていなかったな。

 ウェストン家は代々宰相を務めている家系であるが、もう一つ代々受け継いでいる役目があるのだよ。

 ウェストン家当主は『王の剣と盾』という二つ名で呼ばれているのだ。」


「王の剣と盾?」


「何か有事の際、国王が狙われた時に国王の手足となって動くという事だ。狙った者を調べ、時には裏で仕留めたりもする。だから諜報活動を行えたり毒物の扱いも詳しく武術にも長けていなければならない。そして、自分の仕える王には絶対的な忠誠を誓う存在である事。それがウェストン家だ。」


「我が家の人間の責務としても毒の耐性を付ける事となっているので、訓練を我が家で行う事には支障はありません。殿下には病気療養という形をとってもらい。殿下付きの者には別の任務や休暇を出す事とします。」


「信頼出来る者達でも?護衛も皆?」


「ええ。犯人を欺く為にはまず味方からとも言いますので…

 安心してください。我が家の警備は王宮に引けはとりませんので。」


 ジークフリードはそんなウォルターとジョゼフの話を聞いてふと思う。


「レオンも将来兄上の剣と盾になるという事か…」


「殿下はそう望んでいるのですか?」


「貴族達の噂は知っているが…王太子に相応しいのは兄上だと幼い頃から思っていた。」


「まぁ、それは陛下が決める事でありますし、立太子は十二の歳でと王国のしきたりで決められておりますので、その時にはっきりしますでしょう。」


 自分の言葉に父であるウォルターは何も答えず、宰相であるジョゼフの含みのある言葉に、ジークフリードは何とも言い知れぬ気持ちになった。


 次の日からジークフリードの厳しい日々が始まろうとしていた。







ここまで読んで頂きありがとうございます。

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