梨々香1
そうして私は転生した。
後輩の大好きな梨々香ちゃんに。
生まれてようやく物心着いたとき、鏡をみて私こんなに可愛かったっけと思ったのがきっかけだった。
でもまぁ、お母さんらしき人からりりちゃんと呼ばれるたびに違和感があったりしていたのですごい納得した。しかも梨々香ってまさかって思ってたけどこないだの婚約者の名前を聞いて確信した。
「やべぇ、私可愛い」
この世界で親から可愛い可愛いと言われるたびうちの親本当親バカだなぁ、って思ってたけど。違う。これマジで可愛いわ。確実に将来綺麗系の顔立ちになるわ。
前世もこんなに可愛かったらって思っていたらふと、こんなに可愛くなればあの人は私を愛してくれるだろうかと思った。
死んでなお、まだふとした時あの人のことを考える。こんな女々しい私は嫌だし、こんな私のまま梨々香を生きてはいけないと思う。この世界で梨々香を愛す人のためにも。
私が6歳だということもあるが現世のお母様は私をとても甘やかす。
前世の母も私が泣きたいくらい悲しい時、落ち込んだ時、何も言わずそばでバカな話をしてくれた。私の都合で死んで愛してくれた人達を裏切った、今頃母は私の死体の前でバカな話をしているのだろうかと思うとこれ以上なく悲しくなる。
「りりね、お母様が大好き!」
そう言って、強くお母様に抱きついた。
「あら、りりちゃん…お母様もよ!あなた!りりちゃんがこんなに可愛いの!もうお嫁になんて行かせたくないわ!」
こんなにも梨々香を愛している人から梨々香を取り上げてはいけない。
「りりちゃん、お父様は?お父様にもほら言ってご覧…りりちゃん!」
頬ずりは髭が痛いのでやめて欲しい。
私まだ6歳だけど?とも思ったが、この世界での私の家の立場を考えるとそれもあり得るのかもしれないと思った。
私の住んでいるこの世界は前世の私が住んでいた世界ではない。なんというかパラレルワールドという方がしっくり行く。
何故ならまず華族という平民より上の位がある、貴族みたいなものだ。うちの家は王家である皇家に次いで権力のある家で並ぶのは藤家くらいだ。
それからなぜか日本人ぽい名前なのにお父様の目は赤い。平民の目は黒いが、華族は皆黒ではないのだ。例えば皇家という王族に当たるところは皆深い藍色だし、私と同じくらいの藤堂家は緑だ。
そして何よりも魔力というものがある。
魔力は何も華族に限ってあるわけではない。誰にでもある。魔力と知力の高いものは偏差値が高いといわれるように魔力は努力で増えるのだ。ただ魔力の増やし方はなかなか独力でできることではないためやはり良い教師に教えを請える華族の方が魔力の高いものが多くなる。前世でも現世でも金がものを言うということだ、世知辛い。
「ただ婚約と言ってもまだお互いに若いから形だけのものだし、それに梨々香だけじゃなく藤家の子も婚約者になるから梨々香にもし好きな人が出来たなら婚約は解消してもいいんだよ」
ようは王家の血筋に魔術の優秀な椿家と騎士の一族の藤家、どちらを次のメインに据えるかの争いになるってことだ。婚約者を射止めた方の家が力を持つことになる。
流石に6歳の娘にその事実を知らせることはしないが、そもそも王家に嫁げば娘は安泰、何処の馬の骨とも知れない男に入れあげるような心配はしなくて済む上に家にとっては最高の権力を持てる。そりゃあ小さい頃から牽制し合うってもんよね。確か王族は皇家、王太子ってなんて名前だっけ?
「お父様、相手の方のお名前って?」
「皇家の飛鳥君だよ」